その矢先、冴子は思いがけない人物の訪問を受けた。
その先達を務めたのは工藤だ。
「会長の奥様が、是非冴子様とお逢いしたいと言う事で、こちらへご案内致
しました。」
青天の霹靂とはこういう事を言うのかと冴子は思った。
いきなりの訪問に、冴子は驚いた。
如何迎えていいものか、迷っている間にその女は部屋に入って来た。
意外にも冴子が想像していた人物像と、大きくかけ離れていた。
小柄で、痩せた体系ではあるが、怖さを丸で感じさせない。
反対に、温厚そうな雰囲気が漂ってくるようだ。
「貴女が冴子さん?」
有無も言わせぬ、もの言いだ。
「初めてお目に掛ります、冴子と申します。どうか宜しくお願い致しま
す。」
「挨拶はいいわ・・、貴女の事は、この工藤からも聞いているし、主人から
も聞かされています。貴女の事は、それなりに判っているつもりです。お気
の毒な面もある様だけど、この世界は、そう言う世界なんです。本人が望
む、望まないは別にして、係わりを持った以上、覚悟を決めるしかないの。
私だって、望んでこの世界に入った訳じゃないのよ。好きになった人が、た
またま、この世界の人だっただけ。だから、此方で生きていくしか無かった
のよ。工藤の話だと、貴女凄いと言うじゃない。私はこんな身体だから、主
人の役には立たないけど、貴女は別よ。如何かうちの人を盛りたてて上げて
下さい。出来たら、あの人の子供を産んでくれたら・・、それが何よりだけ
ど・・。」
闇の世界に君臨するあの男を、長い間影から支えていた女と思えない、極々
普通の女だった。
「驚きました、奥様がいらっしゃるとは・・。こんな事初めてで御座いま
す。」
滝嶋が、会長夫人の帰った後、しみじみと冴子に語りかけた。
「私だってビックリよ。なんで・・・正妻さんが、性奴の私の処に来る
の?」
「お認めになったと言う事でしょう? 冴子様を、後継者とお認めになった
のだと思います。」
滝嶋がそれを当たり前の様に言った。
「後継者って・・、何の?」
「勿論奥様の後継者でございます。甲武連合会長夫人の座でございます。」
「そんな・・・。」
冴子は、自分の知らない処で、そんな出来事が進んでいた事にただただ驚く
ばかりであった。
<影法師>
※元投稿はこちら >>