チート使いは必ず製造者からチートを買う。
製造者さえ抑えればチート使いも減る。
だがそう簡単にはいかない・・・。
今日、ニックから情報が入った。
製造者が直接で取引するらしい。
ニックの情報はいつも確かだが今回ばかりは怪しい。製造者が取引をするなんてありえない。
何人も仲介者を通して取引するのがあたりまえになっている。
取引はUSBメモリと金を交換するだけ。
振り込むより直接渡す方が多い。
簡単なチートの価格は大して高くないのだ。
高くはないが影響力は絶大である。
安い原価で高い効果を上げる。
細菌兵器みたいな物。
4班に別れる。
買い取り手の顔は分かってる。
こいつを尾行すればいずれ製造者にたどり着く。
私と武村さんで尾行する。随時連絡をする。
周囲4ブロックは包囲。
店に入って行った。
「飲食店に侵入・・」
無線で報告する。
二人で入店して男の見える席に座る。
男は注文をして窓を眺めている。
ふと気付いた・・・。
この店ってこの前ミクちゃんと水樹が会っていた店じゃないか。
うろ覚えだが・・・。
気にしすぎか・・。
男は窓を眺めながらタバコを吸っている。
余裕そうだ。
アタッシュケースを持っている。
VRでの取引では手渡しが一番証拠を残さない。
私と武村さんも注文をするバカウサギは今日はいない邪魔になるだけだ。
なかなか来ないな。
男が食事を終えた。
席を立って店を出た。
取引前の腹ごしらえか?
随分余裕そうだな。
アタッシュケースを置いて行った・・・。
「・・・・?」
「アリス、追え・・」
「・・・はい」
男の後ろをつける。
おかしい・・大事な物を忘れたのに。
全く気付かない様子。
もう取引をした!?
男は誰とも喋っていなかったぞ・・・。
無線で報告。
「武村さん、そちらの様子は?」
「異常無しだ・・」
尾行は私以外にもいる。
見えないけど頭上にUAVがいるはず。
男がまた店に入った。
小さな電気店。
さすがに私が入ると怪しまれる。
別の仲間が店に入った。
無線が入る。
「単3電池と豆電球を購入・・・」
今回は誤報のような気がしてきた・・・。
さすがのニックもミスはするのか?
店から出てきた。
仲間と二人で尾行する。
どこに行く気だ?
こちらの尾行に気付いて取引は中止したか?
いや・・それはない。
そんなはずない。
バレるはずがない。
私も味方も尾行の訓練は受けた。
素人に分かるはずない。
路地裏に入って行った。
ボロいマンションに入って行った。
気付かれないように尾行する。
味方はいつでも拳銃を取り出せる体勢になる。
私も腰のホルスターにあるPx4に触れる。
いつも使っている拳銃だ。男はキョロキョロして部屋に入って行った。
味方と近づく。
「踏み込みます?」
「まだ待て・・・」
話し声が聞こえる。
少女の声だ。
「お金は?」
「用意してある・・こんな少額でいいのか?」
「うん、尾行はされてない?」
「あぁ、されてない」
「じゃあ買った物を見せて・・・オッケー・・じゃあこれがチートよ」
「よし・・・」
味方に合図する。
周囲は取り囲んである。
バンッ。
ドアを蹴破る。
「VRPだ、動くな!」
男が手を縛られて椅子に座っている・・・。
口を塞がれてジタバタしている。
「なんで・・?」
味方が口のガムテープをはがして問いただそうとした・・・。
背後に気配・・・。
振り返ると何かが走って言った。
廊下に出て何かを見る。
ミクちゃん・・・!?
「アリス、追いかけろ!」
「了解!」
走って追いかける。
速い・・何て速さだ。
階段をかけ登る。
屋上に出た。
「動くな、止まれ!」
相手は子供だ・・。
撃てない。
私を無視して隣のビルに飛び移った。
私もなんとかジャンプする子供のくせに・・・。
銀色の髪がなびいている。「とまれっ!」
パンッ!
ミクちゃんは止まった。
こちらを振り向く。
「アリスさん・・・水樹は本物だよ」
「何を言ってるの?」
「水樹の言った事を信じてね・・・」
どういう事だ?
消えた・・・。
瞬きをした瞬間。
消えた・・・・。
製造者だから自分で作ったチートを使ったのだろうか・・・。
「報告・・・消えた・・いなくなった」
作戦は失敗。
製造者を捕まえられなかった・・・。
VRの警察署に戻って私の視覚情報を見る。
尾行してマンションの部屋に突入するまでは映っていた。
背後を振り返った時にノイズで何も見えなくなった。「なに・・これ?」
ハッキングされたの?
誰に?
他の味方の映像にはノイズなんて無かった。
武村さんも首を傾げている「アタッシュケースは空だった・・・どうなってるんだ・・・」
一旦現実に戻って状況を整理する。
ミスしてしまった事と理解できない状況で落ち着かない。
「ほら、コーヒーだ」
「あ、はい・・すみません」武村さんがコーヒーを持ってきてくれた。
「落ち着いて・・話してくれ、あの後何があった?」武村さんが肩をさすってくれる。
「あの後追いかけて・・屋上に出た後・・隣のビルに飛び移ったんです・・それを追いかけて・・」
「アリス、隣にビルなんてない・・・隣には民間しかない・・飛び移れない」
「・・えっ?」
たしかに私も隣のビルにジャンプした・・。
どうして?
武村さんが頭を撫でてくれた。
深呼吸をして落ち着く・・・。
「大丈夫だ、ゆっくりでいい・・今日は帰っていい。ゆっくりでいいぞ」
「はい・・・」
武村さんは腕を組んでうなる。
「記憶改変・・噂には聞いていたがそんなチートがあったとはな」
「記憶改変・・・?」
武村さんは私の肩を優しくたたいた。
「気にするな、今日は帰れ・・・」
「はい・・」
馬木くんに迎えにきてもらった。
後部座席で寝転がる。
「アリス、大丈夫?」
「うん・・・」
家に帰って自分の部屋で寝転がる。
馬木くんが心配そうに毛布をかけてくれた。
「アリス・・」
「うん・・」
「本当に大丈夫?」
「うん・・・」
「無理しないでね」
馬木くんが顔を近づける。チュッと軽くキスをした。「馬木くんが・・キスしてくれた・・」
「ははっ、元気になってね」「うん・・」
馬木くんは微笑んでから部屋を出ていった。
ミクちゃんは言ってた。
水樹を信じてって・・。
水樹・・・。
「水樹に聞いてみよう・・」ベットから出て水樹の部屋に向かう。
水樹の部屋まで遠い。
「アリス・・・」
父さんと会ってしまった。無視して通り過ぎようとした。
腕を捕まれる。
「やめて・・水樹に会いに行くの」
「俺より水樹の方がいいのか?」
「何言ってるの?離して」
「アリス・・」
ぐいっと引っ張られる。
近くの部屋に強引に連れ込まれた。
「やだっ、父さんやめて!」父さんは私を押し倒す。
「アリス・・」
「やめて!触らないで」
父さんはおかしい・・。
何でも私に執着するの?
あぁ・・ダメだ・・。
流されてしまう・・。
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