マンション生活にも慣れた頃、
冴子は工藤と滝嶋を伴い、デパートへ買い物に出た。
滝嶋がそばに付き添い、工藤は付かず離れずという形で影供をしている。
「それでは支払いを済ませて来ますので・・。」
買い物の後、滝嶋が支払いの為冴子のそばを離れた。
その所を、若い男女のカップルが余所見をしながら歩いて来た。
運悪く、カップルは冴子とぶつかると、若い女が大袈裟にその場に倒れた。
一緒に居た若い男が、冴子に因縁をつけた。
「馬鹿野郎、何処に目を付けているんだ!」
冴子の服装を見て、小使い稼ぎのつもりだったのだろう。
直ぐに滝嶋が戻って来て、その場に割り込んだ。
「婆さんは黙っていな、あんたには関係ない。」
若い男はガムを咬みながら、滝嶋にすごんで見せた。
「お止めになった方がよろしいと思いますよ。」
滝嶋はその男に向かってそう言いながら、遠くにいる工藤に目で合図をし
た。
その途端、若いカップルの脇に工藤が張り付いた。
「私はこの者達の連れですが、外でお話をしませんか?」
その話し方は丁寧だったが、凄みがあった。
「おお、上等だね。マキ、一緒に来い。」
男が強がりを見せて、そう応えた。
工藤と若いカップルの後を追う様に、冴子と滝嶋が付いて行った。
デパートの入り口を出た途端、そのカップルは数人の男達に囲まれ、前に止
めてあった車にいきなり連れ込まれた。
彼らが何者か、冴子には直ぐ判った。
「冴子様、お車の方へ。」
何事も無かったかの様に、工藤が冴子を別の車へと案内した。
「工藤、あの人たちは」
冴子は気になったので、工藤に訊ねた。
「馬鹿な奴らです、絡む相手を間違えた・・だけじゃ済まないでしょう
ね。」
彼は冴子にそうひと言を添えて、車に乗り込んだ。
「工藤、あの人たちを何処へ連れて行ったの?」
車の中で、冴子は若いカップルの事が気になった。
「冴子様は、ご存じない方がよろしいと思います。」
工藤は事務的な口調で、その問いに応えた。
「私をそこへ連れて行きなさい。工藤、私の話聞いている?」
「聞いております。如何しても連れて行けと言うのでしたら・・。」
「そうして下さい。滝嶋、貴女も付き合ってね。」
冴子は横の滝嶋にもそう命じた。
「承知しました。」
何か言いたそうな滝嶋だったが、口答えせず、そう返事した。
<影法師>
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