力と言うものがどれほどのものか、冴子は今改めてその事を感じていた。
男の庇護を受け、冴子は確実に力を持ち始めていた。
自分の本当の力で無い事も判ってはいたが、それを手に入れた事も良く判っ
た。
全てを捨て、冴子はその力を得た。
平凡な主婦から・・「淀君」と言う地位を。
「何だ、そんな事が有ったのか?」
工藤は男の前で、先日の出来度を報告していた。
「私も驚く程の貫録でした。」
「冴子がなあ? ヒョッしたらあいつ、使えるかもしれんな? 如何思う工
藤は?」
男は工藤に訊ねた。
「会長、私もそんな気がして参りました。お連れしても宜しいかと。」
工藤は、冴子から頼まれ、離婚届を夫宛てに送った事も会長に話していた。
「判った、良く考えてみよう。」
何故か、男は急に冴子に逢いたくなった。
健介は、冴子から送られてきた離婚届を出す決心をした。
それが妻の出した結論だと、その事を受け入れる気持ちになったのだ。
娘の由紀には、それとなく話していた事でも有ったが、妻が姿を現さない事
が誤算では有った。妻は由紀をも棄てたのだと思った。
「健介さん、それでいいの?」
大賀徹子は健介から離婚届を提出すると言う話を聞き、そう彼に訊ねた。
「いつまでも、こんな中途半端な状態を続ける訳にはいかないだろう?」
「それはそうだけど・・。」
大賀徹子は、冴子が暫くジムに顔を見せないので、気になって片平家を訪
ね、冴子の失踪を知った。
健介は、徹子に失踪した本当の理由を説明する事は出来ない。
徹子も、あの日以降、冴子が突然姿を決してしまった事に責任を感じ、時々
片平家に姿を見せる様になっていた。
健介の落胆が余りに酷いのに同情した徹子は、彼を励ましている内に、ヒョ
ンな事で男と女の関係になってしまっていた。無論徹子には夫がいた。
徹子にすれば、軽い浮気のつもりではあった。
ただ、その男の妻が失踪しているというのなら、話は別だ。
その妻に対し、気を使う必要は無かった。
むしろ、その代りを務めて補やると言う大義が出来た。
健介は、冴子を失った寂しさから、衝動的にその熟れた身体を抱いてしまっ
たのだ。
しかも、一度ならず、その後何度となく徹子を抱いた。
「いいのか? 本当に?」
「健介さんは気にしなくてもいいから・・。うちの人とは、もう当に絶縁状
態だもの。今は健介さんだけよ。」
妻が如何と言う話では無かった。
健介にとっては、男の生理的な面が関係する処が強い。
妻の実態を見るにつけ、その反動が別の形で現れたのだ。
そんな彼の前に、突然大賀徹子が救世主の様に現れたのだ。
お互いの不足している性的な部分を、それぞれが補い有った形である。
「すまない。」
「いいわよ、そんな事言わなくても、ねえ、健介さん、抱いて・・。」
ベッドの中で、互いが不足しあった部分を、思いっ切り補充しあった。
その後、健介は冴子との離婚話を切り出したのだ。
「由紀ちゃんは如何するの?」
「俺が育てるしかないだろうな?」
健介は、徹子の豊満な乳房を愛撫しながら、そう話した。
「そうよね、私が育てる訳にはいかないものね。」
「君には、本当に感謝しているよ。」
「いいのよ、精々私の事を利用して・・。これも何かの縁だと思っているか
ら。」
大賀徹子は、健介の妻冴子が失踪した、本当の事実は知らされてはいなかっ
たのだ。
健介は、全てを己の胸の中に仕舞い込んだのだった。
<影法師>
***次回よりPART3となります***
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