やっぱりイカレてた。イカレてたら話なんて通じない。私は本気でヤバいと思い始めた。どうしたらいいのか解らない。怖くて膝の震えが止まらない。
「お、お前本気で俺を怒らせたら、ど、どうなるか解ってんのか? なぁ、早くパンツ見せろっつってんだよ!」
とにかく帰って貰わないと。そう思ってわたしは狭い店頭で土下座をする。レジの影に隠れる形になった私に頭の上から、怒鳴り声が振りかかる。
「やっぱりオメェ、バ、バ、馬鹿にしてんだろ! そんな所で土下座したって、全然見えねえじゃねぇか。誠意ってもんが、これっぽっちも見えねえよ!」
店頭から店内に出たらヤバい。カウンターの内側ならば安全。と、思っていたけど、よく考えてみたらこんな細やかな安全地帯、意味無いかも知れない。だって他に誰も居ないんだから。
「も、もぅ土下座なんかじゃ気が収まんねぇよ! お、お、俺だってこんなに、怒鳴りたくねぇよ! 嫌な客だって思ってんだろ、ああ? こ、こ、こンだけ俺に恥かかせてんだからよ、テメェにも恥かいてもらわねぇと、気が済まねぇぞ!」
言ってることが支離滅裂だ。涙がボロボロとこぼれてきた。誰も助けてくれない。警察呼んでも来るまでの間に何されるかわかんない。どうしたらいいの? 防犯カメラはあっても、今日はいつも裏で控えている交代の佐藤さんは休み。逃げ出したいけど、レジのお金そのままにして逃げるわけにもいかない。
「オラ! 俺が本気で怒る前によ、は、早く見せろよ!」
私は震える手でエプロンの端をギュッっと掴んだ。手も膝もガクガクと震えている。喉がカラカラに渇いて、唾を飲み込むと息が詰まる。カウンターの上のプリペイドカードのサンプルが滲んで見える。
「テメェ俺の事馬鹿にしてんだろ? なぁ、どうなんだよおお」
首を左右に揺さぶるのに精一杯だ。声が出ない。今、この状況から抜け出せるのなら。いっときも早くこのイカレたオヤジが消えてくれるのなら。
少しスカートを捲ってみせた。膝が顔を覗かせ、そして腿が。
「早くしろよ!」
「…………!」
その瞬間、私がこのおかしな生き物より程度の低い生き物になってしまったような、そんな気がして涙が止まらなくなった。
「な、なんだよ、つまんねぇパンツ履いてやがってよぉぉ、ふざけんなよぉぉぉ」
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