対応が早い。
もうSATが来た?
突入はまだだろうが。
隊長は無線を離さない。
「準備はいいな?」
何か企んでいる?
学校のスピーカーから男性の声が流れる。
「要求は聞いているな。あいつを連れてこい。金も何もいらん。あいつを連れてくるだけでいい。以上だ」本当に娘の敵討ちだけ?
報酬無しで仲間が動くのか?捕まるだけだぞ?
隊長の目がいっそう鋭くなる。
「全員、俺のために動いてくれて感謝する。あの世に行ったら俺がたらふく酒を飲ませてやる」
隊長の笑みは死を覚悟した儚い・・・笑み。
「あぁ!もちろん俺がおごるさ!はははっ!!」
無線を切ってマスクを被る部屋にいるもう一人に近づいて拳を合わせた。
「やってやろうぜ!」
「ええ、娘さんのために!」僕たちを部屋の隅に固めさせる。
銃声・・・もう突入か?
ババン、ババン、ババン。何発か区切って撃っている・・・AK47の銃声だけしか聞こえない。
「SATか?・・・・違う?誰だ?・・一人?」
隊長はAK47のボルトを引いてチェンバーを確認。
光学機器も何も付いていない。
「隊長、早すぎでは?連中はもっと遅いはず」
「SATじゃない・・・一人だけだ。兎のようだと・・・目が青く光っていたらしい・・・」
「なんですか・・それは?」SATはまだ作戦準備を終えて配置に着く前だろう。
別動隊?
まだ銃声は続く。
隊長はこちらを向いた。
「学校を傷付けてすまないな・本当に・・すまない」その目に偽りはなく本当に謝っている。
銃声がだんだん消えていく・・・仲間は恐らく20人。生存12人死亡8人。
次々減っていく。
凄まじいスピードで。
だんだんと近づいてくる。相手は何を使っている?
AKの銃声しかしない。
「悪魔が来たな・・・」
隊長が呟く。
会議室の電気が消される。僕達を囲うように机でバリケードを作る。 「君達は死なせないからな」隊長がそう言った。 会議室のドアの仲間もやられた。
もう来る・・・・
隊長ともう一人はドアに銃を向ける。
隊長はハンドサインでもう一人に命令しようとした。バリーン。
窓が割れる。
黒い何かが立っていた。
月明かりに照らされている・・・長い銀のツインテール・・・美空!?
いや違う。
僕は利奈と遊を毛布でかばう。 AK47の発砲音。
凄まじい爆音に耳を塞ぐ。銃声が止む。
終わった?
僕はそっと顔をあげた。
たっているのは黒い悪魔。銀のツインテール。
流線型のフルフェイスヘルメットで見たことない形・・・兎のような大きな目が二つ青白く光る。
全身真っ黒。
ボディーアーマーらしき物を着ている。
全身のフォルムはとても可愛らしい。
兎だ・・・銀色の垂れた耳の・・黒い兎。
隊長は生きている。
AKは吹き飛ばされてはるか向こうに転がっている。
「君が・・・やったのか?」隊長の胸に銀色の刃が刺さっている。
黒い兎は喋らない。
ナイフしか持っていない。隊長の頭に赤い点が光る。あれって・・・
「やめてっ!その人を殺さないで!!」
利奈がP22を構えている。黒い兎がナイフを利奈に向ける。
利奈の胸に赤い点が光る。「利奈っ!やめろ!」
僕は素早く銃を取り上げようとした。
パンッ。
黒い兎の頭に当たった。
よろめいたがすぐに立て直した。
僕は利奈をかばう。
P22を奪って黒い兎に向ける。
「動くな。ナイフを下に置け!」
黒い兎は少しこちらを見ている。
青白く光る二つの目。
あれは何だ?
黒い兎は後ろを向いて腰にある大きな鞘にナイフを納める。
もう一度こちらを見てから入ってきた窓に向かう。
「止まれっ!撃つぞ」
そう言い終わる前に黒い兎は振り返ってナイフを射出した。 腕をかすった。
怯んだ隙をつかれて黒い兎は窓から逃げた。 会議室は4階だ・・飛び降りた!?
利奈が泣いている。
この子はテロリストを助けた。
隊長は生きている。
少し遅れてSATが突入してきた。
学校を制圧し終わる。
僕は利奈の肩を支える。
「遊?大丈夫?」
「あぁ、たぶん・・」
SATに連れられて学校を出る。
怪我が無いか確認される。僕は救急車で怪我の手当てをされる。
「美月くん・・ごめん・・私のせいで・・・」
「いいよ・・泣かないで」
利奈が離れようとしない。医者が困っている。
「利奈、手当てするから少し離れて」
「うん・・・」
そう言ったが手だけは離さない。
医者はようやく手当てを始めた。
思ったより深い切り傷だ。医者は僕の頭を撫でた。
「ちゃんと治るよ。だが無理しちゃいかんぞ」
利奈はまた抱きついてきた・・
「利奈、大丈夫だって」
「うう・・・ぐすっ」
医者はそれを見て笑った。遊はパトカーで先に帰らされた。
学校は野次馬で大分騒がしくなった。
警官がバリケードを作っている。
SATはすぐ撤退した。
しばらく学校は休みだろうな・・・
僕と利奈はパトカーに乗ろうとした。
校舎の屋上のアンテナの上にさっきの黒い兎がいた。腕を組んで偉そうにこちらを見下ろしている。
その目は青く。
銀色のツインテールは風で揺れている。
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