夏休み。
特にやる事もなくバイトに精を出す。
お金もどんどんたまりつつある。
美空ちゃんが日傘を持って僕が出前を持つ。
「この街って夏なのにそんなに暑くないね」
「うん、そういう地形だからね」
「へぇ・・・」
蝉がミンミンと鳴いている公園を通り過ぎた。
この近くだったな。
古びた一軒家。
チャイムを鳴らす。
インターホンから声がする「はーい」
「出前でーす」
「はい、今行くね」
扉が開いた。
「冷やし中華お持ちしました」
「はーい、ありがと」
お代を受けとる。
お釣りは用意してある。
「いつもありがとね、春くんと美空ちゃん」
僕と美空ちゃんは笑顔で返事をする。
僕たちがバイトを始めてからお客さんが増えたらしい・・・。
役にたったかな。
お皿は後日回収しにくる。
最後の出前を終えてお店に帰る。
今日の営業は終わった。
厨房で遊さんが後片付けをしていた。
「お疲れさま、メシ用意してあるよ」
「はーい、ありがとうございます」
お釣り入れをレジの近くに置いた。
さすがにお腹が空いた。
「へぇ・・つけめん」
「新メニュー・・食ってみ」テーブルには山盛りの麺とだしつゆ。
美空ちゃんと椅子に座る。「いただきます!」
さっそく・・。
太めの麺をつゆに絡める・・・。
ツルッと口の中に。
「昆布出汁ですか?」
「うん、シンプルにしてみた」
つけめんのだしつゆは味が濃いめだ。
けどこれはなかなかいい。あんまりしつこくない。
いつもより沢山食べれた。
夕方になった。
帰る前に寄る所があった。7時から町内会がある。
「まだ1時間あるね・・どっか寄る?」
美空ちゃんが時計を見ながら言った。
女の子らしくないごつめのデザイン。
「ははっ、気になる?」
「うーん、カッコいいね」
「特別な時計だよ、私と美月しか持ってないんだ」
「へぇ・・・」
美空ちゃんは指輪をしている。
美月くんも同じ物をつけている。
つまりペアリング。
「世界のどこにいても居場所が分かるんだよ」
「ふーん・・便利だね」
二人の絆はきっと切れない
それだけ想いが強いから。僕が入る隙間なんてない。けども・・僕はいつか伝えたい。
好きだって。
けど今は隣で歩くのが精一杯。
それしかできない。
商店街で買い物をする事にした。
「何かいい物あるかなっ?」「春、楽しそうだね」
「うんっ、買い物って楽しいでしょ?」
「はは、そだね」
この街って田舎なようで田舎じゃない。
この商店街はかなり大きいしアーケードもある。
大体の物はこことスーパーで揃う。
何を買おうかな・・・。
ぶらぶらと二人で歩く。
「春、お茶切れてたよね」
「うん、じゃあお茶買おう」「よしっ、行こ」
日本茶の店は街に一件。
そのぶん品揃えも凄い。
お店に入ると香ばしい香りこのお店のおじさんは無愛想だけどいい人だ。
緑茶も色々ある。
いつも飲んでるお茶は雪割草ってやつ。
価格もお手頃。
たまには自分用なお茶でも買うかな。
「うーん、濃いめがいいなぁ」
「夜に飲んだら寝れなくなっちゃうよ」
「うーん・・」
濃いめのお茶は朝に飲むとシャキッとする。 夜は紅茶とかの方がいい。あれは眠くなる。
玉露入りのかりがねにした。
飲んだ事ないやつ。
お会計を済ませる。
レジのわきに小さな蛙の人形が置いてあった。
「ほぇ、かわいい」
「蛙・・春、欲しいの?」
おじさんが黙って頷いた。「・・・もってけ」
やっぱりいい人だ。
「ありがとうございます!」お店を出て蛙を眺める。
葉っぱに乗ってこちらをみている。
雨蛙だな・・。
「かわいいね・・」
「春もね・・」
美空ちゃんがクスッと笑った。
そろそろ7時。
会館に人が集まっている。座布団をもらって隅の方に座る。
今日はお祭りの事で話し合い。
神社で行われる年に一回の夏祭りだ。
予算はそれなりにあるらしい。
「開催される日は年によってバラバラなんだ」
「へぇ・・・ねぇ、美空ちゃんは浴衣着る?」
「うん、着るよ」
「僕も浴衣買わなきゃなぁ・・・」
美空ちゃんの浴衣姿・・想像するだけでドキッとする・・。
「春は着物着ればいいじゃん、かつらもつければ完璧っ」
「あ、あれは・・うーん」
「春、可愛いんだから着たほうがいいよ」
美空ちゃんがニヤニヤしてる。
そういう問題じゃないような。
あれは完全に女装だし・・・・でもまたやりたい気持ちもあったり・・。
「おーい、お茶ないぞ」
お茶っ葉が無いらしい。
「僕の使って貰おうかな」
「春、だめ・・」
「えっ?」
美空ちゃんがムッとしている。
「それは春の物でしょ?」
「う、うん・・でもね・・困ってるなら使ってもらいたい・・僕はそうしたい」美空ちゃんは僕をじっと見て・・・。
微笑んだ。
「春らしいな・・分かったよ・・」
お茶っ葉を使って貰った。お礼を言われた。
お茶は無くなったけど人助けになったから良かった。
今年は花火大会もやる事になった。
豪華だな・・夏祭りが2つあるなんて。
「利奈が毎年神楽を踊るんだ」
「へぇ、お姉ちゃんが・・」見たことないから楽しみにしとこう。
「美月はそれを見て利奈を好きになったんだ・・」
「えっ?」
美空ちゃんが苦笑してる。「ま、色々あったんだ」
「ふーん・・」
そういえば昔お姉ちゃんは美月くんと付き合ってたって言ってたな。
「お姉ちゃんはまだ美月くんの事・・・」
「好きだよ・・」
美空ちゃんは少しうつむいた。 「そうなんだ・・」
「でも、美月は渡さない・・・絶対に・・」
「う、うん・・」
こんなに強く想ってるんだ・・・。
振り向いてもらえないかな・・・。
少し思ってしまう。
話し合いはまた次回に持ち越しになった。
まだ決まってない事もある
二人で帰ろうとした。
「あ、君!」
オバサンに引き留められた「はい?」
「お茶っ葉ありがとね、こんな物しかないけどお礼として受け取って」
お菓子の詰め合わせだ。
たくさん入ってる。
「ありがとうございます」
両手がいっぱい。
もう日は沈んで真っ暗。
神社に向かう。
「春、良かったね」
「うん、食べきれないからみんなで食べよう」
「春は優しいね・・」
「まぁ・・ね・・」
照れちゃうな。
夏休みだから少し夜更かししてもかまわない。
神社に帰るともう9時になっていた。
「夜中にお菓子食べたら太るかな」
「春はもう少し太ったほうがいいよ」
「うーん・・たしかに」
居間で利奈さんと美月くんが楽しそうにお喋りしてた
あの一件から美月くんとは凄く仲良くなった。
首筋・・可愛かったなぁ。けど男の子だし・・。
みんなでお菓子を食べながら夜がふけていく。
ふと・・・。
泣いている自分がいた。
「春、どしたの・・?」
「なんか・・夢みたいでさ・・こんな事・・」
「春・・・」
「友達とお菓子を食べながら喋れるなんて・・・ぐすっ・・変な事で泣いちゃった・・ごめん」
ずっと・・・寂しかったから。
幸せすぎて涙が流れる。
僕にとっては何気無い日々が幸せ。
とっても・・。
利奈さんにグミを押し付けられた。 「こら、泣かないのっ」
「お姉ちゃん・・」
「私まで泣いちゃいそうだよ・・」
グミをパクっと食べた。
なんとか微笑んだ。
歯を研いてから寝よう。
洗面所で歯ブラシに歯みがき粉をつける。
「春くんっ」
「おねえひゃん・・」
「ははっ、何言ったかわかんなーい」
利奈さんも歯を研いた。
口の中がさっぱりした。
「ふぅ、さっぱり・・」
「春くん・・」
「なぁに?」
「一緒に寝よう・・」
「あ、はい・・久しぶりに」利奈さんの部屋に向かう。利奈さんのパジャマ姿可愛いな。
美月くんもお姉ちゃんを好きになったんだなぁ。
部屋に入って布団をしく。利奈さんが布団の中に潜った。
顔を出して僕を見た。 「クーラーつけて・・」
「えっ?涼しいよ?」
「きっと暑くなるよ・・」
「ふーん・・」
クーラーをつける。
除湿くらいでいいかな。
僕も布団に入る。
利奈さんが抱きついてきた・・・。
さすがにドキッとする。
「春くん・・悲しかったの?ここに来る前は」
「あ、うん・・寂しくて悲しかった・・」
「もう・・そんな想いさせないからね・・」
利奈さんが動いた。
「お姉ちゃ・・んっ!」
キス・・・された。
「春くん、安心して・・」
「あ、あのっ・・」
どうなるの・・・。
僕は・・また・・しちゃうの?
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