すずめが小枝に止まっている。
まだ少し肌寒い春。
息を吐けば白くなる。
朝からマフラーを巻いて散歩している。
すずめはチュンチュンと鳴きながら飛び立った。
僕はため息をついてまた歩く。
「おはよ、春くん」
「あ、おはようございます」利奈さんはパジャマ姿で竹箒を二本持っていた。
「ほれ、一緒に掃除しよ」
「掃除・・」
嫌いじゃない・・。
さっさっと箒で小枝をはく「掃除をしてると心が洗われるね」
「はい・・」
「私も春くんと同じ事言っちゃった・・・ははっ」
「クスッ・・」
朝から笑えるなんてな。
少し明るくなれる。
利奈さんは今日は学校らしい。
朝食を食べてから制服に着替えに行った。
「今日は好きに街を見てまわるといい」
「あ、はい・・」
「おこずかいはあるか?少しあげよう」
「わっ、ありがとうございます!」
3000円も貰った。
ワクワクする。
お財布にお金をしまって僕も着替える。
「春くーん」
「わぁっ!!」
利奈さんは気配を消すのが上手いらしい。
まったく気付かなかった。「お着替え中か・・・」
「な、なんですか?」
「かぁわいい・・」
ニヤッと笑って僕を見ている。
「えっとね、街を歩く時は怪我しないようにね!」
「は、はい・・・」
「じゃあね、いってきます」可愛いって言われたけど・・・利奈さんの制服姿の方が可愛い・・。
小さなカバンを背負って神社を出た。
この大林神社は街の外れにある。
少し歩いてみよう。
車の通りは少ない。
とりあえずスーパーを見てみたい。
スニーカーは綺麗だ。
あんまり出歩く事無かったから。
近くには山もあるし山菜とかを取ってみたい・・。
いや・・もう料理はしないんだし・・。
大分歩いてスーパーにたどり着いた。
思ってた以上に大きい。
買い物するとかさばるから中に入るのは後でいいや。しばらく歩いて商店街にたどり着いた。
小物のお店がある。
綺麗な手鞠が売ってる。
これ・・・利奈さんにあげよう。
「あの、これください」
「はいよ・・んっ?」
僕をじっと見た。
「見掛けない顔だね・・ふむ・・」
「昨日ここに引っ越してきました、榊春と言います12歳です」
「ほぉ、偉いね。よしっ、じゃあ半額にしてあげよう!!」
「えっ、いいんですか?」
「いいよ、女の子には手鞠が似合うからね」
「ありがとうございます」
お金を払ってお店を出た。何でも利奈さんに買う事分かったんだろう・・・。
もしかして僕を女の子と間違えた?
少し・・・落ち込んだ。
けど嬉しかった。
なんか意外に長い商店街だな・・。
八百屋でお野菜を眺める。大根はでっぷり太い。
どれもいい野菜だな。
でも今は買えないなぁ。
「よぉ、お嬢ちゃん、どれにしますか?」
「僕は男ですっ・・」
「あぁ、すまんすまん!」
おじさんが野菜を適当に袋につめている。
「これは謝罪の気持ちだ!後で届けてやるから、家はどこだい?」
「えっと、大林神社です」
「ほぉ、すると利奈ちゃんの知り合いかね・・・分かったよ、後で届けてやるからな」
「ありがとうございます!」
僕は冷徹な人間になったつもりだった・・・。
けど・・・なんか暖かい人たちに触れて。
気持ちが温かくなった。
商店街を抜けてまた住宅街に出た。
もうすぐお昼だ。
お財布にはまだまだお金がある。
ふといいにおいに誘われて足を止めた。
食堂みたいな場所。
グゥーッとお腹が鳴る。
入ってみようかな。
「いらっしゃい」
高校生くらいの男の子・・坊主だ。
イケメンと言うより男前なかんじ。
椅子に座る。
メニューには色々ある。
「ふむーん・・・」
「ラーメンがおすすめだよ」「あ、じゃあラーメンお願いします」
坊主の人はパッパッと手際良くラーメンを作った。
醤油かな?
「はい、お待ち」
「わぁ・・」
シンプル・・これは僕の好みだ。
まず出汁を飲んでから一言「凄い・・・」
「ははっ、麺も食ってみな」「はい・・」
ツルツルした麺。
美味しい・・・。
「今日は親父がいないから俺が店番してんだけどさ、まぁまぁいい出来だよ」
「ほぇ・・・美味しいです」「そか、いっぱい食いな」
こんなに美味しいのは初めて。
「さて・・そろそろだな」
「・・・・?」
またパッパッと作り出した店内には僕一人。
何だろう・・・。
ガラッとお店の扉が開いた「遊っ、メシ食わせろ!」
「あ、春ちゃん!」
利奈さんとやんちゃそうな女の子が入ってきた。
「利奈の知り合いか・・」
「榊春って言います」
「ほぉ、桂木遊ってんだ。よろしく」
遅いけど自己紹介をした。利奈さんは僕の隣に座った「奇遇だね、お昼はラーメンか・・」
「遊っ、めしっ!」
「犬か・・お前は・・」
遊さんは少しため息をついてどんぶりを置いた。
やんちゃそうな女の子は僕を見た。
「へぇーっ・・・これは久々に可愛いおなご・・」
僕はムッとした。
「へ?違うの?」
「ははっ、利奈。男の子だよ」
「おおっ、ごめん!」
頭を撫でてくれた。
なんか元気な人だな・・。「村谷瑠美!よろしく」
「は、はぃ・・」
しばらく話した。
みんな近くの高校に通ってるらしい。
「今年は気合い入れて色々しないとなぁ・・」
「遊は店を継ぐんでしょ?」「あぁ・・大学は行かないよ」
利奈さんはおにぎりを食べている。
炊きたてごはんのおにぎりはとっても美味しい。
さっきの手鞠をあげようかな。
「これ、利奈さんにあげる」「わぁ・・ありがとう!」
喜んでくれた・・。
僕は他人の事なんか気にしないって思ったのになぁ・・・・。
「今日は学校昼で終わったから暇だよね」
「そだな・・暇が一番だ」
遊さんと瑠美さんは仲良さそうだ。
利奈さんは手鞠で遊んでいる。
「ねぇ、美月くんと美空ちゃん元気かなぁ・・手紙はくれるけど・・どうかなぁ・・・?」
「みーか・・・きっと外国でも腹ペコなんだろうな・・・俺のメシを食わせてやりたい・・」
「まぁ私の部下なら元気でしょ・・?たぶん・・」
昔の友達かな・・。
外国に行ったのか。
お店を出てから利奈さんと神社に向かう。
今日の探検はこんなもんでいいかな。
少し疲れた。
「春くん疲れた?」
「ううん、がんばる」
「そっか・・」
微笑んで僕を見てくれる。本当のお姉ちゃんがこの人だったらな・・・。
あんな悪魔は・・嫌い。
商店街でたい焼きを買って帰る。
歩きながらかぶりつく。
「八百屋のおじさんに野菜貰ったよ。後で届けてくれるって」
「へぇ、どして?」
「僕の事お嬢ちゃんって言ったからその謝罪の気持ちだって・・」
「ははっ、やっぱり春くんは可愛いから間違われるんだね」
「むぅ・・・」
僕は男・・だもん・・。
「春くん、自分の容姿は簡単に変えられない・・君は恵まれてるんだから」
「そうですか?じゃあ利奈さんも恵まれてますね」
「お世辞?ありがとう」
「いえ・・本当に可愛いです」
僕を見てまた顔を赤くした「も、もぅ・・春くん・・」恵まれてるのか・・そんなの思った事なかった。
八百屋さんのトラックが来ていた。
野菜はもう運んであるらしい。
「ねぇ春くん、夕飯作ってみる?」
「僕は・・・できません」
「そっか・・」
包丁を握れなくなった。
右手の傷のせいもある。
利奈さんはすぐに微笑んだ「いつか・・食べたいな」
この人のためなら・・。
また料理をしても・・。
いや・・裏切られるかも知れない。
そんな考えがぐるぐる巡った。
僕はやっぱり変わってしまったのか・・・。
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