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二人目の彼が私の両脚を高く抱き上げ、毛深い股間から突き出たペニスで私の下半身に穴をあけた。
「いやんっ、やっあっ、はっあっあん、あっいっ、いっくっ、いっくっ、うっ」
私はイった、思いきり。溜まっていたストレスも解消されてる……はずだった。
でも彼はまだ私をあきらめてくれない。
絶頂を終えた私の穴を休ませることなく、私のことをスケベな女だと言いながら挿入を速めていく。
私は彼のテクニックにまんまとはまり、ふたたび意識を絶頂までとばされてしまった。
たっぷりと注がれたザーメンがそこから漏れ出して、白いラインストーンのように床に滴る。
それでも私の体は休息のひますらない。
代わる代わるセックスの相手をさせられ、射精の受け皿になり、何度でもイく。
おかげでクリトリスもラビアもヴァギナも、わるい癖がついてしまった。
さんざんいじくりまわされた神経が過剰反応を起こし、かるくタッチするだけで腰が引きつり、イってしまう。
「小村さんの体質も改善されてきたようですね。少しずつ安産型の体にしていきますから、明日からもよろしくお願いしますね」
椅子に腰かけて見物していた出海医師が立ち上がりざまに言い、そのまま私の性器にキスをしてきた。
「へぁっ……、あっ……ふ」
いきなりのクンニリングスに、私は膣をゆるめて愛液を吹いてしまった。
彼がその体液を飲み込むとまた新しい体液が分泌される。
私はずっとオーガズムを感じたまま、彼の舌づかいに愛情が秘められているのではないかと勘違いするのだった。
さすがに喉が渇く。私の体の水分はほとんど下から出ていってしまったのだから。
痙攣する体をなんとか押さえつけて、私は飲み水の催促をした。
コップ一杯の水、それでようやく興奮が和らいだ。
こんなことがあと何日つづくのだろう──。
私の願いはただひとつ、愛する人の子どもを産みたいということ。
そして彼らは不妊治療の第一線で活躍する有能な医師団であり、あらゆる不妊患者から信頼される看護ネットワークも備えている。
今だってほら、明日からの私の治療について真剣にミーティングしているのだから、あとはその道のプロフェッショナルに任せておけばいいだけの話。
何日後かには彼に、篤史さんに良い報告ができるといいな。
「そしたらですね──」と主治医の彼が私に資料らしき紙を見せてきた。
「明日はまた、この開発されたばかりの婦人科医療機器『ヘラクレス』で、いくつかのアプリを試験的に組み合わせながら治療していきましょう」
そう、それは夕べ私が嫌というほどその威力を思い知らされた、人工的な快感を生み出す装置だ。
男性器型の挿入部を膣に挿しこみ、端末からアプリケーションを読み込んで操作するだけで、不快な痛みや痒みを感じることなく治療ができてしまう──そんなふうに説明書きがされている。
「ひとつだけ言い忘れていました」
彼は私の全身を隠すためにバスタオルをかけながら説明をつづける。
「今回、僕たちの医学研究に協力していただいている小村奈保子さんには、しかるべきところから多額の給付金が支給されます。ですから──」
「いいえそんな、私はお金なんて──。ちゃんと妊娠できて、無事に出産もして、普通の母親らしい生活ができればそれでいいんです。治療中はすごく恥ずかしいですけど、なんていうか、体から毒が抜けていくような感じがして、それから若返ったような気もするし」
「それはたぶんホルモンバランスが良い状態だということでしょう。女性が活き活きと輝いて見えるとき、たとえば恋愛や仕事に対して意欲が湧くことがありますよね?」
「はい」
「植物が花を咲かせるときに出すフェロモンに似たものを、そういう女性の体からも分泌されていると聞きます。僕があなたに興味を抱いてしまうのも、おそらくそのせいでしょう」
彼に真正面から見つめられて、私は動揺を隠せずに視線をそらした。
そしてシャワーを浴びるために分娩台から降りると、看護師の佐倉麻衣さんに付き添われて浴室に向かう。
あれだけ体力を消耗したというのに、お腹まわりの筋肉だけはまだ躍動して熱が冷めずにいた。
汗を流してパジャマに着替えた私は、病室のベッドのやたらと硬い布団に腰かけているところだ。となりには佐倉麻衣さんがいる。
「──以上が明日のメニューになりますけど、なにか質問はありますか?」
「あの、佐倉さんって何歳ですか?」
ふふっ、と品のある笑顔を見せる彼女。
「もう33です、若づくりして騙さないと外も歩けないですよ」
「うらやましすぎます、妊娠してなかったら男の人が放っとかないですよ」
「だといいんですけど」
あ、と私は思い出した。それを彼女に確かめてみようとした時、私より先に彼女が口をひらいた。
「小村さん、誰かがあなたを訪ねてくると思いますけど、その人には会わないでください、絶対」
「誰かって、誰です?」
「それは──」
意味深に口ごもる彼女。そして──。
「ホームレス」
確かにそう言った。
え、なに、この感覚、やだ。
右脳と左脳がおかしな情報処理をしている。
バイパスを交流しながら記憶と記憶がひとつに繋がろうとしているみたい。
あれは確か、花屋の店長の名見静香さんから聞いた話だ。
ホームレスらしき人物が私に面会したいと、そういうことだった。しかも私の自宅マンションに現れた人物も、そのホームレスの彼である可能性が高い。
女子高生の愛紗美ちゃんは誰も見ていないと言うが、彼女を痴漢から救った直後だということもあるし、会わずに済むなら会わないほうが良さそうだ。
「わかりました。でも、佐倉さんはどうしてその人のことを知っているんですか。まさか同業者?」
「そんなところです」
多くは語りたくない、そんな様子だった。
「小村さんがさっき言いかけたことは、なに?」
頭の中で話を巻き戻して、私は彼女に尋ねた。
「愛紗美、って名前に聞き覚えはありますか?私が治療を受けていたあの部屋に、その子、愛紗美ちゃんは高校生なんですけど、彼女に似た人がいたような気がするんです」
「さあどうでしょう。確かに研修生の中には女の子もいましたけど、私にはわからないです、すみません」
「いいえ、私の見間違いだったかも」
あの子はほぼ間違いなく愛紗美ちゃんだった。こんがらがったものを少し整理しなければ、ここから先には進めない気がした。
昨日……いや、もっと前かもしれない。この病院に搬送されてから今日までの出来事を、早送りで思い出してみた。
するとどうだろう。途中で記憶がスキップされていたり、気がついた時にはもう別の記憶にすり替わっていたりして、肝心なところにぽっかりと穴が空いてしまっているのだ。
埋まらない穴は埋まらないままで、それでも私はこうしてここに居る。
夢でも現実でもない、つくられた空間に閉じ込められたアバターとして存在しているように。
「そういえば小村さん、あなたの恋人の彼、篤史さんといいましたっけ?」
「彼がなにか?」
「あなたが不妊治療に踏み切ったのは、彼の薦めがあったからじゃないですか?」
「ええ、そうですけど、どうしてそれを?」
「私からは何も申し上げられませんけど、そのうちきっと彼の口から聞くことができると思いますよ」
「彼のことを知っているんですね?」
「よく知っています。なぜなら彼は──」
佐倉麻衣さんがそこまで言うと、病室のドアの向こうから携帯電話の着信音がピリピリと鳴っているのが聴こえた。
私と佐倉さんは動作をシンクロさせて、ドアの外の気配に視線をそそぐ。
そこにいる『誰か』は着信音を鳴らしたままドアを開け、くびれのあるシルエットを私たちの前に見せた。
「やっぱり」と私は確信を得たつぶやきを漏らした。
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