今は文化祭を成功させる事に集中しなければ・・・。リハーサルもだいぶ様になってきた。
ステージで通しでやってみる。
私はステージが見渡せる体育館中央に立つ。
「はーぃ!じゃあリハーサルスタート!」
私は台本を見ながら劇の様子を眺める。
いいな・・かなりいい。
みんな本気だ。
一生懸命演じている。
勇者と魔法使いが出会うシーンだ。
美月・・美空・・頑張れ!
「あなた達が・・噂の魔法使いですか?」
美月と美空は同時に喋る。「その通りです・・あなたは勇者さんですね」
ナイスハモり!
みんなちゃんと台本覚えてきているな・・・。
感心感心・・。
リハーサルが終わってクラスのみんなが集まってきた。
美月と美空は手を繋いでいる。
美術班は私と一緒に見ていた。
「いい出来だよ!この調子で文化祭2日間も頑張ろうっ!!」
みんながオーッと歓声をあげる。
教室に戻る。
「はい、今日はお疲れ様でした。明日の文化祭頑張ろうね!」
今日は早めに切り上げてみんなをゆっくり休ませる。教室が静かになる。
美月と美空と利奈が残っている。
「明日頑張ろうね!」
「うん!利奈の勇者カッコいいし良かったよ!」
「むぅ・・私も誉めてよ」 美空が不満そうな顔をするたまに見せる嫉妬の顔もまた・・かわゆい・
美月は美空の頭を撫でた。ニッコリ微笑む。
「美空は完璧だもん・・誉めなくても分かるでしょ?・・ねっ」
「うん・・うん・・そうだよね」
美空が一気にデレた。
「あは、ラブラブだね!」
利奈が二人に抱きついた。可愛い光景だなぁ。
私は教室を片付けてパンパンと手を叩く。
「はぃはぃ!そろそろ帰りましょうね!」
もう5時だ。
薄暗くなってきた。
「先生、明日頑張ろうね!」利奈が手を振って帰って行った。
教室の中には私達家族だけ「ほら、美月と美空も帰ろ・・・」
振り返ると・・・。
キスをしていた。
魔法使いの衣装のまま。
「ちゅっ・・んっ」
「んっ、あっ・・」
そんな見せつけるようにしなくても・・・・。
二人は見つめ合っている。「美月・・大好きだよ」
「美空・・愛してる」
私は・・どうすればいいのかな。
ただただ眺めるしかない。
いや、止めないと。
まだ学校にいるんだから。「ほら、帰ろう・・キスはお家でしましょうね」
「うん・・・」
「美月・・手・・」
二人共・・・手を繋いで幸せそう。
双子で愛し合うか・・。
二人で幸せになればいい。私はそう願う。
帰ってから夕飯の支度をする。
教室は焼き肉だ。
「美空、キスしよ・・」
「うん・・しよ・・」
またキスしてるし・・。
「あんっ・・はぁ・・」
「んっ、ああっ」
私はホットプレートを用意する。
テーブルに置いてコンセントに繋げる。
「ほらほら、焼き肉食べよう・・・」
まだ離れない。
舌が絡まって・・・。
いいなぁ・・・。
「こらっ!二人共いい加減に・・・・」
美月が美空を押し倒した。もうダメだ。
完全に聞こえてない。
私は逃げるように部屋に向かう。
「やってらんない・・何よ・・・」
ベッドに倒れこんで・・。目を閉じる。
ルカ・・・・。
やっぱり貴方が一番・・。
その日は公園で遊んでいた私とルカと美月と美空で。
美月と美空はとても可愛くて・・・仲良くて。
天使と言う言葉がぴったりで・・本当に本当に可愛かった。
ルカは出会った時と変わらない。
美しいまま年を重ねている「ルカ、ジュース買ってくるね!」
ルカは頷いた。
美月と美空は無邪気にボールで遊んでいる。
「ママっ!僕オレンジジュースがいいっ!」
「私も美月と同じがいい!」可愛い・・・。
母親になったんだよな。
「はいはい、分かったよ!」手を振って返す。
ゆっくり歩いて・・。
幸せを噛み締めて。
自販機に向かう。
母親になって・・。
愛しい人がそばにいて。
可愛い子供がいる。
やっとあの人に言える。
クリスおじさん・・助けてくれてありがとう。
今、凄く幸せだよ・・。
自販機でジュースを買う。缶が一つ一つ重たい。
幸せが詰まっている。
ふと・・頭に文字が浮かんだ。
【幸せになってね・・】
ルカ?何を言ってるの?
さっきの所に戻る。
いない・・・。
何で?
私の幸せが消えた・・。
車が急発車した。
黒いワゴン。
まさか・・。
手からジュース缶が落ちる、夢中で追いかける。
ナンバープレートをチェックする。
必死に追いかけたけど。
追い付けなかった。
公園に戻ったけど。
捜してもいなくて・・。
私は・・・。
泣かない。
すぐに師匠に電話した。
「師匠、助けて!」
「・・・どうした?」
「ルカが・・私の子供が・・拉致された・・」
「すぐに行く・・待ってろ」私は家に戻る。
シーンとしている。
「ルカ?帰ってる?」
家中捜したけどいない。
美月も美空も。
崩れそうだ。
けど・・私がしっかりしないと・・・。
しばらくして師匠がやってきた。
「楓、大丈夫か?」
「師匠・・ナンバープレートは確認しました・・」
事情を説明する。
あの車が怪しい。
「今すぐ俺の知り合いに捜してもらおう・・行くぞ!」「はい・・」
師匠は日本にもネットワークがある。
殺しの仕事は辞めたけど今は探偵をやっている。
日本全国に仲間がいる。
すぐに師匠の家に向かう。師匠の家は少し離れた所にある。
すぐに連絡が取れるようにと師匠も近くに住んでる。師匠は電話で仲間に連絡を取っている。
私は落ち着かない。
さすがに今回ばかりは・・無理だ。
「楓、今連絡を取ったから・・大丈夫か?」
「師匠・・どうしよう・・私・・怖いよ・・」
師匠は私を抱き締めてくれて。
ゆっくり落ち着かせるように背中をさする。
「大丈夫だ・・きっと大丈夫だよ・・」
「師匠・・」
数日間しても・・見つからない。
私はもう怖くて心配で・・・・・。
師匠は私に寄り添ってくれている。
私は少し大人になったつもり。
母親になったから。
精神的にも強くなったと。でも・・なんで?
こんなの拷問だよ・・。
耐えられる訳がないよ。
師匠の携帯がなる。
「あぁ・・分かった、今すぐ行く」
「師匠・・・」
「楓・・場所は分かった・・・・研究所にいるそうだ・・・一応仲間が偵察しているが・・覚悟はしておけ・・・いいな」
私は崩れそうになる。
そんな・・・。
研究所って・・・。
ルカが狙われてたの?
「しっかりしろ!母親だろ!」そう、私は母親。
家族を守る。
すぐに仲間の所に向かう。仲間・・・クロスだ。
彼も暗殺者をやめた。
「クロス・・私・・」
「あんまり心配するなよ・・・・大丈夫だよきっと」クロスのいつもの冗談はない。 研究所の周りはフェンスで囲まれている。
かなり大きい。
車で装備を着る。
防弾ベストとM4といつも持っているPx4。
「警備がいないぞ・・?」
仲間が呟く。
仲間はクロスを含めて10人セキュリティは厳重なハズ・・・。
「どうする?」
師匠は少し考えている。
「Aチームは正面から、Bチームは搬入口から。俺と楓は裏口から行く」
「了解・・・」
私は師匠を見つめる。
「楓・・大丈夫だ」
「うん・・」
師匠は私のお父さん。
そう思って生きてきた。
恨む事もあったけど大切な人だ。
私の大切な育ての親。
警備がいない。
全く・・・。
何かおかしい・・・。
私と師匠で裏の入り口から侵入する。
私の前に・・・。
とんでもない光景が広がる・・・・。
真っ赤・・死体だらけ。
そこらじゅう真っ赤。
警備や研究員。
重武装した兵士もいる。
みんな血まみれ。
「師匠・・」
「楓、気を抜くなよ」
「はい・・」
感覚は鈍ってない。
M4を構えて捜索する。
いたる所に死体。
誰が・・・?
コンピュータがまだ生きている。
少しいじる。
研究データー・・。
双子について・・。
嫌な汗が流れる。
美月と美空・・・。
双子には戦闘能力特化が見られる。
あらゆる点で最高のバランスである。
遺伝子変更実験予定日は明日の日付。
生殖能力は無い。
実験して詳細を調べる予定・・・。
もう張り切れそうだった。こんなの見たくない。
「楓っ!子供がいたぞ・・生きている・・」
「本当ですか?」
すぐに仲間の所に向かう。クロスが美月と美空を抱えていた。
真っ赤で・・・。
二人共真っ赤・・。
「怪我してるの?手当てを」「大丈夫だ。美月が頭に怪我をしていたが手当てはした・・・」
「な、なんで・・血まみれなの?」
クロスはうつ向く。
「二人の近くにナイフがあった・・・分かるな」
「えっ?・・・まさか」
二人がやったの?
この研究所の全員を?
ありえないよ・・・。
「・・・ルカは?」
「まだ見つかっていない・・おいっ!」
私は走り出していた。
制止の声も振り切って。
ルカ・・ルカ・・どこ?
いつものように語りかけてよ・・・。
大丈夫だよね・・・。
実験室を一つづつ開けていく。
「いない・・ルカ・・どこなの?」
捜して捜して・・・金属製の扉の部屋。
ここかな・・ルカ・・。
扉を開けて・・・。
私はライフルを床に落とした。
「あ、ああ・・・あ・・」
ルカがいた・・・。
でもルカの中身が出されていた。
保存用の瓶の中に中身が一つづつ保全されている。
薬品につけられている。
パソコンがついている。
こう書いてある。 解剖結果。
成果なし。
必要性無し。
内蔵類、脳は標本として採取・・・。
ルカが必要性無し?
何言ってるの?
私のルカを・・・。
ルカの体は冷たくて。
手にはたくさんの傷痕。
守ったんだね・・美月と美空を・・・。
ルカの顔は・・・。
もう・・動かない。
笑ってくれない。
私は床に崩れ落ちた。
「いやぁ・・・いや・・ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
なんなの・・・。
こんなの酷すぎる。
「楓、大丈夫か・・・」
師匠が来た。
たぶん吐いている。
こんな酷すぎる。
酷すぎる。
酷すぎる。
なんで?
ルカはいい子だよ。
必要性ないなんて言わないで。
そんな言葉で否定しないで・・・・。
またルカと一緒になりたいよ。
そうだ・・いい方法がある「ははっ、あははっ!るーかっ!すぐに・・会おうね!」ホルスターからPx4を抜いて頭に押し付ける。
「ルカ・・好きだよ・・すぐに行くよ」
ルカにキスをして。
引き金を引いた。
バシッと弾かれて。
拳銃が遠くに飛ぶ。
「楓!やめろ」
師匠がやったの?
なんで?
なんで邪魔するの?
「なんで?・・なんでよ・・・邪魔するなよ・・あははっ・・あははっ・・あははっ!」
師匠に殴りかかる。
けどお腹をゴッと殴られて。
気が遠くなる。
目が覚めた。
ベット?
「楓、起きたか?」
「殺してよ・・殺して・・殺してよ・・なんでよ」
手首を縛られている。
「ダメだ、生きるんだ!」
「いや、殺して・・はやく・・はやく・・はやく殺してよぉおおおお!」
もう叫ぶしかできない。
幸せを掴んだ。
けどすぐに溢れ落ちてしまった。
私は何ヵ月も拘束された。何も食べなければいつか死ぬから何も食べない。
もうダメ・・・。
私の子供もおかしくなった、私もおかしくなった。
もうこんな世界、嫌・・。
部屋には一人監視がいる。部屋の扉が開いた。
武器庫のおばちゃん・・。結婚式以来あってなかった私の頭を撫でてくれた。
「楓ちゃん・・」
「おばちゃん・・」
私を見て泣いている。
「辛かったね・・・」
「おばちゃん・・死にたいよ・・・」
「楓ちゃん・・いっしょにおいで・・ルカ君のお墓作ろう」
「・・・お墓?」
「そう・・おいで」
私の拘束を外してくれた。おばちゃんは私をおんぶしてくれた。
部屋を出て。
車に乗って。
私は久しぶりに眠れた。
おばちゃんの家だ・・。
前に来た事がある。
「目が覚めた?何か食べようね・・」
「いらない・・・」
「楓ちゃん・・お願い・・」「いや・・」
ギュッと抱き締められて。頭を撫でられて。
「楓ちゃん・・・死んじゃだめ・・」
何週間もそう言われて。
私も死んじゃダメって思うようになった。
ご飯も食べれる用になった白い犬がいた。
モコモコしてて可愛い。
大福って犬。
おばちゃんと私で遊んであげた。
「楓ちゃん、名前変えよう・・・もう別人になろう・・その方が楽だよ」
「うん・・もう忘れる・・全部忘れる・・」
黒木綾・・。
私の新しい名前。
楓は死んだの・・。
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