里美はハンドルを握ると、真一の待つ場所へ向かった。
隣町の駅前に、真一は待っていた。
「真ちゃん、お待たせ。」
助手席のドアを開け、真一を乗せると、直ぐに車を走らせた。
「里美さん、何時までなら大丈夫?」
席に座るなり、真一が時間を尋ねた。
「4時には子供が帰って来ちゃうわ。それまでに帰らないと。」
里美は時計を眺めながらそう言った。
まだ昼前、今からでも時間は十分だ。
「4時間有ればいくらなんでも十分だよね、 里香さん?」
真一が里美に投げかけた。
「何それ? 如何意味?」
里美は真一が言う意味を、薄々感づいてはいた。
「本当、好きだからな、里美さんも。」
肉体で結びついている男女は、この手の会話は平気だ。
いや、この手の話でしか、相通ずるものがないのかもしれない。
いや、ない訳では無いが、それには男の決断が必要だ。
何しろ、夫が持つ配偶者の権利は強い。
里美の夫、昌男の権利を侵害しているのは真一の方だ。
もし問題になれば、二人が別れる事は無論、莫大な慰謝料を真一は夫側から
要求される。
夫の権利を侵害したと言う事になる。例え妻に愛情が無くても、婚姻してい
る間は守られる。
それだけの覚悟が有って、真一は里美との関係を続けているのか?
それがないのなら、早い内やめた方が良いに決まっているのだが・・。
この二人に、その危機感は無かった。
何時ものモーテルに車を入れると、2人は部屋へと入った。
「お風呂入れるわ?」
里美が、甲斐甲斐しく振舞う。
それが、いかにも女の仕事の様に。
お湯を張っている間に、浴室前の化粧鏡で、早くも髪をひとつにまとめた。
ロングヘアーなので、それを濡らさない為だ。
「相変わらず、旦那としてないの?」
ソファーに腰掛けて、テレビを見ている真一が、化粧鏡の前の里美に尋ね
た。
「セックス?」
「そう、やってないの?」
「してないわよ。その気も無いけどね。」
不思議なものだ。
里美にとって、セックスは当に忘れた存在だったはずなのだが、今はそれが
生きた証となっている。真一とセックスが、自分の存在を意識し、確認して
いる行為と言えるのだ。
「真ちゃん、入れるわよ。」
浴槽の湯が一杯になったのを確認すると、真一に声をかけた。
真一がソファーに服を脱ぎ捨て、浴室に入った。
里美はキチンと服をたたみ、その下に下着を隠し、全裸になってバスルーム
へ向かった。
<影法師>
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