「別に金返せって言ってんじゃねぇんだよ、一口でも食っちまったんだからよ。それより腐ってるもん食わされたんだよ、そこんとこ、ど、どう責任取ってくれんだよ! 金返しゃ済むって思ったら大間違いなんだよ!」
「すいません……」
不快感と恐怖に下を向く。心拍数が吐き気を伴って上がる。この変な人を直視しているのは、とてもではないが耐えられない。
「おい、し、信用してねぇだろ。なぁ、信用できねぇってんなら、食ってみろよ!」
目の前に置かれたおにぎりは無残にも崩れ、歯型らしきものも辛うじて残っている程度で、私はただその醜い食い残しを眼鏡越しに眺めているしかなかった。
店長は家に帰ってしまった。こんな片田舎のコンビニには強盗も来ないだろうと、私一人に店は任されている。客が一人も来ないくらいなんだから強盗なんて来る訳がない。なのに、こんなオカシイオヤジが来るなんて。外は嵐。誰も来ない。
「おら、く、食ってみろよ!」
梅肉のはみ出した海苔と米粒の塊が、爪垢が溜まって薄汚れたオヤジの手に握られて私の顔の前に突き出された。嫌な臭いはおむすびよりもむしろその手から立ち昇っているんだと思う。
「し、し、信じてねぇんだろが、あ?」
怒鳴り散らし続けるオヤジ。私は顔を背けて、ただすいませんすいませんと繰り返すしかなかった。金を返すから早く出て行ってほしいのに、ひたすら詫びろだの馬鹿にしてるだろうだので、何を言っても無駄な気がしてきた。。なんだか悔しさよりも情けなさで悲しくなって、涙が出そうだ。
「ど、土下座しろよ! 土下座して謝れよ!」
私は何も悪い事してないのに、なんでこんな失業して昼間から酒飲んでいそうな、ハゲで浮浪者の一歩手前みたいな、一週間以上風呂にも入って無くて歯も磨いてないような、臭くて頭のイカレたオヤジに土下座しなくちゃならないんだろう。外は相変わらず激しい雨音。誰か他の客でも来てくれればと思うけど、自動ドアは静かに黙ったまま。
「店員だろうが。きゃ、客に土下座も、できねぇのかよ!」
「すいません、本当にすいません」
「どどど、土下座が嫌なら、パ、パンツ見せろ! 今ここで!」
「……は?」
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