甲武連合と呼ばれる、男を頂点とする組織暴力団だ。
表の顔は某商事会社の会長でもある。
しかし、その正体は傘下に5万人の組員を抱える組織のボスでもある。
「甲武の・・久しぶりだな。」
男と負けず劣らずに貫録ある男が、二人に近づいて来た。
「おう、千頭の、元気そうだな?」
千頭と呼ばれた男が、隣に立つ冴子の姿に目をとめた。
「甲武の・・、此方のお美しい女性は?」
「冴子、千頭会の田島会長だ。」
「冴子と申します、お見知りおき願います。」
身体が震える思いだった。
見るからに怖い男達の集まりだ。
自分が、とんでもない世界に係わりを持って来たのを感じた。
冴子は、その後次々と各親分衆に紹介された。
「中々良いじゃないか・・甲武の・・。」
誰もが声を揃えた様に冴子を褒めた。
「聞いているぞ、甲武がのめりこんでいると言う話じゃないか?」
「おいおい、本当かよ、そら、まずいな・・?」
冴子の知らない処で、彼女の存在は少しずつ知られていたのだ。
そんな事は、まるで知らない事であった。
息の詰まる様な時間が過ぎさった。
「ご主人様、冴子は疲れてしまいました。如何して冴子をこの様な場所にお
連れになったのですか?」
冴子は男とそのホテルに泊る事となった。
「判らんか? お前を皆に紹介しておこうと思ってだ。」
「私を・・ですか?」
冴子は男の言った言葉に驚いた。
「私を紹介と言われても・・。」
「あっはっはっはっは・・・、これからは時々俺に付き合ってもらうぞ、女
同伴と言うのは結構有るんでなぁ。」
男の魂胆が判らないが、自分を表舞台に引き出そうとしているのが、冴子に
も理解出来た。
「まあ、おいおい親分衆の顔も覚えてくれ、何、直ぐ慣れる!」
男はそう言い終わると、寛ぐ雰囲気になったので、冴子は男の着替えを手伝
い始めた。
「今夜も可愛がって下さいますね?」
「判っているわ、しょうがない奴だな・・。」
「悪い人は・・ご主人様・・・。」
「はっはっ・・・・!」
冴子の前にいるのは、如何見ても、好々爺な親父としか思えなかった。
「何故奥様をお連れにならないの?」
冴子はその事が疑問に思えた。
冴子は、男の性奴であって、正妻ではないのだ・
あの様な晴れがましい席に出る立場では無かった。
その事を工藤に問うた。
「奥様はお身体が悪いのです。ご主人様・・会長は、奥様をそれは大切にさ
れております。会長の今日があるのも、奥さまのお力有っての事です。その
事を会長は誰よりも御存じです。」
それは、冴子が初めて聞かされた話だった。男から聞いた事は無かった。
「この事はご内聞に願います。私が申し上げたとは言わない様願います。」
「判りました、そうします。工藤? ご主人様は、私に奥様の代りをさせる
つもりなんですか?」
「その様に聞いております。」
「私にそんな事出来ると思います? 彼方は?」
冴子はとても無理だと思った。
そんな大きな仕事が、一介の主婦に勤まる訳が無いと思った。
「はい、冴子様なら十分に務められると思います。」
「嘘です、工藤は嘘を付いている。」
冴子は、とてもそんな大役が務まるとは思えなかった。
性奴の方が・・どれほど楽か、冴子はそう思った。
「会長の前では、今の様な事を言ってはいけません。冴子様のお為になりま
せん。」
「逆らうな・・と言う事?」
「いえ、今までの様に振る舞っていればいいのです。私も正直感服しており
ます。」
「そんな・・・。」
冴子は、何が何だか分からなくなっていた。
<影法師>
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