「凄い混雑ですね、噂には聞いていましたけど・・・。」
滝嶋が会場の賑わいを見て、冴子に声をかけた。
「冴子様、車を駐車場へ廻しますので、ここで降りて頂けますか?」
工藤が、冴子に話しかける。
「判りました、滝嶋と先に入口の方に行っています。」
冴子が工藤の言葉に応えると、若い衆2人に向かい、
「小松、矢島、冴子様をガードしろ。」
そう指示した。
工藤から命じられた2人が、
「それじゃ・・姐さん。」
冴子にそう声をかけた。
「小松、その呼び方なんとかならないの? 私嫌い。」
冴子を呼ぶその呼称が好きになれない。
「でも・・、なんて呼ぶんですか?」
「名前を呼べば良いでしょう・・?」
当然の様に冴子が言うと、
「そんな、呼べないスよ。」
小松と呼ばれた若い衆が、慌ててそれを否定し、横で二人の会話を聞いてい
た滝嶋が、噴出した。
「冴子様の言う通りにすればいいんだ。」
傍で工藤が一喝した。
「工藤さん・・。参ったな・・。」
小松の顔に、困惑の表情が浮かんだ。
結局、「冴子様」と言う呼び方に変えられた。
黒服の若い衆に先導された一行は、周囲とは馴染まず、少し浮き上がった存
在に見えた。
遠巻きに、冴子の姿を見ている人達もいる様だ。
『ねえ・・あの人たちヤクザよね、 あの女の人は?』
『姐さん・・とか、何とか呼ばれている人じゃない? 偉い人の奥さんかな
んかじゃないの?』
『やあね・・こんな処まで来て、いい気なもんね。』
冴子の知らない処で、こんな会話が交わされていた。
<影法師>
※元投稿はこちら >>