Ⅲ
森の中の小さな小屋。外観は猟の時に使う小屋のようにも見えるが、中は綺麗に整えられ、床はフローリングで塵ひとつ落ちていない。
男は満足そうに小屋の中を見回した。
この場所は私に全てを与えてくれる。そういう意味ではあの男に感謝してもいいだろう。
男は小屋の中に入るとカギを締めてさらに南京錠をとりつけ、小屋の中にぽつりと置いたベッドに横たわると昨日の自分の仕事について考えた。
完璧だった。私の姿は誰にも見えない。その気になれば誰にも気付かれずに街中で獲物を仕留める事もできるだろう。だが、私はそんな真似はしない。自分の能力を誇示するのは馬鹿な連中のすることだ。
それよりも、先ずはあの女だ。頭の弱いあばずれだが、私の最高の遺伝子を受け入れると少しは人間らしくなるだろう。
男はほくそ笑むとぼんやりと宙を見ていたが、ゆっくりと起き上がり、むきだしの白い足を投げ出したまま、気を失っている女の手首と足首を鎖につないだ。
しばらくすると小屋の中から静寂は消え、肉をむさぼる淫猥な音が数時間も続いた。その間中、女のくぐもったような悲鳴が途絶える事はなかった。
Ⅳ
ようやく空が明るくなりかけた頃、なつきは飛び起きると着替えも顔を洗う事もせずにリビングに飛び込みテレビのスイッチを入れた。
まだニュースはしていない。アナウンサーなのかタレントなのか分からないような人が、天気予報のオジサンと今日の天気について話しているだけだ。
ほぅっと小さく可愛いため息を吐き出すと、なつきはノロノロと洗面台に向かった。
あれから毎日のようにおかしな夢を見る。妙にリアルで匂いや手触りまで、起きている時に感じるそれと大差がない。
朝の早い時間になると息苦しくて目が覚めるし…今日はおばあちゃんの話を聞いたら、私の話も聞いてもらう事にしよう。
そう思うとなつきの胸は軽くなり、もう一眠りして昼を過ぎてから祖母の家へと向かう事にした。
※元投稿はこちら >>