電車に揺られてやっと駅についた。
美空ちゃんが隣にいてくれて助かった。
凄く辛い・・・。
駅でタクシーを拾う。
「県立病院までお願いします」
お母さんはお金をたくさん持っている。
それなりの設備の整った病院に入ったらしい。
会話ができない。
話が思い浮かばない。
押し潰されそう。
「春、私がいるから・・」
ギュッと手を握ってくれた・・・。
「ありがとう・・」
「もっと頼っていいよ・・」「うん・・」
美空ちゃんの微笑みが唯一の救いだ・・。
病院についた。
病室の番号は知ってる。
エレベーターに乗る。
重苦しい空気・・。
耐えられない。
3階についた。
一歩進む。
もう一歩。
病室の前に来た。
立ち止まる・・。
「美空ちゃんは待ってて」
「うん・・」
扉を開けた。
お母さんがいてお姉ちゃんがベットで寝ていた。
僕は・・。
一歩進んだ。
「春・・・」
お姉ちゃんが僕を睨んだ。怖い・・凄く怖い。
酷い事された・・。
「お姉ちゃん・・」
「なによ・・ざまあみろとか思ってる?」
吐き捨てるように言った。元気はない。
凄く痩せている。
「思ってない・・」
「ふんっ・・・」
そっぽを向いた。
本当に僕の事が嫌いなんだな・・。
「凛、仲直りしよ・・」
「嫌よ・・」
お母さんは困っている。
気まずい空気・・・。
会話もない。
「お姉ちゃん・・ごはんは?」
「食えるわけない・・」
どうしたらいいんだろう。僕は・・・。
「お母さん、二人にして」
「春ちゃん・・」
「お願い・・・」
「・・・分かった」
お母さんが出ていった。
椅子に座る。
「何よ・・私の事恨んでるんでしょ?」
「恨んでる・・」
「・・・ふんっ」
「でもお姉ちゃんのおかげであの場所に行けた。たくさん友達もできた」
「・・・・」
「僕、お姉ちゃんに笑ってもらう」
「黙れ・・笑える訳ない」
お姉ちゃんは凄く怒ってる・・・。
何とか・・笑わせたい。
「明日も来るから」
「来んな・・・」
「絶対に来る・・」
「・・・」
病室を出た。
お母さんと美空ちゃんが話していた。
「春ちゃん・・いい友達だね」
「うん・・」
美空ちゃんは壁によりかかっている。
「お母さんはどうするの?」「泊まり込みしたいんだけどね・・・帰らなきゃ」
僕はホテルに泊まる予定だった。
けど気が変わった。
「僕も帰るよ」
「春ちゃん・・」
「美空ちゃんはどうする」
美空ちゃんは目で答えた。僕のそばにいてくれる。
先に家に帰った。
久しぶりに見るマンション・・・。
「春はここで育ったんだね・・」
「うん・・」
エレベーターに乗って部屋に向かう。
家はどうなってるかな。
部屋の鍵を開けた。
変わらない・・・。
何も変わらない・・。
「あがっていいよ・・」
「お邪魔します・・」
キッチンを見る。
ちゃんと片付いている。
使った後はない。
「美空ちゃん、あっちで待ってて」
「うん・・」
とりあえずお茶を入れよう
お湯を沸かす。
「春っ・・」
抱きつかれた。
優しくて・・柔らかい。 「大丈夫?」
「うん・・美空ちゃんがいてくれたから」
お湯が沸いた。
手が震える・・・。
ヤカンを持てない。
美空ちゃんが僕の手の上にそっと手を重ねてきた。
二人でヤカンを持った。
二人で急須にお湯を注いだ
テーブルでお茶を飲む。
美空ちゃんがいなかったらどうなってたんだろ。
特に会話もなく時間が過ぎる。
ただ美空ちゃんが手を握ってくれていた。
夜になりお母さんが帰ってきた。
疲れはてている。
「ただいま・・」
「お母さん、夕飯作ったよ」「・・・うん?うどん・・」「お母さん好きだったよね」「・・うんっ」
笑ってくれた。
僕も食べた。
やっと落ち着いてきた。
「春ちゃん・・お母さんは何もできなくて・・ごめん・・」
「いいよ、何もできなくても・・僕はお母さんの子供じゃない・・」
「・・・・・」
お母さんがうつ向いた。
「でもね・・お母さんなんだよ・・育ててくれたお母さん・・」
「春ちゃん・・」
「お母さん、ありがとう」
それを聞いてお母さんは泣いてしまった。
僕は嘘をついた。
凄く嫌い・・だけど今そんな事言えない。
とてもじゃないけど。
言えない・・・。
久しぶりに入る自分の部屋・・。
ベットと布団が敷いてある「美空ちゃんベット使っていいよ」
「春・・・」
「僕は布団でいい・・」
美空ちゃんが僕のパジャマの袖を掴んだ。
「一緒に寝よう・・」
「美空ちゃん・・」
「春を抱き締めて寝る・・そうしたい」
「ありがとう・・」
一緒にベットで寝た。
ドキドキするけど。
疲れてしまった。
「春・・おやすみ」
「うん・・おやすみ」
目を閉じた。
いつの間に寝てしまっていた。
翌日も病院に行った。
お姉ちゃんは僕を見ようとしない。
「お姉ちゃん・・これ」
僕はカバンからタッパを取り出した。
「おにぎり作ったから・・食べて」
家にある炊飯器で炊いて。家にある塩で握ったおにぎり。
僕がお姉ちゃんのために一番よく作った食べ物。
タッパをわきの机に置いた・・・。
お姉ちゃんはそれを掴んで僕に投げつけた。
「そんな物・・いらない」
僕は拾ってまた机に置いた「食べたくなったら・・食べてね」
僕は病室を出た。
お姉ちゃんは僕がいるとイライラするだろうから。
美空ちゃんが待っていた。「春、もういいの?」
「うん、明日また来る」
その日は帰った。
次の日また病院に行った。病室に入るとお姉ちゃんは背中を向けて寝ている。
タッパのおにぎりは無くなっていた。
「お姉ちゃん・・」
「まずかった・・」
「うん・・また持ってきたから食べてね」
「・・気が向いたらね」
その日も帰った。
次の日もその次の日もおにぎりを持ってお見舞いをした。
お姉ちゃんの雰囲気がだんだんと変わってきた。
僕を見ても睨まなくなってきた。
だんだんとそれが嬉しくなってきた。
少し話もしてくれる。
「春、友達はどんな子?」
「来てるけど・・会う?」
「うん・・・」
廊下に待っていた美空ちゃんを呼んだ。
お姉ちゃんは美空ちゃんを見てため息をついた。
「春・・こんな可愛い子、友達にできたんだ・・」
「うん・・」
しばらく話した。
今までで一番喋った。
もう消灯時間になった。
「お姉ちゃん、そろそろ帰るね」
「うん・・・」
「じゃあね、明日もおにぎり持ってくるから」
病室を出ようとした。
「春・・・」
「なに?」
「おにぎり・・美味しかったから・・一個多めに作って・・」
うつ向いている。
けど・・嬉しかった。
「うんっ、分かったよ!」
もしかしたらお姉ちゃんは治るんじゃないかな。
食用も出てるし。
そう思った。
次の日。
お姉ちゃんは・・。
もう動かなくなった。
ベットで胸におにぎりのタッパを抱えたまま。
笑っていた。
凄く幸せそうに・・。
僕のおにぎりを楽しみにしてくれてたんだな・・。
最後の最後に見せてくれた笑顔だった・・。
お葬式にはたくさんの人が集まった・・。
美空ちゃんには先に帰っていいと言ったけど。
そばにいてくれた。
おにぎりを作った。
家で作って持ってきた。
お皿に乗せて備えた。
「お姉ちゃん・・・」
最後に笑ってくれた。
嬉しかったよ・・・。
「春ちゃん・・」
お母さんが後ろにいた。
「お母さんはこれからどうするの?」
「おじさんにね・・結婚しようって言われたの」
「そっか・・よかったね」
「春ちゃんは?」
「僕は・・」
お母さんには悪いけど。
帰らなきゃいけない。
「あの場所に帰るよ」
「そっか・・」
お母さんが頭を撫でてくれた。
ゆっくり微笑んだ。
僕は帰らなきゃいけない。やらなきゃいけない事がある。
美空ちゃんに・・想いを伝えないと。
頑張って一歩踏み出すよ。
見ててね・・お姉ちゃん。
転ばないように気をつけるからさ。
転んだらまた笑ってね。
頑張るから・・。
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