宿に着いたのは4時を過ぎた頃でした。
「驚いたわ、凄い処ね。まさかこんな良い旅館だとは思わなかった。」
「当り前じゃないか、礼ちゃんとの記念の旅行なんだから、最高の宿を用意さ
せてもらったよ。」
木の香りが漂う、高級和風旅館で、しかも、全ての部屋が、離れ形式となっ
ていました。
「こんな素敵な処初めて来たわ。雄一さんありがとう。」
「歓んでもらえて嬉しいよ。取った甲斐がある。」
離れ形式の部屋は、全部で3つの部屋に別れておりました。
入口にある部屋と、奥に並んで2つの部屋があります。
一番奥の部屋が庭に面しており、手入れされた庭が広がっておりました。
「礼ちゃん、ここの宿の売りはもう一つあるんだよ。」
彼が得意そうにそう言うので、
「まだ有るの? 何かしら?」
「こっち着て御覧。」
彼に着いて行くと、もう一つの部屋の廊下側の木製の襖を彼が開きました。
「エッ、うそ、スゴイ!」
そこは露天風呂になっていました。
小さめではありますが、石をくりぬいた浴槽と、その横に竹を並べた洗い場
がひろがっていました。
「気に言ってもらえた?」
「最高!」
思わず彼に抱きつきたい気になっていました。
掛りの女中さんが帰った後、彼と二人きりになりました。
大きな座敷テーブルを挟んで座っていましたが、
「礼ちゃん、もう良いだろう?」
向かい側に座っていた彼が、私にそんな言葉を投げかけて来ました。
「えっ?」
彼の顔を見ると、それまでの表情とは違っていました。
「もう僕のモノになってくれるよね?」
そう言って、私に向かって両手を広げる様にしました。
心臓の鼓動が一気に動き出しました。
「こっちへ来て!」
顔の皮が突っ張る様な感じがしました。
席を立ちあがり、そのまま彼の横に並んで腰を下ろすと、彼の手が肩に廻さ
れました。
その手に力が入ると、私の身体を引き寄せたのです。
「礼ちゃん!」
彼の顔が、真近に迫っていました。
「好きだ!」
彼の唇が、ユックリと唇に押し充てられました。
肩に廻した手が私を力強く抱き寄せ、押し充てた唇が更に強くなりました。
何度も、離れては、又重なる、その繰り返しが暫く続き、互いの唾液で唇
が、濡れておりました。
唇を離した私達は、その後の行動に躊躇しているようでした。
私は、完全に女として構えておりました。
言葉は既に不用でした。
ただお互いに瞳の中を読みあっている感じで、お互いをジッと見つめ合い、
やがてそのバランスが再び崩れました。彼が私の身体に凭れかかり、私はそ
の重さを素直に受け、その場に横たわりました。
「礼ちゃん、愛している。」
「雄一さん・・私も彼方が好き。」
「れいちゃん!」
お互いが堰を切った様に抱き合いました。
<影法師>
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