蔭山の方が先に、待ち合わせ場所に着いていた。
一足遅れで、照江は職場の仲間と話をして別れた後、その足でそこへ来た。
「ごめんなさい、待たせちゃって。」
照江が嬉しそうにして、蔭山に言った。
「本当に、俺に話をさせるつもりなのか?」
「その方が、私も安心出来るの、お願い。」
照江はその場で携帯を操作すると、
「あっ、あなた? 照江です。今副店長と変わるんで。」
そう言うと、照江は直ぐに携帯を蔭山に差し出した。
「あっ、ご主人ですか? 私、副店長をしております蔭山と申します。いつ
も奥様には大変お世話になっています。」
蔭山は、普段の調子で話し始めた。
暫く、社交辞令的な会話を行った後、
「―それでですね、まことに申し訳ないのですが・・、奥様に少し残って、
仕事して貰う様になってしまいました。それで、奥様から如何してもご主人
に説明して欲しいと言われましたので・・・。」
「―ハイ、十分わかっております、奥様がとても優秀な方ですので・・ハ
イ、仰るとおりです。」
蔭山が、照江の顔を見て、苦み虫を潰した様な顔をした。
それを見て、照江が笑った。
「―それではそう言う事で、はい、失礼します。」
やっと蔭山が携帯を返して来た。
「健一さん、もう判ったでしょう、うちの人が?」
「―まあね、」
照江の言いたい事が、蔭山にも理解出来た様に思えた。
蔭山は、ポケットから煙草を取り出すと、ひと仕事を終えたかの様に、一本
を口に咥え、
道路脇に停車しているタクシーに手を上げて合図した。
「ダメ、ダメ~~、そんな事ダメ~~。」
蔭山の性器への愛撫に、身悶えして照江は喘いだ。
蔭山の性戯は、照江の肉体を改造した。
彼のセックステクニックは、夫のそれとは比べようも無かった。
今となっては、照江が夫とのセックスで、満足を得る事はもはや不可能だと
思った。
その心配すら、余計な事だとは思えた。
もはや、夫が自分を求めて来る事等、金輪際有りえない事だと思えたから
だ。
夫婦間に、セックスが不可欠なものとは思わない。
肉体的な結合が不可能な夫婦も、世の中にはかなりの数存在している。
それら全ての夫婦仲が、上手くいっていないと言う訳ではない。
身体の交わりが無くても、心が繋がっている夫婦は多い。
だが照江の処は、残念ながら、そのどちらもが欠けてしまっていた。
倦怠期を迎えた夫婦ならまだしも、蔭山と照江のセックスは、それに近いも
のだ。
照江を女として喘ぎ、逝かせる事、それ自体が蔭山の目的なのだ。
間違っても生殖の為の行為では無く、愛情を深める為の行為でも無い。
ただ単に、照江を逝かせるまくる事が、その究極の目的だった。
容赦ない攻撃が、その肉体に加え続けられた。
「アッ~~~、ダメ~~~~ェ~~、ダメ~~~!」
ラブホテルの一室に、照江の絶叫が鳴り響いていた。
<影法師>
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