春も終わりだんだんと気温が上がってきた。
晴れて暖かい日が続く。
授業中にフラフラっと眠たくなる。
「しゅーんっ・・」
「あぅ・・・」
美空ちゃんにつつかれた。大分休んだから結実と山田さんのノートを借りてやっと授業に追い付いた。
結構疲れた・・・。
「眠たいの?」
「・・・うん・・ねむぃ」
「・・・いいよ、後で教えてあげるから、寝なよ」
「・・うんっ、おやふみ」
「くすっ・・春・・」
頬杖をついてうつむく。
暖かい・・・眠い。
グラウンドで上級生が体育の授業をしている。
はしゃぐ声・・・。
ボールがカンッと当たる音・・野球かな? 今日のお昼はなんだっけ・・・・。
おにぎりの具はなにかなぁ・・・。
蝉が鳴くようになった。
制服も夏服・・・。
窓から涼しい風が・・。
僕の頬に当たる。
キーコーン。
「はい、今日の授業はここまで」
もう授業が終わったのか。目を擦る。
「春の寝顔可愛かったよ」
美空ちゃんがクスクス笑ってる。
「う・・ん・・ねむい」
「もう少し寝てなよ」
「ううん・・大丈夫」
うーんと伸びてあくびをする。
美月くんは女の子に大人気だ。
「美月くんは・・モテてるね・・」
「あのバカ・・」
女の子と喋りながらも横目でこちらを見ている。
やっぱり気にしてるのかな・・・。
「春も・・・可愛いのにな・・・なんで人気出ないんだろ?」
「えっ?僕?」
「本当にお世辞抜きで美月と同じレベルの顔だよ・・そんな男の子には私、初めて会ったし・・・性格も優しいのに・・」
「ほぇ・・そっかな?」
「うん・・間違いないよ」
自分の顔・・そんなにいいのかな?
美空ちゃんが手鏡を取り出した。
「しっかり自分の顔見なさい!」
「う、うん・・」
手鏡に映る僕は・・・。
頬っぺたが赤い。
「あぅ・・赤いよ」
「頬杖ついて寝てたしね」
じっと見る。
こんなのは初めて。
「美月と私は銀髪で青い瞳だかんね・・春は黒髪だし地味に見えるのかも」
「うん、二人とも天使みたいだよ」
「天使・・か・・」
美空ちゃんは少し苦笑した、なんでかな・・?
休み時間が終わって次の授業。
国語の時間のはず・・。
先生が来ない・・・。
放送がかかった。
「えー・・一年一組は自習となります、大人しく教室で自習しましょう」
みんなが大喜びしてる。
「ほぇ・・自習か」
「春、さっきの授業の教えてあげる」
「うん、お願い・・」
美空ちゃんと机をくっつけてノートを見る。
完璧にうつしてある。
歴史の授業だった。
「えっと・・戦国時代の有名な武将の事ね」
美空ちゃんが鉛筆でトントンと教科書の説明欄を叩いた。
「ふむん・・・」
「この武将が裏切って戦の決着がついたんだ」
「ふむふむ、なるほど」
「それでね・・」
僕はふと思った事を言ってみた。
「裏切られた・・この人はどんな気持ちだったのかな・・悔しかったのかな?」美空ちゃんは僕を見て少し黙った。
信頼した人に裏切られて・・・どんな気持ちで死んでいったのかな?
「悔しいに決まってる・・でもそれが戦いだから覚悟はしてたはず」
「戦・・戦争って良く分からない・・何で起こるのかな?戦争はいけないんだよね?」
美空ちゃんは鉛筆をクルクルっと回した。
僕を見ながら綺麗に回してる。
「戦争は人間の欲が作り出した物だよ・・・戦争で死ぬのは若者で・・戦争を始めるのは年寄り・・最初は机の上で始まる」
「机の上・・・?」
「会議での口論・・それよりあの土地の領土が欲しいとか新しい兵器を使いたいからとか・・なにかしら欲が絡んで起こるの・・それは必ず机の上」
「そうなんだ・・・」
美空ちゃんは詳しいんだな・・・。
「でも戦争と共に私たちの生活も便利になって技術も洗練されていくの・・春の携帯電話だってそうだよ」僕の携帯も・・・?
なんだか怖いな・・。
「たくさんの犠牲の上で私たちは生活しているの・・・・」
「でも・・僕は人が死ぬのは嫌だ・・」
「そう・・それは絶対に忘れてはいけないよ」
美空ちゃんは僕の手を握ってきた。
いきなりすぎてドキッとした。
「春は・・いつまでも純粋でいてね」
「う、うん・・」
美空ちゃんが何か願うような・・そんな感じで・・。「美空、脱線してる」
「う、うっさいな・・」
美月くんは僕の隣の席だ。美空ちゃんはもう一度僕の手をぎゅっと握った。
「・・忘れないでね」
「うんっ・・」
美空ちゃんの手が暖かくて・・気持ちが安らぐ。
お昼休みは外で食べる事にした。
いつものメンバーでグラウンドのベンチに座る。
お弁当箱を開ける。
「わぁ、明太子・・?」
「私が作ったよ」
「へぇ、美空ちゃんが作ったんだ・・美味しそう」
「えへっ・・」
美空ちゃんが微笑んだ。
笑ってくれるだけで心に涼しい風が吹く感じ。
蝉が鳴いている。
もうすぐ夏だな・・。
「さて、私はちょっと帰るよ・・」
山田さんが弁当箱を片付けた。
早いなぁ・・。
「山田さん、どうしたの?」「大会があるんだ・・勝たなきゃ」
「そうなんだ、応援に・・」山田さんは少し暗い顔になった。
「ありがと・・でも・・来ない方がいい・・」
手を振ってスタスタと歩いて行った。
何か訳ありみたいだな。
「なぁ・・春さん」
「何?結実・・」
「恋・・かな?」
「へっ!?」
「俺、鈴美ちゃんが・・好きかも・・」
唐突すぎでびっくりした。全く気付かなかった・・。「結実、応援する!」
美月くんが目をキラキラさせている。
「あー・・美月はこういうの好きだしね」
「そうなの?」
「うん・・あいつ少女マンガ大好きだから・・」
「へぇ・・」
美月くんは恋愛得意そうだしなぁ。
美空ちゃんはあきれた顔をした。
「結実はいつから好きなの?」
「美月は応援してくれるんだなっ・・えっとね・・料理研究部ができたての頃からかな」
大分最初らへんだな。
山田さんはたしかに美人だし・・・なんというかカッコいい女の子なのだ。
キリッとしてサバサバしてるというか・・・。
結実が好きになるのも無理はない。
男子からも人気がある。
美月くんはメモ帳をとりだしてサラサラ書き出した。「告白は・・もっと仲良くなってからにした方がいいと思うよ」
「そっか・・さすが美月は手練れだな」
「ははっ、そんな事ないよ・・」
美月くんは横目で美空ちゃんを見た。
美空ちゃんはそっぽを向いた。
こうやって友達が増えて幸せだなって思う。
けど僕がどうやって産まれたのかを思い出すと恐ろしくなる。
いらない人間・・。
いらない人間・・。
僕はいらない・・。
「ねぇ、春?」
「う・・うん?」
「大丈夫?」
「うん・・」
放課後に家庭科室で自由に料理を作る事にした。
今月は部費が少し余った。美空ちゃんはオムライス。美月くんはナポリタン。
結実は牛丼。
別に和食限定な訳ではない
「ねぇ、春さん・・どうかな?」
結実の牛丼を一口貰った。もぐもぐ噛み締める。
「うん・・もう少し煮詰めたらもっと美味しいよ」
「そっか・・味が薄いと思った」
「結実も料理できるようになったね!」
「うん、春さんのおかげ」
結実は笑ってどんぶりの牛丼を見つめた。
目がキラキラしている。
美空ちゃんと美月くんのはとっても美味しかった。
二人であーだこーだ議論している。
道具棚にある包丁に触れる
しばらく触って無かった。軽く持ってみる。
握り方も結構勉強したっけな。
優しく握って引いて・・。
血が・・・。
流れる・・。
「え・・・?」
手首が切れてる・・。
「なん・・で・・」
僕の包丁には血がついている。
「春っ!」
美空ちゃんがすぐに駆け寄ってきた。
ハンカチで傷口を抑えてくれた。
「何してんの!?」
「僕・・なんで?」
「春・・・?」
「なんで・・切ったの?」
幸い傷は浅かった。
保健室で傷を手当てした。「なんで・・こんな事」
「春・・・」
「包丁は人を傷つける物じゃない・・僕が一番分かってるはずだったのに・・」包丁は大切な道具。
凶器じゃない・・。
美月くんが僕の背中を撫でながら訪ねてきた。 「春くん・・車に連れ込まれたって言ったよね?」
「うん・・お姉ちゃん・・だった人に」
「何されたか覚えてる?」
「分からない・・分からないよ・・思い出すと・・痛い・・」
「ごめん、無理に思い出さなくていいよ・・」
美月くんはため息をついて少し黙った。
「これは僕の予想・・・君にとって一番大事な物を奪おうとしたのかも」
「えっと・・たしかに包丁は大事な物・・」
「うん・・普通料理をするなら包丁が必要だし・・何か暗示みたいな物をかけられたかもしれない」
「暗示・・・?」
「包丁を持ったら手首を切れと・・・」
「そんな・・・」
包丁を握れなくなったの?僕は・・・。
「春くん、大丈夫・・僕と美空がなんとかする」
「美月くん・・」
「心配しないで・・ライバルである前に友達でしょ・・? 」
「うんっ・・・うん?」
ライバル・・・?
なんで?
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