何度目かの外出の折り、冴子はある現場に遭遇した。
ある若い男女が、一見それと判る男達に取り囲まれていた。
冴子は、初めは通り過ぎるつもりでいたのだが、その男女は真面目そうな2
人だった。
通り過ぎた後、ふと娘の由紀の事を思い出した。
由紀の姿とその娘の姿がふとダブった。
年はまるで違うが、もし由紀があんな目に有ったら・・、冴子はそんな思い
が胸を過った。
冴子は引き返すと、その場に引き返した。
滝嶋は、
「冴子様、お止めになった方が・・。」
そう諭したものの、冴子は聞かなかった。
「如何したの・・? あなた達は何をしているの?」
若い二人に声をかけ、取り囲んでいる連中に対して言った。
「あん? 何だ、あんた? 関係ないだろう!」
突然入りこんで来た冴子に、その3人が身体を向けて来た。
「この人達が困っているの、見えないの? あなた達は?」
冴子は、堂々と男達に言い放った。
「うるせえんだよ、余計なことすんな! 犯すぞ、てめえ!」
冴子の後ろから工藤が姿を見せた。
工藤はその3人に向かって、
「田島の処の奴らだな?」
そう訊ねた。
「田島とは何だ、兄貴を、呼び捨てにするなんて許せねえ!」
3人の中の一番若い男が凄んだ。
すると中の一人が、突然、
「よせ、ケンジ、止めろ!」
慌てて、ケンジと呼ばれた男を制した。
「何だよ、何で止めるんだよ?」
「済みません、こいつまだ新しい奴で、工藤さんの顔知らないもんで。」
ケンジは訳が判らずに、呆気にとられている様だった。
「ケンジ、この方に逆らうんじゃない。」
「何でなんだよ、何でなんだか、判らねえよ?」
男は工藤に丁重に頭を下げた。
「あなた達、もう行きなさい、ごめんなさいね。」
冴子は若い二人に優しくそう言うと、その場を解放した。
二人は、突然現れた冴子の存在に戸惑いながらも、
「誰か知らないけど、ありがとうございます。洋ちゃんもお礼を言って。」
若い男に向かって言うと、娘は冴子に頭を下げ、その場から離れた。
「あなた達、以後こんなところ見たら、許さないわよ。」
3人は訳が判らずに、冴子の方を見た。
すると工藤は、
「お前達、この方の顔を良く覚えておけ、いいか、以後、失礼の無い様にす
るんだ。」
3人にそう命じた後、
「これでよろしいですね?」
工藤は冴子に確認した。
冴子は、黙って頷き、
「滝嶋、行きましょう。」
冴子の堂々とした姿に、訳も判らずにいた3人の男達は、何故かその姿に圧
党される思いだった。
「冴子様、貫録でしたね。私も驚きました。」
「工藤の様にはいきません。」
「でも、あの様なマネは、以後慎んで下さい。」
「如何かしら? 約束は出来ません。」
工藤は、そんな冴子の言葉を黙って聞きながらも、その顔に笑みが浮かんで
いた。
<影法師>
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