階層を移動するときは大型のエレベーターに乗る。
もう歩けるようになったし大丈夫って言ったけど美月がついてきた。
最近私にベッタリだ。
エレベーターが動く。
美月が手を繋いでくれる。「長いね・・・」
「うん、あと10分くらい」
「そんなに?」
どうやら一階層動くのにだいぶ時間がかかるらしい。なかなか不便だな。
チンッ。
やっとついた。
農業階層。
扉が開いてびっくりした。青空が広がっている。
まるで・・本物。
「綾、行こっ!」
「う、うん・・」
ぽけーっと空を見ながら歩く。
市場がある。
「いらっしゃーい!茄子に胡瓜!安いよ」
美月と見て回る。
日本の野菜もあるな。
紅南瓜・・ふむん。
甘そう。
一つ買ってみる。
さつまいもと南瓜でスイートポテトサラダにしよう。市場を通りすぎると畑が広がる。
草のにおい。
自然をちゃんと再現してる「ちょっと探検しよ」
「うん、僕もあんまり行った事ないや」
砂利道が続く。
懐かしい・・・・。
懐かしい?
私はここを初めて歩くんだぞ・・。
えんどう豆がなっている。かわいいな・・・。
煮物に入れると美味しい。ロボットが収穫している。ちゃんと分かるのかな?
とても1日で回りきれそうにないので引き返す。
「少しお腹空いたね」
「うん・・・あ、あそこに蕎麦屋があるよ」
美月の指差す方を見る。
古っぽい蕎麦屋だ。
看板も木製。
「ちょっと入ってみよ」
「うんっ」
ふるーい感じのお店。
がらんとしている。
「すみませーん」
奥からおばあちゃんが出てきた。
「いらっしゃいませ・・」
畳の部屋に案内される。
落ち着いた感じの佇まい。いいなぁ・・。
メニューは無いみたい。
壁にお品書きが書いてある「えーと・・僕は茶そばで」「じゃあ、私はおろしそば」おばあちゃんが注文を聞いてから奥に向かった。
ホントにガランとしているお客は私と美月だけ。
早速お蕎麦が来た。
これは・・・いいっ!
大根の辛みがたまらない。「おばあちゃん、すごく美味しいよ!」おばあちゃんはニコッと笑った。
ふむん・・こんな美味しいのに・・お客がいない。
美月も美味しそうに蕎麦を食べている。
おばあちゃんが美月の頭を撫でた。
「おばあちゃんは一人でお店をやってるの?」
「そうだよ、じいさんが死んでからはずっとね」
ふむん・・・いいなぁ。
二人でやってきて・・今は一人か。
私も美月も死なないから・・・こんな体験はできないだろうな。
お店を出た。
「また・・来よう」
「うんっ」
いいお店を見つけた。
またエレベーターに乗る。ぐらぐら小さく揺れる。
繋いだ手も小さく揺れた。心は暖かくて・・。
幸せな気持ち。
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