「ひとが優しくしてやってんのに、な、なんだよこの手は。ボ、ボ、ボタン引き千切るぞいいんかあっ!?」
目の前で怒鳴られて、つい、目を合わせてしまった。真っ赤に充血した目。小動物の素早さで動く瞳。何をし出すか分からない危険な色。蛇に睨まれた蛙みたいに固まっている間に、留めてあった物は外され、閉めてあった物は下ろされた。
こんなところ誰かに見られたら、なんて思われるだろう。その事がまず頭を過った。誰かに助けてほしいけど、誰も来ないことを祈る。こんな格好をしているところを見られたら、私はもう生きていけない。
「ほ、骨と皮しかねぇじゃねえかよツマンネー体しやがってテメエは! 馬鹿にしてんのかよ!」
「す、すいません……」
なんで謝ってるんだろう私。再び涙が込み上げて来た。
「お願いです……ひっく……もう、許してください」
引ったくるように奪われるブラウス。スカート。そして下着。
「へへ、どど、どうだ、こんな店ん中でスッポンポンにされた気分は」
「は、恥ずかしいです」
もう私を守る布は何もない。
「ヒ、ヒハハハ、オメェみてえな馬鹿店員にゃ、その格好が、お、お似合いだぜえ!」
そう言うとオヤジはドアの方へと歩いて行った。開いた自動ドアから、荒れ狂った風と地面を叩きつける雨の音。その手には私の服や下着が握られたまま。
「ふ……服……」
床を舐める風が細枝やビニールを連れて店内へと流れ込む。霧のような飛沫が私の顔を濡らした。オヤジは傘もささずに暴風雨の闇へ。
「そ、そ、そんなツマンネー体にゃぁ、ふ、服なんて必要、無ェだろ、ハハハハ!」
立ち上がって店を飛び出せば横殴りのシャワー。街頭の下にだけ見える台風の中、狂ったように笑うオヤジ。その手から放された私の服は、少し飛ばされ飛沫立つ地面に着水した。
一面の水溜まりでアスファルトと歩道の境も分からない。バシャバシャと水を跳ね上げながら服を拾いに駆け付ける途中、私は何かにつまづいてしまった。
背中を叩く雨と共に、笑い声が降り注ぐ。髪も顔もびしょ濡れで、鼻先へと伝う雨と混ざった涙が流れ落ちる。色んな感情から逃げるために、どうでもいいやって思うようにする。
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