あれから何週間かの月曜日。
私は、同僚たちと競っていた昇進レースも辞退し、新しい開発プロジェクトからも離脱して、資料室で資料係長として定時出勤定時退社の生活をしている。
妻は、前にもまして明るくなった。夫婦の垣根をこえて、言いたいことも言い合えるし、なによりも一体感がある。
なにも隠してない。隠し事をしない。
「でも、あなたは皮で隠してるじゃないwww」
そんなジョークを私に言い、妻は自分で笑う。
そのたびに、
「病院いこっかな・・・。」
と、ぼやく。
「安月給になったんだから、そんなお金はありません!」
と、ピシャリと言い返される。
ほんとにまいる。
あれから、何度か彼の家に行き、1発殴ってやろうとした。
でも、そのたびにあきらめてきた。
ペニスの長さでまけても、結果、私は彼に勝っている。
それだけで十分だった。
しかし、どうしても我慢できなくて、今日、昼前に早退して、ついにドアを叩いた。
出てこない。
ドアを回す。あいた。
そこには、清掃業者が3名、部屋をきれいにしていた。
「なんすか?」
20代の大柄なにぃちゃんが玄関まできた。
「あ、ここにいた方は・・・。」
「どちらさん?宅配便か郵便なら受け取りますけど。」
奥から声がした。
「あ、もしかしたら次の入居希望の方?散らかってるけど、見ていっていいですよー。」
管理人らしい、初老の白髪の人が案内してくれた。
「いやぁ、ゴミ屋敷ですわ。バツイチだったらしいんですけどね?ちゃんと掃除するんで、どうか入居のほう、考えてくださいね」
「えぇ、はぁ・・・。」
どうやら、次の入居希望者と勘違いしてくれたみたいだ。
まっすぐ、ベランダまで行く。
すると、うちのベランダが見えた。
窓は閉まっている。しかし、カーテンが開いているはずなのに、リビングは見えない。
太陽が反射して、まったく見えないのだ。
だったら、どうやって私たちが性行為をしているのがわかったのか・・・。
たしかに、夜に電気を付けた室内で、コートだけを着させていたシーンは見えたかもしれない。ベランダに追い出したのも、丸見えだ。
しかし、なぜ?
私は、管理人に一言いうと、部屋をあとにした。
「どうかごひいきに~」
エレベーターをおりると、新婚らしき二人連れとすれ違った。エレベーターにのり、5階でとまる。間違いないな。あの人たちが入るんだ。
彼が、私たちを見ていてくれる視線は、もう感じない。
おわり。
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