入学式の前に学校に行く事になった。
こんな田舎なのに中学、高校があるのが不思議だな。「春くん、お母さんは来れないらしいけど・・」
「じゃあ一人でいいです」
「・・・・・」
「そんな目で見ないでください・・僕は悲しくなんかありません」
利奈さんはたぶん可哀想って思っている。
そんな同情はいらない。
「春くん、私が一緒に行くから・・大丈夫」
「いいんですか?」
「うん、学校にも連絡しとくから」
「ありがとう・・ございます・・」
お母さんもお姉ちゃんも好きだった。
それは昔の話。
今は嫌い・・・。
知らない・・・。
夜中・・。
ふと目が覚めた。
時計を見る。
深夜2時。
明日も特に予定は無いし。「ふぁ・・はぁ・・」
上着を着て外に出る。
寒いけど綺麗な空気を吸いたい。
少し散歩をする。
虫の鳴く音。
風の音。
それぐらいしか聞こえない・・・。
空を見上げる。
キラキラ輝くお星さま。
昔、絵本で読んだ。
ずっと空を見上げていればいい事があるって。
でもたぶんいい事なんてない。
「・・・・利奈?」
誰かが読んだ・・。
視線を戻す。
銀色の髪の女の子がいた。綺麗な青い瞳。
天使・・・!?。
「なんだ・・あなたは誰?」「えと・・」
「まぁいいや・・・」
僕に近づいてきた。
僕と同い年くらい。
今まで見た事無いくらい綺麗。
お人形みたいだ。
「ふーん・・・」
「わ・・天使さん?」
「ははっ、天使か・・」
「えと・・僕は榊春って言います・・君は?」
「私は美空・・」
綺麗な瞳・・・。
本当に人間なの?
凄く可愛い・・・。
「ふぁ・・疲れた・・」
「えと・・僕の部屋来る?」「変な事しない?」
「し、しないよっ!」
「ははっ、冗談だよ」
その微笑みで・・・。
たぶん好きになってしまった。
一目惚れ・・・。
家に案内する。
僕の部屋に招く。
「春の部屋?」
「う、うん・・」
「ふーん・・・」
僕の布団に寝転んだ。
「布団・・・懐かしい」
「えと・・たしか利奈さんの友達?」
「そうだよ・・」
布団に潜り込んでしまった・・・。
ドキドキする・・。
「春くん・・寝れないの?」利奈さんがいつの間にいた「利奈っ!」
「え・・美空ちゃん!?」
二人とも抱き合った。
僕は見とれる。
美少女が抱き合ってる。
なんか僕にはもったいないような・・。
「どうしたの?日本に戻ってきたの?」
「うーん・・まぁ家出かな」「家出・・?」
「深くは聞かないで・・」
「うん・・・美空ちゃんの秘密は誰にも言ってないからね」
美空ちゃんは僕をじっと見ている。
見られるだけでドキドキする。
「春、君はどうしてここへ来たの?・・・・いや・・言わなくていいや」
「僕は・・その・・」
美空ちゃんは近づいてきて僕の手を握った。
「言わなくていい・・」
ドキドキしておかしくなりそう。
夜中なので一度寝る事になった。
美空ちゃんは利奈さんの部屋で寝る事に。
僕はドキドキして寝れなかった。
どうしよう・・・。
翌日、朝御飯のにおいで目が覚めた。
いいにおい・・。
パジャマの上に青いパーカーを羽織る。
僕のお気に入り。
少し見た目に気を使わないと。
美空ちゃんに笑われちゃう・・・。
フラフラする。
まだ眠たい・・・。
「おはよ・・ございます」
「あっ、春くんおはよ」
美空ちゃんもいた。
ドキドキする・・・。
美空ちゃんの隣に座る。 「春、寝癖できてるよ」
髪を触られた。
「わ、わわっ、ごめん」
「そんなに緊張しなくていい」
ブラシで寝癖を治してくれた。
緊張するよ・・・。
こんな綺麗な女の子に触られるなんて・・。
朝御飯を食べる。
箸が震えるのは傷のせい。これは緊張のせいじゃない・・・。
うまく沢庵を掴めない。
「ちょっと見せて・・」
「う、うん・・」
美空ちゃんが僕の手に触れた。
傷痕はまだ残る。
思い出すだけで恐ろしい。「傷・・・深いね・・」
「う、うん・・・包丁で・・・その・・」
「いいよ、言わないで」
「うん・・」
あの時を思い出すと涙が出る。
恐ろしくて・・。
「左手を使えるように練習するていいかもね・・これじゃ鉛筆も握れない」
その瞬間ハッとした。
その事を忘れていた。
僕は・・・どうしよう。
「春くん・・困ったね」
利奈さんが僕の傷を見て言った。
鉛筆が握れなければ勉強も仕事もできない・・。
その瞬間お姉ちゃんに対する憎しみが爆発しそうになった。
「大丈夫・・・」
「えっ・・・」
美空ちゃんが抱き締めてくれた。
背中を擦ってくれる。
「その憎しみは何か別の物に向けるべき・・考えたらダメ・・・」
一瞬お姉ちゃんを・・・。いけない・・・。
表情に出てしまったかな?「左手・・使えるように頑張るよ」
利奈さんが拍手した。
「春くん、私も協力するね」「ありがとう・・利奈さん」そして今さらドキッとした美空・・凄くいいにおい。
朝御飯を終えてから少し字を書いてみた。
平仮名で あ と書いてみる「ぐにゃぐにゃ・・・むぅ」「やっぱり左手かな・・」
利奈さんが隣で見てくれた「もう少しがんばる」
鉛筆をギュッと握った。
「イタッ!!」
腕に激痛が走る。
「あ、無理しちゃダメ!」
利奈さんが腕を撫でてくれた。
こんなんじゃ・・料理したくなってもできない。
「ゆっくり・・・」
「っ・・たぃ・・いたい」
「美空ちゃん・・まだ傷が治ってないの?」
美空ちゃんは少し黙った。「医者が下手だったのと精神的な物・・かも」
悔しくて涙が出た。
しばらく利奈さんにしがみついた。
「僕・・諦めないから・・大丈夫だから」
「春くん・・」
何とかしないと・・。
しばらく練習をしてからお昼になった。
土日は面白いテレビがあるいつもの料理番組だ。
「美空ちゃん、美月くんはどうしたの?」
「あんなやつ・・・しねばいい」
美空ちゃんがそんな言葉を言うとはびっくりした。
「ケンカしたの?」
「うん・・もう知らない」
「そっかぁ・・」
僕はお菓子を一つ取る。
つつみを開けようとしたが力が入らない。
「くっそ・・もぅ・・」
美空ちゃんが僕の手からお菓子を奪って開けてくれた「無理しないで」
「うん・・ありがとう」
一口食べる。
イライラした気持ちが少し軽くなる。
「君はそんなんじゃ潰れちゃうね・・・」
「・・もう・・イライラして・・おかしくなりそう・・不安で・・」
もう・・心が良く分からない状態・・。
僕は泣くのも我慢しなきゃいけない。
こんな見た目で泣き虫じゃもう男の子として見てくれない。
ずっとそうだった。
「春くんは料理が好きなんでしょ?」
「いいえ・・・料理なんて」「お母さんから聞いたよ・・料理が大好きだって」
「・・・・」
「私に料理・・教えてくれない?」
「僕は・・・」
「料理が好きな春くん・・素敵だと思うよ・・」
僕はまた人のために料理をしていいのかな?
また裏切られたりしないかな・・。
傷ついたりしないかな。 もっと単純に・・・。
向き合って・・・みたい。「じ、じゃあ・・煮物を教えますね」
「うん、よろしく!」
利奈さんと美空ちゃんが微笑んだ。
自分の好きな事。
もう一度・・・。
向き合ってみよう。
※元投稿はこちら >>