今日はいよいよお祭り。
利奈さんが神楽を踊るみたい。
どんなのかなぁ。
楽しみ。
「さ、春くん着物着て」
利奈さんがニコニコしながら迫る。
「着物・・好きでしょ?」
「うーん・・」
今女装が好きになりつつある・・。
どーしよー・・・。
で、着てみた。
かつらは前の長い黒髪。
「おっ、着付けも慣れたね」「まぁ・・何回か着たから」そう・・何回か。
自分で。
着てしまったのだ。
着物は落ち着いた感じの柄だ。
気持ちも落ち着く。
「はい、これでいいね」
「あぅ・・」
「私の親戚って事にしとくから」
「うん・・・」
人前に出るのか・・。
やっぱ恥ずかしいな。
でもムクムクと心が変わっていく。
小悪魔に・・。
ニョキッと角が生えた気がする。
「うんうん、春くん可愛いよっ」
「あは、ちょっと誘惑しちゃお!」
「ははっ、がんばれ!」
鏡を見た。
もう少し武器を持つかな。団扇。
巾着袋。
花のかんざし。
などなど・・・。
これは自分で買った。
僕の行く末が心配だ・・。
少し出掛けよう。
廊下を歩く。
袖をフリフリ。
心はノリノリ。
下駄を履いて限界の戸を開けた。
「わっ、春・・出かけるの?」
「うんっ、いってきます」
美空ちゃんがキョトンとしてる。
「春、私も・・」
「お願い・・一人になりたいから」
「・・・うん」
美空ちゃんはしゅんとした
僕は美空ちゃんを避けている。
あのエッチをしてるのを聞いたら心が・・折れてしまった。
もう・・叶わない。
諦めようって。
友達のままでいいって。
神社を出た。
ドッキドキする。
女装面白いっ!
みんな見てるし・・。
僕は声も高いからぜったいにバレない。
上品に歩いてみる。
巾着袋を持ってふらふら。浴衣姿の人がたくさん。
やっぱりお祭りにはたくさん人が来るな。
男の人の視線が・・。
なんかいいなぁ・・。
もう女装好きになっちゃった・・。
歩き方もいい感じ。
ルンルン・・・。
遊さんだ。
誘惑してみよっかな。
どうせバレないし。
僕を見た。
近寄ってみる。
「あれ?春、何してんの?」
グサッ。
体が強ばって何も言えなくなった。
「だ、だあれ?」
「春はそういう趣味だったのか・・」
遊さんに抱きつく。
周りの目線が怖い。
こっそり話す。
「あ、あのっ、内緒に」
「別にいいけど・・・」
「何で分かったんですか?」「勘かな・・・」
「ふぇ・・・」
遊さんから離れた。
周りがざわざわしてる。
遊さんは僕の頭をガシガシ撫でた。
かつらがずれるかと思ったけど全然大丈夫だった。
「じゃあな!」
「あ、はい・・」
浴衣着てるからお祭りに来るのかな。
はぁ・・心臓に悪い。
商店街を歩く。
みんなに見られる・・。
楽しいなぁ・・。
駅まで歩いた。
もう日も落ちそうだ。
少しのどが乾いた。
マックがある・・。
抹茶シェイク飲みたいな・・・・。
お店に入った。
あんまりお客はいない。
「すみません、抹茶シェイク一つ」
「はい、少々お待ちください」
ここでも見られてるーっ!こんなに楽しいのは初めてだ。
料理なんかより・・・。
楽しい・・・。
そんな訳ない・・。
抹茶シェイクを受け取って外に出た。
ベンチに座る。
「ねぇ、美空ちゃんは・・」
いないんだった・・。
隣には・・。
僕は一人きり。
抹茶シェイクを飲んで少しポケーッとする。
「ねぇ、今美空っていった?」
「はい?」
振り返った。
すっーごい美人・・。
黒髪の女の人。
「あ、はい・・友達です」
「そっか、その子に会わせてくんない?」
「えと・・怪しい人?」
女の人は苦笑した。
「ごめんごめん、ちょっと訳ありでね・・隣いい?」
女の人が隣に座った。
凄い美人・・・。
18歳くらい?
「おいしい?」
「・・はい・・」
「はは、怖い?」
ニコッと笑った。
なんか優しそうな人。
「君、可愛いね・・ヨダレたれそう」
けど変態っぽい。
「和服美少女か・・たまらんっ!」 「今日はお祭りですから・・美空ちゃんは神社にいます・・」
「へぇ・・じゃあちよっと付き合ってよ」
「・・・はい?」
なんか付き合わされた。
女の人の後ろを歩く。
「なつかしい・・」
「前に住んでたんですか?」「まぁね・・」
結構歩いた。
前に来た・・あの家だ。
美空ちゃんが前に住んでたって家。
「はぁ・・おばちゃん・・ごめんね」
「・・・・?」
また歩き出した。
少しつかれてきた。
息が切れる。
「疲れた?」
「はひ・・」
「おんぶしたげる!」
「いいです・・」
「遠慮すんなっ!」
おんぶしてもらった。
髪・・いいにおい。
さらさら・・・。
もうお祭りは始まっていた太鼓が鳴っている。
みんな見てる。
「も、もう歩けます」
「そっか・・」
着物を整える。
たくさんの人・・。
ちらちら見られる。
なんかいい気持ち。
夜店が来ている。
焼きそばのいいにおい。
美空ちゃんと美月くんが手を繋いで歩いていた。
やっぱり・・無理だな。
壊すことできない。
僕は付き合えない。
あきらめるしかない。
「美空ーっ、美月ーっ!」
女の人が叫んだ。
二人が振り返った。
凄く嬉しそうな表情になった。
二人が駆け出した。
僕には目もくれずに。
女の人に抱きついた。
「ママッ!」
「あやーっ」
顔を擦り付けている。
お母さんか・・・。
いいな・・・。
「遅すぎるから迎えに来たよ・・帰ろう」
「うんっ・・」
帰るのか・・・。
お別れ・・か。
僕はお邪魔だな。
スタスタと歩く。
利奈さんが神楽を踊っていた。
綺麗・・・凄く綺麗。
練習見せてくれなかったから余計に・・凄く感じる。じっと見てしまった。
これは惚れちゃうな・・。
夜店で焼きそばを買った。石段に座って食べる。
僕は・・一人?
美空ちゃんがいないと・・一人きり・・。
友達ができたのは美空ちゃんのおかげじゃないか・・僕は何も変わってない。
胸が苦しくなる。
寂しい・・・。
「春くん・・?」
「お姉ちゃん・・」
「暗い顔してどうしたの?」「僕・・分かんなくなった」利奈さんが隣に座った。
「春くん、お祭りだよ・・暗い顔しちゃダメ」
僕の手を握ってくれた。
「うん・・」
「さ、お祭り楽しもう」
「うんっ」
手を引いてくれた。
利奈さんとお店をまわる。巫女服から浴衣に着替えたみたいだ。
「利奈ちゃーん」
「あ、綾さんっ」
知り合い?
綾さんは僕を見た。
「利奈ちゃんに妹いたっけ?」
「あは、この子は私の親戚なんです」
祭りが終わってから大体の事を聞いた。
そして僕が男の子だって事も話した。
「ま、まじ?・・・君は男の子?」
「はい・・」
「信じらんない・・美月ぐらいきゃわいい子がこの世にいたとわ・・」
「あ、あは・・・」
綾さんは迎えに来たらしい・・。
美空ちゃんはその方がきっと幸せなんだ・・。
きっと・・・。
お祭りが終わって後片付けをしてる。
美空ちゃんと美月くんが荷物を持っている。
「じゃあお世話になりました」
美空ちゃんはうつむいている。
帰れるのに悲しいの?
「さ、帰ろう・・」
三人が歩いて行く。
僕は・・我慢しなきゃ。
美空ちゃんは美月くんが好きだから。
僕は好きになっちゃだめ。
ダメ・・なんだ。
手を振って見送った。
「帰っちゃったね・・」
「はい・・」
利奈さんも寂しそうだ。
僕は・・なんかよく分からない気持ち。
悲しいし・・。
別れたくない。
けど我慢してる。
押し殺してる。
追いかけて引き留めたい。けどダメだから・・・。
「春くん、お家入ろう」
「うん・・」
もう後片付けが終わってガランとしてる。
トボトボ歩く。
あっけない恋だった。
けど・・素敵な時間。
夢を見たんだ・・。
きっと・・あんな綺麗な女の子に恋するなんて。
背中に何か当たった。
ぎゅっと抱き締められた。
利奈さんは隣にいる。
誰・・・?
「春っ!」
「美空ちゃん・・」
「帰れないよ・・帰れない・・春を一人にできない」
泣いてる・・。
僕の事がそんなに心配?
「春・・帰らないよ・・私・・帰らない」
「美空ちゃん・・いいの?」「うんっ・・」
美空ちゃんを抱き締めた。僕から・・抱き締めた。
震えてる・・。
そんなに泣いたら目が腫れちゃうよ・・そう言いたかった。
けど僕も泣いてしまった。
「美空のわがまま・・聞いてやるかなぁ」
綾さんと美月くんもいた。
「綾さん、部屋はたくさん空いてますからどうぞ」
「うん、よろしくね」
美空ちゃんをきつく抱き締めた。
「美空ちゃん・・」
「春・・追いかけるくらいしなさいよ・・」
「うん・・ごめん」
着物・・汚れちゃうな。
けどいいや・・。
大切な人を抱き締めた。
友達でもいい。
そばにいて・・・。
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