しばらくは包丁を触らないようにした。
このまま治らなかったらどうしよう・・・。
もう料理はできないのかな・・・。
暇を見つけてぶらっと街を散歩する。
一人になりたい。
そんな気持ち。
美空ちゃんには内緒で出掛けた。
「はぁ・・」
宛もなくさまよう。
どうしよう・・どうしよう・・・僕は・・どうしよう・・夢が壊れてく・・。
美月くんは治療には時間がかかるって言ってたな。
苦しい・・耐えられるかな・・?
商店街についた。
何かいい物はないかな。
おこづかいはないから何もないけど・・。
お母さんからの仕送りや生活費や学費などの振り込みは無い。
つまり僕は負担になってる・・・。 美空ちゃんと美月くんは自分で稼いだお金を利奈さんに渡している。
利奈さんと将さんがたまにおこづかいをくれるけど受け取らずに断っている。 お金はあると言ってごまかして・・。
なんだよ・・僕はただのお荷物じゃないか・・。
生きてても負担になるだけじゃないか・・。
いらない人間・・。
いらない人間・・。
このまま負担しかかけられない。
「よぉ、春」
「あ、遊さん・・」
遊さんは買い物袋を持っていた。
中には野菜がいくつも。
「買い出しですか?」
「まぁね・・春はどした?」「僕は・・何もないですよ」「ふーん・・・腹へったら後で店に来なよ」
「はぃ・・」
とぼとぼと歩き出す。
どこに行こうかな・・。
たくさん歩いた。
公園・・・・。
ベンチに座る。
日差しが熱い。
喉が乾く・・。
このまま・・。
しんでしまえたら・・。
楽・・・かな・・?
「春のばかっ!!!」
「・・・・?」
美空ちゃんだった。
綺麗な白いワンピースを着て日傘をさしている。
「なんで・・勝手に出かけるの・・」
「一人に・・・なりたくて」「春・・・」
僕の隣に座った。
日傘で少し涼しい。
「春を一人にはできない・・・」
「美空ちゃん・・・」
「今・・しにたいって思ってるでしょ?」
「・・・うん・・」
バシッ!
平手打ちされた。
美空ちゃんに。
「ばかっ!春のばか!!」
「え・・・?」
美空ちゃんが泣いてる。
また泣かせちゃった・・。「春・・・だめっ」
美空ちゃんの目を見て。
今一人で生きている訳じゃないと・・。
自分一人の命じゃないんだと・・そう思った。
「春、何か食べなよ・・・きっとお腹が空いたからそんな気持ちになったんだよ・・・そう考えよう」
「美空ちゃん・・ごめんね」僕の手を握って微笑んでくれる。
僕は・・・しねない。
美空ちゃんにまだ何も伝えてない。
まだダメだ・・。
生きる・・ぜったいに。
「さ、お腹が空いたら何か食べなきゃ!」
「うんっ・・」
二人で歩いて商店街の方に戻る。
何かできる事はないかな?包丁を使わずに・・できる事・・・。
「ちょうどいい所に・・」
「うん?」
「いこっ!」
遊さんのお店だ。
美空ちゃんに続いて僕も入った。
「いらっしゃい、なんだ美空か・・春も来たか」
「なんだ、は余計よ」
「はは、ごめん」
椅子に座った。 お水を出された。 美空ちゃんがお水を少し飲んだ。
「遊さ・・バイトさせてくれない?」
「バイト・・?」
「私も土日暇でさ・・」
「うーん、いいけど・・うちの店結構繁盛してっからさ」
そうは見えない・・・。
遊さんがそんな僕を見てニヤリと笑った。
「春は信じてないな?」
「う・・うーん・・はい」
「ははっ、素直だな!」
頭を撫でられた。
怒らないの?
「失礼な事言ってごめんなさい・・」
「いいよ、今の時期はホントに客少ないから・・けどな・・」
遊さんがニヤリと笑った。「インターネットにうちのラーメンをインスタントにして出したんだ!そしたらかなり売れだしてさ!」
「へぇー・・・」
「今度取材も受けるし休日は結構客も増えてきたんだぜ」
インターネットで売り込むなんてな・・。
さすに便利な世の中。
でも・・・。
「遊、もしかして美月のアイディアでしょ?そして製品化を考えたのも美月じゃない?」
美空ちゃんがメニューを見ながら言った。
「あれ?聞いてなかったんだ・・・そうそう、みーがうちのラーメン好きでインスタント化したいって言い出して・・・だいたいの事はみーがやったよ」
「ふーん・・・美月・・」
美空ちゃんは微笑んだ。
美月くんも凄いなぁ・・。「だからバイトを雇う余裕もあるし・・つっても厨房は俺がやらなきゃいけないから・・・出前は?」
「うん、それでいいよ・・春もやるよね?」
「えっ?」
美空ちゃんはクスッと笑った。
僕のため?
まさか・・・ね。
「中学生にバイトさせていいんだっけ・・?」
「遊、堅苦しい事言わないの・・私の付き添いって事でいい。もらった給料はこっちで分けるから」
「そっか・・別にいいかな・・まぁ時給1000円くらいでいいか?」
ビックリした。
時給・・・1000円?
「そんなに貰っていいんですか!?」
「いや・・・少なくない?」遊さんは特に困った顔もせずに・・・。
そんなに儲かってるのか・・・・。
「通販での収入が8割で店が2割かな・・割と余裕あるし大丈夫だよ」
「ほぇ・・・」
「じゃあ土日にバイトって事でいい?」
美空ちゃんは親指を立てた、僕は・・・。
「よ、よろしくお願いしますっ!」
これで稼いだお金を利奈さんに渡せばいい。
負担にならなくて済む。
「じゃあ何か食ってけ、俺のおごりでいいよ!」
美空ちゃんがメニューを見て・・・。
「焼豚定食・・特盛り!」
「美空はホントに良く食うなぁ・・しかも女の子が焼豚定食頼むなんて・・」 美空ちゃんがムスッとした「昔っからでしょ?」
遊さんは苦笑して頷いた。「まぁな・・春は?」
「えと・・野菜うどんがいいです・・少なめで」
「春はすっげー少食だしな・・いいコンビかもな」
遊さんはニヤッと笑って料理を作り始めた。
美空ちゃんは僕を見てクスクス笑ってる。
「いいコンビ・・か・・」
「美空ちゃん?」
「はは、なんでもないよっ」美空ちゃんのおかげで凄く前向きになれた。
やっぱり一人は良くない。助け合って・・生きていかなきゃ。
「ほいっ、野菜うどんおまち!」
「ありがとうございます・・・わぁ!」
ごぼう、椎茸、葱の山盛り、うすあげ。
少し鶏肉も入っている。
「肉も食いなよ、サービスだから」
「あ、はいっ!」
美味しい・・。
少し甘めだな・・。
味醂が入ってる。
するすると口の中に入っていく。
ごぼうの千切りはかなり薄く切ってある。
出汁が良く染みている。
美空ちゃんの焼豚定食は・・・。
「なに・・それ?」
「ん?私の大好物!」
ご飯・・凄い量・・。
遊さんはニヤニヤしている「学生用に考えたメニューなんだけど・・・美空はペロリと食べちゃうんだよなぁ・・さすがだ」
美空ちゃんは上品に・・でも結構ガッツリ食べている・・・。
とっても幸せそうな顔で。
「じゃあバイトよろしくな、二人とも可愛いからきっとお客も喜ぶよ」
「まかしといて!」
美空ちゃんは自信満々だ。僕も頑張ろう。
帰り道に美空ちゃんはまたケーキを買った。
頭がいいからたくさん食べるんだと思う・・たぶん。
神社についた。
将さんがいたので報告しないとな。
「あの、将さん・・」
「うん?なんだ?」
優しい笑顔だ。
稽古の時は怖かったけど。「僕、負担にならないように美空ちゃんと出前を手伝ってそのお給料で学費とかを・・」
「バカ者っ!!!」
ビックリした・・。
なんで・・・怒るの?
「なにが負担だ!前にも言っただろ?君を息子みたいに思ってると」
「あの・・」
「だから・・いいんだよ・・もう家族だぞ?その出前のバイトはおこづかいにしなさい!いいね?」
「あ・・はぃ・・」
涙がこぼれそうになる。
必死で抑えるけどどうにもならない。
将さんに抱きついてしまった。
「おいおい、泣くのはいいがそんなにべったり・・・まぁ、いいか」
「将さん・・ありがとうございます・・僕・・」
「言わなくていいよ・・」
「はいっ・・」
優しく頭を撫でてくれる。良かった・・・良かった・・・僕は・・。
「美空ちゃん、春を頼む・・・涙で汚れてしまい」
ゆっくりと美空ちゃんに離された。
将さんは微笑んでから背を向けて神社の中に入って行った。
「春はいい子だから大丈夫なんだよ」
「うん・・」
「バイト頑張ろうねっ!」
「うんっ!」
美空ちゃんのおかげで凄く救われた日になった。
美空ちゃんがピンチの時は僕も救いたいなぁ。
「・・・くすっ」
「なんか面白い事あった?」「うーん・・春が面白い」
「えっ・・僕が?」
美空ちゃんは僕を見ながらクスクス笑ってる。
「もう元気だね!」
「あ・・うん!」
いつの間に死にたい気持ちは無くなっていた。
「美月に内緒でケーキ食べよ!」
「いいの?」
「あいつはこの前私のケーキ勝手に食ったから・・仕返しっ!」
美空ちゃんが小悪魔っぽく笑った。
美空ちゃんがいなかったら僕は・・・。
考えない・・・。
今は幸せ・・。
お腹も心もいっぱい。
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