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「産道の通りをスムーズにする為に、小村さんの膣を拡張します。痛い時には痛いと言ってください。それとですね、気持ちいい時にはそれなりの返答をお願いします、よろしいですか?」
「……、こんなこと……、ぜったい許さない……」
泣き寝入りをすれば、そこで私の負けが決まる。
乱暴に犯されようが、気味の悪い道具や薬物でもてあそばれようが、私がこの陰湿な組織の存在を公表さえすれば、どれだけの女性が救えることか。
私は出来る限りの正義感を眼にたぎらせて、生意気な医師を睨みつけた。
「小村奈保子さん、僕があなたに出会えたことは一生の幸運です。ドクターとクランケのあいだに生まれる信頼関係、これを脳が勘違いして恋愛感情だと思い込んでしまうというのだから、女性とはつくづく愛に弱い生き物だと思いませんか?」
そう言いながら彼はトレイの上に並べられた器具を品定めすると、その中のひとつを潔癖な手つきで摘み上げた。
それはとても不潔な形をしていて、おそらく大人のレディスグッズの機能を備えているのだろう。
回転がどうとか、太さや素材がどうとか、いちいち胸焼けがしそうな説明をしてくれる。
それなのに私の下半身は処女を取り戻したように半熟に湿り、それでいてローズの蕾(つぼみ)みたいに陰唇をめくらせていた。
「呼吸を楽に……、そうです……、そうです……、入りますよ……、ゆっくり……、子宮に感じてください……」
「ああっ……、あっいふっ……、ふぅ……ふぅ……、あはぁんぁんぁ……」
許容範囲を超えたものが私の中に入ってきた。
『痛い』と『気持ちいい』のギリギリのところ、どうせならどっちかにして欲しい。そうじゃないと、どんなリアクションをしていいのかわからない。
「出血はないようですから、少し動かしてみましょうか」
彼は左手の器具を私の局部に挿入させたまま、右手でタッチパネルを操作した。
数え切れないほどのいやらしい視線が、私の生裸にチクリと刺さる。
こんな物で中を掻き回されたら、そんなの……気持ちいいに決まってる。
気持ち良くなったらエッチな汁もいっぱい出ちゃうだろうし、秘密にしておきたいことまで告白してしまうかも知れない。
私はどうしたら──。
そんな不安を瞳に浮かべていると、出海医師のスマートな指がまた画面をタッチした。
「イグニッション……」
彼が放ったその言葉の理解に苦しんでいると、通電を知らせる低い音が私の中で唸った。まだ動いてはいない。
「ケミカル……」
彼は教育実習の講師を気取って、まわりのスタッフに上から目線で目配せをする。
その時、静止していたはずの器具が前後に微動し、その柔軟な素材で私の膣をしごきはじめた。
「いっ……いいっ……、んんぅ……」
正直あせった。男性経験も少ない未開発な部分が、一瞬で液体になったみたいに溶かされてしまったのだ。
「開発部のにんげんに造らせた最新医療機器と連動するアプリの威力がこれだ、よく見ておくといい。デュアル……、トリミング……」
彼は私の体には指一本触れず、ただタッチパネルをたたいているだけなのに、レイプと言うにはあまりにも違和感のある反応を私はさらしていた。
「あっあっ……、だめあっうんっ……、ああっああっ……、やだ……んっくんっ……」
体験したことのないサイズの異物が、私の中で男性的な動作を繰り返す。
乗り物に揺られている感じ、ついでに気持ちいい。
「小村さんも調子が出てきましたね。これならすぐに排卵も促進されることでしょう」
真面目な顔をして、言っていることはめちゃくちゃだ。
産科医に股をひらくのは、歯科医に口をひらくのとはわけが違う。
そんなこと分かり切っていたはずなのに、結局残念な結果になってしまった。
本当にそうなのだろうか。いや、そうじゃない。
物足りなかった気持ちを満たしているのは、不妊治療という名のこの行為だ。
見れば佐倉麻衣さんもふくよかな自分のお腹をさすりながらも、私に同情の目を向けている。
「どんな気持ちなのか、本音で言ってみてください。それとも、自分で言うのが恥ずかしいですか?」
彼女に問われて、私は遠慮がちに頷いた。
「とても気持ちがいいと、そう言いたいのですね?」
私は熱っぽく「イエス」の意思表示をした。
そして彼女はその先の質問をまわりに聞かれることをはばかり、私にしか聞こえない距離で耳打ちしてきた。
「こんなところでイクのは恥ずかしいけど、イっちゃいそうでしょ?」
ふふっ、と可愛らしい女笑いをする彼女に、またしても私は首を縦に振るのだった。
私たち女二人の密かなやりとりが、分娩室のシリアスな雰囲気に花を咲かせたらしい。しばらく力の抜けた空気が漂った。それが彼女なりの気配りだ。
「男ばかりの職場では、なかなかこうはいきませんよ。佐倉さんの仕事に対する姿勢は、院長だって評価していますから」
そう言ってから、なにやら余計な話を持ち出してしまったという顔をして、出海医師は医者の面構えをつくりなおした。
「さてと、小村さんの気が変わらないうちに、やるべき事をやっておきましょうか」
「……?」
「僕の診るかぎりでは、あなたは30歳になってようやく理想のビジュアルを手に入れたようですね。顔も体も、それから女性器も見事なビジュアルです」
褒め言葉のつもりだろうか、私は軽く受け流したはずだったが、どうやら子宮と膣は彼に口説き落とされたようだ。
愛液の分泌量だけで両手が満たせるくらいに、あとからあとから流れ出てくる。
私の胎内から老廃物を搾り出すようにして、婦人医療のスペシャリストは器具のストロークを巧みにあやつる。
「スプーン……、トリック……」
さまざまなアプリケーションによって結合部を上手い具合に突き上げられるたびに、水分を含んだ音が部屋中にひびく。
気持ちが良すぎて、もうおかしくなってる。
自分的には「トリック」の先の読めない動きが好きだけど、ほんとうはもっと生々しい、男の人そのものがたまらなく欲しい……。欲しい……。欲しい……。
「ふんぅん……んんっ……、はっあっ……あぁ……あぁ……」
喘ぎ声が出るうちはまだ救いようがある。
でも私は変なスイッチが入ってしまって、息を吸っているのか吐いているのかもわからなくなっていた。
「オーガズムの兆候だ。類似の症状と間違わないよう、君らも気をつけるように」
女性が性的な絶頂に溺れていくメカニズムを、彼は指摘を交えながら研修医に教え込んだ。
フィットネスクラブで爽快な汗を流しているのかと思うほど、一滴一滴が私の肌の上でおどっていた。
「そうですね、一度このへんで楽になっておきましょうか。治療はまだ始まったばかりですからね」
出口の見えない快感に飲み込まれていく私に、淫らな審判が下された。
「マテリアル……、サージカルヒット……」
醜くほぐれた膣膜に新たな動きが加わり、女体のなかの温泉を掘りあてた器具は回転の切り換えを速めていく。
「あっあっあっ……、あひっ……あんあっ……ひっ……、う……嘘っ……、ひあうんっ……」
びちゃん、びちゃんと情けない音が歪(いびつ)な性器から聞こえてくる。
妊婦としてここに運ばれてきた時の私とはまるで正反対の素質を持った女が、分娩台の上で贅沢な接待を受けていた。
シスターがそうするように、私は胸の前で十字を切ったつもりでエロスの女神に祈りをささげ、甘い洗礼に身悶える巡礼者になりきった。
ちょっと待て、そんな女神様がいるわけないだろう、と冗談をしている暇もなく、窮屈な膣がわなわなと痙攣しそうになってきた。
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