ネットで調べようにも情報がない。
黒服に直接聞いてみるか。いつも出迎えにくる黒服にきいてみるか。
「おい、黒服!」
「なんだ?やっと仕事の合間にブラックコーヒーを飲もうとしたのに・・・」
どこまでブラックなんだ?サングラスは着けていないまだ人間味がある。
「銀狼計画についと詳しく知りたい」
「あの計画を知ってどうする?」
「俺の恩人が関わっている・・知りたいんだ」
黒服はコーヒーをすすりながら少し黙る。
「まぁ、いいだろう」
黒服はパソコンを操作して資料のようなページを見せた。
「銀狼計画・・・人間の潜在能力を極限まで高める技術。発案者は増田と言う男だ。」
俺は黙って資料を見る。
「戦争で親を無くした子供を実験体にして薬物や手術・・・遺伝子を組み換えて子供を生ませるなどで改良が進められる。多額の研究費に見合う成果はなく実験は凍結。それでも増田は研究施設を作り極秘で進めていた。」
「クローン人間ではないのか?」
「クローンは寿命が短く当時まだ不安定だったからな・・・特殊な力を持った人間の遺伝子を保存しておく・・・孤児に組み込む遺伝子は戦争で優れた戦果を上げた者。超能力のたぐいを使う者。天才的な頭脳の持ち主。オリンピック優勝選手。それらの遺伝子で作った精子、卵子と人工受精させる毛髪、精子、卵子を保存しておく」
ズラッと並ぶリストにはかなり有名な人物ばかり。
銃器発明家などもいる。
「胎児から遺伝子を抜き取り安定化するまで改良された。ある程度安定化したら量産段階に入る。この時の遺伝子の種類は凄まじい数に及ぶ。優れた遺伝子同士を組み合わせて銀狼たちを作っていった・・・」
そこで資料は終わり。
「成果は全く無かったのか?それだけ金をかけたのに・・・」
黒服はコーヒーをすする。「大した成果はない。特殊な機能を持った人間も生まれたが量産が安定化しないでそのまま300人委員会は凍結を命令した。失敗した銀狼は焼却処分していたが一匹、研究者に連れ出された。行方は追ったが掴めず追っても価値はないのでそのまま放っておかれた。研究者は増田が直接殺害したと聞いたな」
あの双子は普通の人間の母親と銀狼から生まれたとか聞いたが。
不死になる事は十分な成果では・・・いや、量産と応用が出来なければ意味がないか。
「我々は増田を消すために過去に二度工作員を送った・・一人目は訓練経験が未熟だったために講演会場で銃撃したが外して捕まった・・・すぐに始末された。二人目は同じ時間帯を狙い暗殺者を雇って増田を狙撃させたが失敗。口封じのためと余計な事をしたため暗殺者の反撃を受け死亡」
二人とも未熟だったのか。俺ならどうしただろう。
「たしか逃げた銀狼と暗殺者の女との間に双子が生まれたんだったな・・・研究施設を崩壊させたのも双子だ。そんな物兵器として必要ない・・・恐ろしくて使えんよ」
その双子が美月と美空か。「ありがとう・・缶コーヒーおごるよ」
黒服は手で要らないと言った。
「悪いが缶コーヒーはあまり好きじゃなくてな・・・ホットミカンジュースなら欲しい」
こいつは・・・。
「もう一つ頼みがある」
「なんだ?」
「タイムマシンを使いたい」「・・・・なんのために?」「恩人が消えたかどうかもう一度確かめたい」
黒服は俺を見る。
どう見ても冴えないサラリーマンにしか見えない。
「恩人?だれだ?」
「その双子だ・・銀狼の双子」
「はぁ・・・まぁ歴史を帰るわけではないようだな」俺は恩人を消してしまったのだ・・・
もう一度2009年の12月に行ってみたい。
「過程は変化するが・・結果は変わらない・・・」
黒服がポツリと呟く。
「なんだって?」
「いや・・何でもないさ」
黒服はコーヒーを飲んでから冷蔵庫からケーキを取り出した。
「どうぞ、コーヒーケーキだが・・・」
「どんだけコーヒー好きなんだ?」
黒服はニヤリと笑った。
「カフェインはなるべく取るようにしててな。目が冴える。」
俺はケーキを一口食べる。苦い・・・ほのかに甘い。「あらゆる世界線に工作員を派遣して観測し記録を受け取り記す。それが私の役目だ」
「知ってるよ、最初に聞かされた」
「恩人に会ってどうする?」「会えるか分からんが・・行ってみたいんだ」
「そうか・・その恩人とはどこで知り合ったんだ?」俺は黒服に大体の事を伝えた。
戦地で助けられ過去でも会った事。
その時俺が言った事。
「なんとも面白いな・・・まぁ行ってくればいい」
正直ビックリした。
「なんでそんなに簡単に許可する?俺を始末するのか?」
「君への報酬だよ。君はよくやってくれている」
どうなのか分からない。
「その双子がどうなったのかしっかり報告書に書いてくれるならいいだろう」
「仕事はするさ・・・」
許可をもらいタイムマシンに乗る。
詞葉はまだ寝ていた。
座標と年を設定して2009年に向かう。
会えるといいな。
あの二人に。
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