ついてないと思った。押しの強いガキどころか、こいつは絶対頭がおかしい。
「コンビニ行って道を聞いた方が早いぞ」
口早にそう言うと、俺はそのまま派手なネオンで飾られたパチンコ屋へと向かった。が、ものの見事に20分で財布が空になる。
「本当についてないな」
あのガキのせいだ。大人気なくさっきの子供のせいにして店を出た。子供の姿はなかった。
金もないし、する事もないのでこの日は部屋に戻るとカップ麺を食べて寝てしまった。もうずっと長い間こんな毎日が続いているような気がする。
Ⅱ
今日も丸い輪が、目の前をふわふわと流れていく。不思議な事に私の目には、人に理解されない色んな物が見える。カラカラと空を舞ってくっついたり、離れたりする分子。
容器の中に押し込められた液体の分子達の運動。
フィボナッチ数を美しいと感じたのは9歳の時。
そして、人の顔を見てると数字やイメージが見える事がある。私の両親はそれを才能だと言って喜んでくれたけど、分子のイメージや人の事はあまり言ってはいけないと諭された。
「なっちゃん電話~。おばあちゃんからよ」
お母さんの呼ぶ声に大きな返事を返すと、私は急いで階段を駆け降りて受話器をとった。
「なつきちゃん?ちゃあんと勉強してる?学校の勉強も大事よ」
「うん。分かってます。今日はその話?」
最近学校の勉強の手を抜いている事をお母さんから聞いたのだろうと思うと、少し気が滅入る。
「違うの。来週おばあちゃんの家に遊びに来ない?少し話しておきたい事があるの」
穏やかにゆっくりと話す。祖母はいつもこんな風だけど、今日はさらにゆっくりと話した。
私は、来週会いに行く約束をすると受話器を置いた。なんとなく変な感じがする。
そしてこの日、私はとても嫌な夢を見る。どこかの林の中でぼんやりと立っていると、雨の滴が枯葉に落ちる音だけが聞こえる。しばらくすると男の人が歩いてきて、ガサガサと大きな穴を掘り始めた。
ただそれだけの夢だったけど、目が覚めると冷や汗をかいていて、誰かに見られているような強迫観念にとらわれ、中々寝付けなくなってしまった。
今思えばあの瞬間から、私達は目に見えない何かで繋がってしまっていたのかもしれない。
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