薬局を探してみる。
髪の毛に付けるワックスを探してる。
雑誌を買って欲しくなった「ふむん・・薬局・・・」
なかなか見つからない。
信号を待って立ち止まる。おしゃれをして美空ちゃんにもっと好きになってもらいたい。
もっと仲良くなりたい。
やっと好きになれた人だし・・・。
横断歩道を歩く。
向こう側の歩道まで歩く。ふと・・・。
誰かに見られている気がした。
周りを見てみたけど誰もいない。
気のせい?
街の人に聞いてみて場所が分かった。
大きな川の橋を渡った向こう側だ。
「美空ちゃんに・・好きになってもらうぞ・・がんばろっと・・・」
「春は努力家だね」
「わあっ!」
美空ちゃんが後ろにいた。凄いびっくりした。
「えと・・・どしたの?」
「薬局にちょっと用事があってね・・春はどうしたの?」
「えっとね・・あの・・暇だから行ってみたくて」
「へぇー・・ふふっ」
「な、なんで笑うの?」
「君みたいな人・・・初めてだよ・・」
「へっ?」
美空ちゃんは少し嬉しそうな顔をしている。
「私・・あんまり人に好意を抱かれた事・・無いから・・この見た目のせいで嫉妬されたり遠慮された方が多いよ」
「なんで?おかしいよ」
美空ちゃんは首を傾げた。その仕草にドキッとする。けど続ける。
「そういう人は素直じゃないんだよ、僕は素直に美空ちゃんが好き・・・だよ」って・・・また言っちゃった・・・。
僕は恥ずかしくてそっぽを向いてしまった。
「ありがとう・・春・・嬉しい・・・」
「ご、ごめん・・」
「謝らなくていい・・嬉しいよ」
「う、うん・・」
美空ちゃんの顔を見れないよ・・・。
ドキドキが激しくなる。
でも言わなきゃ。
「美空ちゃんは・・・」
微笑んでいる・・。
すごく・・胸が苦しくなる・・。
「続き・・言ってよ」
「・・・凄く可愛いんだから・・その・・・・えっと・・・」
「うん・・・うん」
「む・・むり・・ごめん」
「あはっ、いいよ。また今度聞かせて」
笑ってくれた。
僕の言葉で・・・。
好きな人・・。
この人のために・・。
また料理をしたいなって凄く思った・・・。
二人で橋を渡る。
大きな川だ。
「ねぇ、あそこの鴨・・可愛いよ」
「本当だ・・・親子だね」
綺麗に列を作って泳いでいる。
鴨・・。
最近は食用としては聞かないけど。
鴨のお肉は脂もほどよくのって美味しいらしい。
網焼きとかお吸い物とか色々な料理ができる。
けどあの姿を見たら料理する気になれない。
人間ってやっぱり他の物の命を犠牲にして生きているんだって思う。
だから食べる前のいただきますって凄くいい事だと思う。
言わなくてもいい。
心の中で唱えるだけでもいいと思う。
「鴨と私・・どっちが可愛い?」
「えっと・・美空ちゃん・・けどやっぱり鴨も可愛いかな・・ごめん比べられないや」
「あはっ、そうだよね」
美空ちゃんは何か余裕を感じる。
凄く大人って感じ・・。
橋を渡りきってから薬局が見えた。
二人で店に入る。
小さな薬局だな・・。
品揃えも悪くない。
「私はちょっとブラシが欲しくてね・・」
「ふーん・・・」
僕はヘアワックスが欲しい・・・。
無いかな・・・。
「はい、これが欲しいんでしょ?」
「へっ?」
美空ちゃんがワックスを3つ持っていた。
「えと・・なんで?」
「家でヘアカタログ見てたから何となく」
「あ、あは・・バレた・・」「3種類買った方がいいよ、使い分けできるから」
「うんっ・・ありがと」
レジでお金を払おうとした・・・。
「お金足りないや・・・すみません一個やめます」
「いいよ、私が払う」
「あ、ありがと・・」
美空ちゃんが足りない分を払ってくれた。
良かった・・・。
ワックスって意外に高いんだな・・。
お店を出てからぶらぶらと歩く。
「ごめんね、帰ったらお金返すから」
「いいよ、春がカッコよくなるんだし・・私のおごりでいい」
「ありがと!」
抱き締めたくなる。
けど・・あんまりいやらしい感情は湧かない。
こんな綺麗な子と喋れるだけでもお腹一杯な気分。
欲張りはいけない。
僕は日本人だからおとなしく生きたいと思ってる。
女の子には優しくする。
これを忘れてはいけない。「あいつに聞かせてやりたいよ・・・」
「・・うん?」
「なんでもないよ・・」
美空ちゃんが少し悲しそうな顔をした。
「僕で良ければ相談に乗るよ」
「あは・・いいよ・・君にはまだ早い」
「僕は美空ちゃんに悲しい顔して欲しくないから何でもする」
美空ちゃんが少し驚いた。言ってから恥ずかしくなるの・・・どうにかならないかな・・・。
「春・・サンキュ」
「う、うん・・・」
少し歩きながら話す。
「好きな人がね・・なんか最近体しか求めて来なくて・・・ムカつくの」
「ふーん・・・」
「だから春が言ってくれる言葉が嬉しくてたまらないよ・・・」
好きな人・・・いるんだ。ショック・・・。
「他にも色々と訳ありでね・・あれ?今度は春が落ち込んだ・・どしたの?」
「ううん・・何でもない」
「好きな人・・いるって言ったから・・?」
「うん・・・ショック・・」「そか・・」
美空ちゃんは少しクスッと笑って嬉しそうな顔になる・・なんで?
「春は可愛いなぁ・・ずっとそんなだったの?」
「うん・・・」
「へぇー・・珍しい・・」
「その人はきっと欲張りなんだよ・・・美空ちゃんがいるだけで幸せって事に満足できないんじゃないかな?でも・・誰でもそうなるのかも・・」
「春もそうなる?欲張りになる?」
「分かんない・・・けど女の子の気持ちは大切にしたい・・体だけなんてやだ・・・・」
お姉ちゃんと関係を持った時僕はそうなっていた。
裏切られた時つくづく嫌になった。
「春、ありがと・・君・・綺麗な心を持ってるね」
「あは・・うん・・」
気付けば商店街まで来た。ぶらぶらと歩く。
デート・・・だよな?
目線が集まる。
僕と美空ちゃんって・・目立つ?
美空ちゃんは銀色の髪だし可愛いし・・。
僕は何?
「あぅ、たいやき・・・」
「美空ちゃん?」
「食べたい・・・」
目がトロンとしている。
「たいやき2つください!」これで財布は空になった。「はい、美空ちゃん・・」
手渡すと美空ちゃんは我に帰った。
「あ、ごめん・・・甘党でさ・・ははっ」
照れた・・可愛い・・。
二人で歩きながらたいやきを食べる。
僕はもうお腹いっぱい。
「・・・・・」
美空ちゃんが僕のたいやきをちらちらっと見ている。「食べないの?」 凄く欲しそうな目で言われた。 「はい、あげる!」
「・・・春は気が利くね、ありがとう」
残りの半分をあげた。
「あまい・・美味しい」
「良かったね・・」
特に何もないけど幸せな時間。
僕は欲張りにはなりたくないな・・・。
こうやって歩く時間を楽しみたい・・。
いつの間にか裏切られると思っていた自分が消えていた。
「さて、帰ろっか・・」
「うんっ・・・」
ふと・・。
立ち止まって後ろを振り返った。
「誰か・・見てた?」
「・・春?」
「気のせいかな・・」
多分気のせい・・・。
たぶん・・・。
だって今僕をいじめるような人はこの街にはいないはず・・・。
※元投稿はこちら >>