土曜日なので居間でテレビを見ながら携帯をポチポチする。
まだ使い方がイマイチだ。「春くんどう?携帯使いこなせる?」
利奈さんが隣に座って聞いてきた。
「うーん・・まだ微妙です・・メールはこうかな?」利奈さんの携帯にメールを送ってみた。
着信音が鳴る。
「うんうん、届いたよ」
「ふむん・・」
やり方は全部美空ちゃんに教わった。
美空ちゃんの携帯にも送ってみるかな。
携帯を操作する。
「美空ちゃんに送るの?」
「うん・・えっと・・・」
ポチポチ・・・。
初メールです。
よろしくね。
送信っと・・。
そういえば美空ちゃんはどこかな?
しばらくして返信が来た。
メールを開く。
上出来だね。
これから出掛けよっか?
外にいるから待ってるね。( '∇^*)^☆
ふむん・・この顔みたいなのはどうやるんだ?
まぁいいや。
「美空ちゃんと出掛けますね」
「うん、夕方までには帰ってくるんだよ」
「あ、はい・・」
利奈さんはいっつも優しいなぁ・・・。
「利奈さんはお姉ちゃんみたいですね・・」
「うん?お姉ちゃんだよ」
「あ、あは・・そうですよね。もうお姉ちゃんみたいなもんですよね」
利奈さんが一瞬悲しそうな表情になった。
「まぁ・・ね・・うん」
「利奈さん?」
「何でもないよ、行ってらっしゃい」
「はいっ!」
自分の部屋に行ってから小さなカバンをかつぐ。
お出掛け用のやつ。
結構おしゃれなやつだ。
赤っぽいで革製の斜めかけカバン。
小物が入ってる。
お財布を確認して外に向かう。
美空ちゃんが待っていた。「お待たせ!」
「やっ、待ったよ」
美空ちゃんは待たせると怒るから気を付けないとな。美空ちゃんの私服は凄く可愛いな。
神社を出て山の方に向かう「何しに行くの?」
「農協のスーパーでちょっとね」
「ふーん・・」
たけのことか買うのかな?二人で歩く。
ここらへんはまだ来た事ないな。
大きな木造の家がある。
美空ちゃんはそこで立ち止まった。
「どうしたの?」
「ここは前に住んでた家なの・・」
「そうなんだ・・」
表札は無い。
今は誰もいないみたいだ。「ちょっと・・入っていいかな?」
「うん・・」
美空ちゃんについて行く。大きな庭がある。
なんで誰も住んでないのかな?
「知り合いに譲ったんだけどね・・住めなくなって手放したの」
「へぇ・・こんな豪華な家を手放したんだ・・」
玄関を開けた。
美空ちゃんは鍵を持っていたらしい。
玄関で美空ちゃんは立ち止まる。
「・・・ただいま・・」
そう囁いた。
靴を脱いであがる。
所々ほこりだらけだ。
広い家だな。
居間には何もない。
美空ちゃんはちょこんと座った。
なんだか悲しそうな顔。
「ここで・・たくさんの事を知ったんだ・・」
「そっか・・」
「私の好きな人ってね・・お兄ちゃんなの・・双子のお兄ちゃんなの・・」
「・・・・」
そうなんだ・・・。
つまり・・・。
「近親相姦ってやつ・・・気持ち悪いでしょ?」
「ううん・・僕も少しそういう経験ある」
美空ちゃんは振り返って僕を見た。
少し驚いた顔。
「ほんの少しの間・・お姉ちゃんとしちゃったの・・好きって言われて嬉しくてお姉ちゃんの言うことをなんでも聞いた・・けど・・裏切られた」
「春・・・」
「でも裏切られてここに来たから美空ちゃんに会えた・・友達もできた・・もういいんだ・・大丈夫だよ」そうやってプラスに考えないとおかしくなりそう。
狂ってしまいそう。
「春、なんかごめん・・」
「いいよ・・」
「あと一つだけ・・行きたい部屋があるの」
美空ちゃんが立ち上がって廊下に向かう。
しばらく歩いて美空ちゃんが襖を開けた。
ベットがある。
きれいなベット。
なんで残ってるのかな?
美空ちゃんはそれに座ったシーツも何もない。
コトンと倒れた。
「美月・・・会いたいよ・・・・」
その姿はなんだか痛々しかった。
きっと凄く好きなんだろうな・・。
美空ちゃんの頬に涙が流れる。
「ご、ごめん・・大丈夫」
美空ちゃんは名残惜しそうにベットから離れた。
「好きなの?・・お兄ちゃんの事」
「うん・・・世界で一番好き・・」
僕は・・・。
叶わない恋をしてるんだな・・・。
美空ちゃんの顔を見て良く分かった。
本当に本当に大好きな人なんだなって。
家を出て山の近くまで向かう。
会話は無かった。
僕は好きになってはいけないのかな・・。
美空ちゃんの事・・。
「春・・はいっ」
美空ちゃんが飴玉をくれた綺麗な色の飴玉だ。
「ありがと・・」
一つ受け取って口に入れる甘くて美味しい。
自然と笑ってしまう。
「春の笑った顔・・見れた」「えっ?」
「もうすぐつくよ」
「うんっ・・」
飴玉を口の中で転がす。
美空ちゃんと並んで歩く。だいぶ歩いたな。
小さな建物だ。
色んな野菜がある。
山菜もあるな。
たけのことか必要な物を買った。
美空ちゃんがお店の人と話している。
「春、こっち」
「うん?」
お店の奥に案内された。
ここは・・・。
「えっと・・竹細工?」
「うん、そうだよ。竹のお皿を作ろうかなって思ってね」
「ほぇ・・」
竹を切ってお皿を作る。
と言ってもたいして難しくない。
切ってちょちょっと削るだけだ。
あんまり加工はしない。
お店の人に作り方を教えてもらった。
ナイフで少しずつ削る。
美空ちゃんは上手いな。
「これは結実と山田さんのやつね」
「うん・・綺麗だね」
「ははっ、これに筍ご飯入れようよ」
「うん、そだね」
美空ちゃんは無邪気に微笑んだ。
可愛いな・・・。 僕は・・ずっと友達のままかも。
付き合う事は・・できない・・・かも。
「・・イタッ!」
指先を切ってしまった。
かっこわるい・・・。
「春、大丈夫?」
「僕・・・かっこわるいね」血がどんどん流れる。
結構深かったみたい。
「あらら、今ばんそうこ持ってくるね」
お店の人が救急箱を取りに行った。
「春・・痛い?」
「へいき・・」
凄く痛い・・無理しちゃう強がっちゃう・・。
美空ちゃんが僕の手を掴んだ。
そして・・。
僕の指先をゆっくりくわえた。
ビクッと電撃が走った。
「み、美空ちゃん・・」
美空ちゃんは目をつむっている。
口のなかで僕の指先を少し舐めた。
ビクッと体が震える。
痛いんじゃない。
気持ちいい・・。
お店の人が戻ってきた。
美空ちゃんがばんそうこをつけてくれた。
「無理・・しないでね」
「う、うん・・」
美空ちゃんはクスッと笑った。
「でも春のそういう所・・可愛いな・・」
美空ちゃんが微笑んだ。 「あ・・・あははっ」
「春・・くすっ、ははっ!」何でか笑っちゃった。
お皿を作って紙ヤスリで滑らかにする。
なかなか力が入らない。
「春、これ付けて」
「うん?」
ウサギのシール?
「春と私のお皿にだけ貼っとくの・・ねっ?」
「うん、分かった」
ポチッと貼った。
二人で顔を見合わせた。
「できたっ!」
結構近い事に気付いてすぐにドキドキした。
「あは・・春のはいい出来だね」
「あ、うんっ・・ありがと」照れてしまう。
たぶん治らない。
お店を出て帰り道。
下り坂だから来たときより楽だ。
もう夕暮れ時。
夕日が街を赤く照らす。
「結実にメールしといた、たけのこ買ったよって」
「うん・・たけのこご飯以外にも何か作りたいよね」
美空ちゃんは腕を組んで言った。 「うーん、炒め物とか?」
「うん、いいね」
こうやって話してるとやっぱり好きだよ・・。
とっても・・とっても・。僕の想いは届くかな?
街の真ん中を通る川が見える。
夕日を浴びてキラキラと反射する。
それはとても綺麗。
ここからは街全体が見渡せる。
大林神社も見える。
学校もさっきの家も。
「傷・・・大丈夫?」
美空ちゃんが僕の指を見た・・心配そうな顔。
「うん、美空ちゃんが舐めてくれ・・た・・から」
思い出すだけで顔が赤くなってしまう。
あんなドキドキしたのは初めてだ。
「ははっ・・良かった」
二人で街を眺める。
新しい場所はとってもいい場所だ・・。
ここに来て良かったって思う。
美空ちゃんの銀色の髪が風に揺れる。
天使と言う言葉がぴったりだ・・。
僕は・・あきらめない。
叶わないかもしれない。
けど・・・この人が好きだから。
とってもとっても・・大好きだから・・。
※元投稿はこちら >>