ある日、店でお金が無くなると言う騒ぎが発生した。
その騒ぎが原因で、犯人に指摘されたベテラン従業員が一人、辞めさせられ
た。
急遽、新規従業員の補充が行われた。
勿論補充されたのは、照江と同じ、パート扱いの主婦であった。
照江は、その鈴木町子を見た時、一瞬嫌な予感が走った。
初め、その理由が良くは判らなかったが、照江より10才以上も年下である、
町子の存在が気になった。
そして、その不安は的中した。
なんと蔭山の触手が、早速に動いたのだ。
蔭山の獲物ランクから言って、鈴木町子はAランクに属していた。
店に努めた日から、その貞淑妻な面を、蔭山にイヤと言う程に見せつけてい
た。
それが、蔭山の好奇心を掻き立てる事になった。
貞淑な女ほど、男に対する免疫が少ないのも、照江と同じだ。
照江はその淫乱度で、蔭山の関心を引いているが、町子は、何と言ってもそ
の容姿だ。
2人の子供を産んだ女とは思えない、見事なプロ―ポーションを保っていた。
共に働く男なら、興味を示すのが当然だ。
ただ、町子が既婚者であると判ると、大抵の男は諦めたのだが・・、蔭山だ
けは別だった。
彼の目的は、まるで別の事に有るのだから・・だ。
その事を、一番初めに察したのが、他ならぬ照江であった。
彼女は、まるで職場の中にレーダーを張り巡らせたように、町子の行動を監
視する様になった。特に、蔭山との接触には注意して見ていた。
蔭山が、積極的に町子に接しているのが、照江にはハッキリと見えていた。
日が経つにつれ、町子の表情にも変化が表れていた。
照江と同じ様に、初めは警戒感を示していたが、その顔からそれが無くな
り、笑みを浮かべる様になっていた。
照江の中で、焦りが出て始めていた。
蔭山が、町子を狙っているのは明らかだった。
それは、照江が一番判る事なのだ。
職場の中での、照江との接触加減から見ても、それが判った。
それまでと比べ、蔭山の接触度が極端に減ったのだ。
「健二さん、鈴木さんと何か有るの?」
有る時、思い切って蔭山にその事を訊ねた。
照江は陰に引っ張られる様にされると、
「余計な事言うんじゃないぞ。今日やるぞ!」
蔭山にひと言言ってやりたいと思ったが、突然彼から誘われた事で、その感
情が萎えてしまった。
<影法師>
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