今日は鋸山に行く予定・・・・だった。
朝からどうも調子が悪い。なかなかベットから出られない。
「美空・・風邪引いた?」
「・・・・ありえない」
私達は生まれてから病気にかかった事はない。
だから風邪ではない。
・・・と思う。
「ケホッ・・うぅ・・」
「風邪じゃん・・・」
「・・・ちがうもん・・」
「すぐに薬買ってくるから待ってて・・近くに薬局はあったかな?」
美月が地図を見ている。
私は地図を奪って放り投げた。
「風邪じゃない!・・・大丈夫だから」
「ワガママ言わないで」
私は負けたくない。
細菌程度に・・・。
「いい・・鋸山には行けるから・・早くしたく・・」クラッとよろめいた。
美月がすぐに支える。
ボーッとしてフラフラする・・風邪・・・かな?。
「寝ててよ。すぐに戻る」
「うぅ・・・」
ベットに寝かされる。
最悪だ・・・なんか凄い嫌な気分。
美月は財布を持って部屋から出ようとした。
「じゃあ大人しく・・・」
「早く・・・きて・・ね」
美月はクスクス笑った。
「素直になったね!」
「・・・っつ!」
「すぐ戻るよ」
パタン。
部屋に一人きり。
ウサギのぬいぐるみを抱き締めた。
なんだか凄い孤独感。
美月とお別れして銀兎になろうと師匠の所に行こうとした時。
車に黙って乗って・・。
美月を見れなかった。
ずっと私を見ているのに。美月は過去の話を聞いて私をバケモノと思った。
あまりに唐突すぎてしかたないと思ったけど。
美月自身は普通の人間と思って生きてきたんだ。
いきなりあんな過去を言われても・・・・。
私がいなくなれば美月は悩まないでいいから。
でも結果的に私は美月を巻き込んでしまった。
これでよかったのかな?
そんな想いが時々頭をよぎる。
バケモノは私一人でいい・・・そう思ったのに。
胸が苦しくなってきた。
熱はあるのかな。
おでこを触ると微かに熱がある。
「は・・ははっ・・風邪・・・・ケホッ・・私が風邪引くなんてな・・・」
夏風邪って長引くとか聞いた。
また迷惑をかけた。
美月に・・・・。
本当に情けない。
美月はまだ戻って来ない。もしかしたら私を置いてどこかに行ったのかも。
しばらく美月の心を呼んでいないから・・・。
また私を嫌いになったのかも・・・。
私って嫉妬深いし独占欲強すぎ・・・キモチワルイ。
目を閉じてみる。
美月・・・早く・・。
帰ってきてよ・・・。
鼻がなかなかきかない。
不安になる。
私一人じゃ・・・。
ダメだ・・・。
カチャッ。
「美空、お待たせ・・っ!」
私はテッシュの箱を掴んで投げつけた。
「・・・遅い・・・」
「ご、ごめん・・」
「私を・・・・」
「ん?」
「私を置いて・・どっかに行ったのかと・・」
「そんな事しない。死ぬ時も一緒」
真っ直ぐ私を見つめる。
またまたクラッとする。
枕に顔を埋める。
私って本当にバカだ。
美月は袋をガサガサとあさっている。
風邪薬とスポーツドリンクを取り出した。
「ほぃ、飲んで」
「・・・・・」
風邪薬なんて初めて飲む。多少の抵抗がある。
飲みたくないな。
「飲まないと酷くなるよ」
「・・・むぅ・・・」
私は口に薬を放り込んでスポーツドリンクで流し込んだ。
「んっ・・ケホッ・・」
「しばらくは安静にね」
美月は私のおでこを触ってから体温計を取り出す。
わきに挟むタイプ。
「これで熱計るからわきに挟んで」
「うん・・・」
わきに挟む。
少しヒヤッとした。
ピピピッ。
体温計を見ると38℃。
微熱ではないか・・・。
「まぁまぁ・・あるな・・」「・・・ごめん」
「ん?何が?」
「美月に迷惑かけた・・予定が狂った・・ごめん」
美月は少し困った顔をした
「別に・・いいよ。そんなに謝んなよ」
「・・・・・」
私の手を握ってくれた。
暖かい。
「美空の風邪引いた所見れて・・まぁ・・嬉しいよ・・・・」
「な、なに・・どうゆう意味・・?・・?」
美月は少し照れた。
「分かんないならいいよ」
「・・・?」
しばらくして眠くなる。
美月はテレビを見ている。眠いな・・・。
眠い・・・。
真っ暗。
真っ白。
夢の中。
真っ暗な方に銀兎がいる。私を見ている。
私は私。
あれは私?
銀兎は私・・・。
「美空はどうなの?」
銀兎が話しかけてきた。
「どう・・・って?」
「そろそろ・・僕になりたくなったんじゃない?」
「今は・・いい・・美月といたい・・甘えたい」
向こうは真っ暗。
銀兎の青い目が光る。
「美空はバカだね・・・僕は美空を待ってるよ」
「私がバカ?・・・なんで?甘えたらバカなの?」
「美空が僕になるって決めた時そんな物捨てたはず・・・バカだよ・・そんなんじゃ美空はなくなる。僕も悪人を消せなくなる」
「甘えたいよ・・・」
「ダメだよ。早くこっちにきて僕になって。美空は僕なんだよ・・」
銀兎が手招きをする。
「違う・・・銀兎は私の道具・・・私は私・・」
「いいや、違う。僕は本当の美空。今の美空は偽物」そうなのかな・・・?
私は・・・どうなの?
「美空は真っ白になる必要は無い。早く僕と一つになろうよ」
「うん・・・」
「美空は一人きりでいる方がいい。僕も美空と一つだから。美月とは離れるんだ。それが一番いいよ」
「そうだよね・・やっぱり近くにいない方がいいよね・・私はいらないよね」
「そう。美空はいらない。僕だけいればいいから」
銀兎と一つになる。
白と黒が混ざる。
何色になるの?
「・・・・っ」
目が覚めて・・雨の音。
美月は寝ている。
もう夜。
美月の隣にいちゃダメ。
やっぱり私は銀兎だから。美空じゃない。
甘えちゃダメ。
荷物を持って部屋を出る。どこに行こうかな。
ホテルを出て街を歩いてみて。
雨に濡れて。
もう何も分からない。
私はどっちなの?
分からないよ・・。
雨が酷くなってきた。
寒いし・・・苦しい。
風邪なんかどうでもいい。このまま消えたら楽かな?このまま美月と・・さよならをすれば。
しゃがみこむ。
苦しい・・苦しいよ。
ポツポツと服にかかる雨。私はこのまま・・・。
雨がやんだ・・・。
いや・・・。
誰かが傘をさして私のそばにいる?
「どこに行く気だよ・・美空・・」
美月だ・・。
どうしてそんなに必死な顔なの?
「美空、早く帰るよ」
「いい・・私は・・」
「いい加減にしろよ・・」
美月は怒っている。
「いい加減に・・甘えろよ・・・素直になれよ」
「私はダメだよ・・」
美月が手を引っ張る。
私はついて行けばいいの?このまま美月といていいの?・・どうなのか分からない・・・。
ホテルに戻ってからシャワーを浴びる。
少し暖まったかな。
バスローブを着て髪をバスタオルで乾かす。
「美空、こっちこい」
「え?・・わっ!」
手を引っ張られる。
「僕が乾かしてやるよ」
「いい・・自分で・・」
美月が頭を叩いた。
「ばかっ!!美空はバカだよ・・・」
「・・・美月?」
「もっと甘えてよ・・僕も美空を独り占めしたいよ・・・だから・・甘えろって・・もっともっと」
「美月も?独り占めしたいの?」
「・・・うん」
ずっと心を読んでいなかったから。
分かんなかったけど。
「だから・・もう逃げるな・・・」
「・・・うん」
「何かあったら言えよ」
「・・・うん」
「二人で一つだからね」
「・・・じゃあさ」
「うん?」
「美月も風邪引いて・・」
美月は一瞬固まったけど分かったようだ。
ゆっくりキスをした。
これで一瞬。
「んっ、美空の風邪・・貰ったよ」
「・・・うん・・」
イチャイチャってこうゆう事。
なんかバカみたい。
けど悪くない。
「今日は一緒に寝るよ」
「うん・・」
ベッドに入った。
私はきっと美月がいないと潰れてしまう。
分かってくれるから。
理解してくれるから。
甘えられるのは美月だけ。愛してくれるのは美月だけ・・・。
だから私は離れられない。もう逃げない・・・。
翌日に美月も風邪を引いた・・予定がだいぶ狂った。「・・美空・・」
「なによ・・ケホッ」
「狂っちゃうのも悪くない」「・・かもね」
私なりに少し成長したような気がする。
今はこうやってくっついていたい。
甘えていたい。
※元投稿はこちら >>