東の森には湖がある。
小鳥の囀り。
栗鼠もいる。
美空と二人で歩く。
探検バックからGPSを取り出す。
これがあれば迷わない。
美空がモシンナガンを構えながら歩く。
時々スコープを覗いたりしている。
「なんか赤軍になった気分だよ・・・」
「赤軍はGPSなんか持ってないよ、美月のばか・・」
「ばかって言うなよ・・雰囲気的になんとなく」
こうやって美空と一緒にいるのが一番いい。
美空を守るのが僕の役目。だって僕は美空のお兄ちゃんだから。
葉っぱや小枝を踏むと足音がしてしまう。
なるべく静かに歩く。
「美月は好きな人できた?」「へっ?好きな人?」
「うん・・・」
美空が周りを眺めながら聞いてきた。
女の子の友達もいるし。
でも好きって分かんない。恋愛なんて大人しかできないし。
「いないよ・・」
「そっかぁ・・良かった」
「美空・・最近そればっかり聞いてくるな・・」
美空は急に焦りだした。
「べっ、別に深い意味はないもん!」
「へぇ・・・」
美空は好き人はいるのかな・・?
美空はどんな人がタイプなのかな。
別にどうでもいいけど。
木がたくさんある。
森だから当たり前。
モシンナガンからスコープを取り外す。
アイアンサイトの方が狙いやすい。
スコープはワンタッチで取り付けられる。
「美空、たいくつだね・・」「そうかな・・私は美月といれればいいよ」
「美空は単純だね・・」
「うっさい、ばか・・」
しばらく歩くと湖が見える丘に出た。
「ランチ食べる?」
「うん・・」
美空と並んで座る。
サンドイッチを二人で食べる。
湖は太陽の光を反射して輝いている。
サンドイッチはハムとレタスとチーズ。
昔から美空と一緒だった。遊ぶ時も食事も。
美空は可愛い妹。
大事な大事な妹。
これからも守ってあげる。美空が結婚するまで。
好きな人ができるまで。
「美月のばか・・」
「へっ?」
「何でもないわよ・・」
美空はたまに呟く。
僕はバカじゃないんだけどな・・・・。
東の森には特に何もないな・・・。
つまんない。
「美空、帰ろうよ」
「えっ?帰るの?」
残念そうな顔・・。
・・・なんで?
「帰りたくないの?」
「むぅ・・美月ともっと二人きりになりたい」
「なに言ってんの?帰ろう・・つまんないよ」
「・・・・」
美空は変だ。
僕に照れたり。
双子の兄に照れたら結婚なんてできないよ。
GPSで来た道を戻る。
「美月・・待って!」
「ふぇ?」
美空が立ち止まる。
「なんだよ・・何かいる?」「静かに・・・」
茂みの方を睨んでいる。
何がいるんだ?
ガサッ・・・。
・・・・熊?
「美月、逃げよう!」
「うん・・」
走って逃げる。
まだこちらを見ていなかったから逃げ切れた。
「ふぅ・・撒いたか」
「まだ・・」
「へっ?」
後ろを見ると・・・。
かなり向こうにさっきの熊がいた。
「美空・・先に逃げろ!」
「美月?何言ってんの?」
「美空を守る・・僕は美空が大事だから・・」
美空は僕の頭を叩いた。
「イテッ!何を・・」
美空が泣いている。
僕が何したってんだ。
「ほんっとに・・バカッ!」美空が僕の手を握って駆け出す。
僕も走る。
後ろを見る。
熊がまだいる。
さっきより近い。
「美月っ!何か投げて!」
「うん・・・」
バックの中を漁る。
中には大した物はない。
「ダメだ・・何もない」
「むぅ・・こっち!」
美空がグイッと手を引っ張る。
木が沢山ある方向に走る。直線なら追い付かれる。
けどここなら真っ直ぐ走れない。
熊は立ち止まっている。
僕たちは動物が好きだし無闇に殺しちゃダメって教えられた。
でも今はマズイ。
僕は美空の手を振りほどいた。
「美月っ?」
「僕が美空を守るんだ・・」モシンナガンにスコープをつける。
熊はまだ立ち止まっているスコープで狙いをつける。「美月・・殺すの?」
「美空を守るから・・」
距離はかなりある。
けど射程内。
ボルトを引く。
高圧ガスでベアリング弾を発射する。
熊の目を狙う。
「熊さん・・ごめんね」
トリガーを引こうとして。スコープが真っ黒になる。「美空?邪魔するなよ」
「待って・・よく見てよ」
もう一度スコープを覗く。さっきの熊の近くに子熊が2匹いる。
子熊はさっきの熊に甘えている。
「あの熊は母親だよ・・母親を殺しちゃダメ・・」
「うん・・・」
熊は子熊と一緒に歩いて行った。
子熊を探していたのか・・・。
「美月・・帰ろう・・」
「うん・・・」
モシンナガンの自作の安全装置をかけた。
僕は美空を守ろうとした。けど守ったら・・あの母熊は死んで・・子熊は孤独に暮らす事になった。
家に戻るとおじさんが帰っていた。
「こら!どこ行ってた?」
「ごめんなさい・・」
二人で謝った。
ガミガミ怒られた。
さっきの熊の事で頭がいっぱいだった。
説教が終わって部屋に戻る・・・。
美空も僕の部屋に入ってきた。
僕はベットに寝転がる。 「美空・・ありがと」
「うん?」
「熊さん・・殺さなくてよかった・・・止めてくれてありがと・・」
「うん・・」
美空も寄り添ってきた。
二人で寝る事もたまにある・・・兄妹だし。
「嬉しかったよ・・」
「何が?」
「美月が私を守るって言ってくれて・・」
美空が僕に抱きついてきた僕は美空の頭を撫でた。
「お兄ちゃんとして当然の事だよ・・」
「うん・・・」
美空が急にしゅんとした。僕・・何か変な事言ったかな?
美空が僕から離れて部屋から出ていった。
僕は疲れた・・・。
眠くなった。
けど楽しかった。
美空と一緒に冒険できて。楽しかった・・・。
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