東京駅の新幹線改札口で、彼と待ち合わせました。
この旅は、私にとって特別な旅です。
夫を持つ身で有りながら、別な男と結ばれる為の旅です。
こんな事が出来る自分が、信じられないと思った事もあります。
でも、35年の人生の中で、一度位無茶な事をしても良いのではないか、その
位は許されるのでは・・。
勝手な理屈かも知れないけど、そう思う事にしたのです。
「もしかしたら・・来てくれないかも・・、そんな事も考えていたよ。」
改札口で、私の姿を認めた彼がそう言いました。
「私の事、信じてはくれなかったの?」
「いや、礼ちゃんの事は信じている。でも、それだけではないだろう? もし
ご主人に知れたら・・。」
彼は、私とは違った意味での心配が有ったのです。
「お願い・・二人で居る間は、あの人の事言わないで。」
「あっ、そうだった、ごめん。もう少し、礼ちゃんの気持考えなければいけ
なかったね。」
優しい心使いを見せてくれる彼に、益々魅かれる思いでした。
(今夜、この人と結ばれるのね・・。)
私は、ふとそんな事を考えておりました。
行き先は熱海と言う面白くも何ともない場所ですが、私達にはとって場所は
何処でも良い事でした。むしろ熱海と言う場所なら、今更ながら来る人も少
なく、知っている人と顔を合わせる心配も少ないのでは・・そんな気持ちも
働きました。
「いつ以来かな? 旅行なんて。」
彼が、席について暫く外を眺めていた私に、そう話しかけて来ました。
「そうね、私も最近は新幹線さえ乗っていないわ。」
「本当? 新幹線は仕事で時々乗るけどね。」
「雄一さんはそうよね・・。」
私は何故だかすんなりと彼の名が出た。
「雄一って呼んでくれたね?」
「ヤダナ・・、何で出ちゃったのかしら?」
「嬉しいよ、やっと礼ちゃんとひとつになった気がする。」
彼が言ったひとつと言う言葉に、私の方が顔を赤らめた。
「もう、雄一さんたら・・・。」
その事を意識している自分を、彼に知れてしまった事が恥ずかしかった。
「礼ちゃん・・。」
彼も私と同じ様に、その瞬間それを思った様でした。
乗車時間は、一時間にも満たないものでした。
一晩泊りでもあり、荷物はほとんどありませんでした。
小さなバックにハンドバックだけ、彼はショルダーだけでした。
「少し歩いて見る?」
「そうね、熱海なんか久しぶりだから・・変わったでしょうね?」
駅前の商店街を抜けて、海岸通りを目指しました。
途中商店街では、
「奥さん、干物如何かね・・。」
店の店員が、続々と声をかけて来た。
「旦那さん、奥さんに買えって言ってよ。」
私達を夫婦者と見ている様で、私の方が戸惑ってしまいました。
サンビーチに出ると、砂浜を彼と並んで歩きました。
時折、私は彼を意識して視線が向いてしまいます。
如何しても、夜の事を考えてしまいます。
この人と・・今夜交わるのだ。
男と女として愛し合う・・。
嫌でもそれを考えてしまう私は、いやらしい女のでしょうか?
セックスは、数えきれない位に経験はしています。
男性経験も、主人だけとは言いません。
ただ、結婚してからは、当たり前かもしれませんが・・主人に操を立ててお
りました。
他の男性とそうなりたいなんて事は、今まで考えた事も無かったのに・・。
そんな私が・・、今こうして。主人以外の男性と・・スル為に来たなんて、
考えただけでも身体が震えて来そうでした。
宿に入るにはまだ時間が有るので、その後少し観光をし、昼食をしたり、彼
と二人だけの時間を過ごしました
<影法師>
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