朝食を取りながら、
「今日は如何しようか?」
直ぐに帰りたくない気持ちは一緒です。
夕方までに戻れば十分だと思っていましたので、
「何処かに寄ってみましょう。」
「そうだね、そうしようか・・?」
相談の結果、彼が育った静岡に行く事にしました。
今はだれも住んではいないそうですが、彼が生まれて育った家が残っている
と言うので、
彼とそこを訊ねてみたいと思いました。
彼の案内で、小中学校や、思い出の場所を案内してもらいながら、子供の頃
の話も聞かせて貰いました。
「礼ちゃんの事も知りたいな?」
「私の事?」
「ああ、礼ちゃんの事は何でも知りたい。」
「あんまり聞かせる様な話無いわよ。」
「どんな子供だったのかとか、どんな遊びをしていたとか・・。」
彼とそんなたわいない話を出来るのが、こんなにも楽しい事だとは・・。
「もっと早くに逢いたかった。」
最後はこんな話に落ち着きました。
「私も・・そう感じているわ。雄一さんともう少し早く逢えていたら良かった
のに。」
二人の思いはそれに着きました。
現実の時間が、私達の身に迫って来ておりました。
「最後の時間を、礼ちゃんと二人きりで過ごしたい。」
彼が、突然私にそう言い出しました。
それが何を意味するのか、さほど時間はかかりませんでした。
私は彼の言葉に、黙って頷くだけでした。
少し早目の新幹線に乗り、手前の新横浜で下車しました。
駅前のホテルにチェックインすると、改めて部屋の中で抱き合いました。
「後悔してない?」
彼は何度目かのキスの後、私に訊ねました。
「何を後悔するの?」
私は彼を見上げながら訊き返しました。
「勿論、僕とこうなった事だよ。」
「結ばれた事?」
「それもある。」
「こうなるのが運命だと思っていたから、後悔はしていないわ。」
「もしもの時、責任は取るよ。約束する。」
彼の言葉に、私は首を横に振りました。
「それは無いと思う、主人とは別れるつもりないもの・・。」
私の言葉に、彼の方が驚いていました。
「そうなの?」
「今度の事を決めた時、そう心に誓ったのよ。主人を裏切る事にはなるけど、
これからは死ぬまで主人に尽くすつもり。それが、主人に対するせめてもの
私の罪滅ぼし。」
この事は最後に彼に話すつもりでした。
「なるほど・・。礼ちゃんらしいね。」
「真面目すぎるのよね、もっといい加減に生きられたらいいんだけど。」
「判ったよ、礼ちゃんの考えは。」
彼の胸の内が見える様です。
「今はまだ雄一さんのモノ・・。」
私は黙って彼の胸の中に顔を埋めました。
<影法師>
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