仕事を終えて家に帰ると、珍しく母の姿が見えなかった。
テーブルの上にメモが置かれていた。
<お友達に誘われました・・、夕食までには戻ります。好子。>
(珍しい事もあるな・・、まあ、たまには気分転換で出かけるのは仕方ない
か・・。)
そう納得すると、いつもの母相手のセックスを断念する事にした。
その日珍しく父が早く戻り、3人での夕食となった。
「出かけたらしいね・・? 何処に行ったの?」
父の前で、俺は母に訊ねた。
「大前さんに誘われて・・新宿のデパートに行って来たわ。」
「そうなのか? 」
父がノー天気な言葉を口にした。
「まあ、たまには母さんにも、息抜きは必要じゃ無いのかな? そう思わな
いか、タクロー?」
珍しく父が母の味方をしていた。
「何処のデパート?」
俺は更に突っ込んで聞いてみた。
「えっ、何処って・・、まあ、いろいろね・・アチコチ行ったから・・。」
母の答えが急に曖昧になった。
「今日のおかずも、小田急デパートで買って来たものよ。」
そう言って説明していた。
夕食後始末をする母の処に行くと、
「出かけるなら、出掛けると前もって話してよ。折角やろうと思っていたの
に。」
相文句を言った。
「御免なさい、急な話だったから・・、今度からはそうするから・・。」
「今度って、又出掛ける予定あるの?」
「えっ、べ、別に予定は無いけれど・・有ったらって話しよ。」
「出来ないかな?」
俺は母にそう訊いた。
「お父さんがいるのよ、そんな事無理に決まっているでしょう。もう!」
母はそう言って俺の要求を珍しく拒んだ。
その夜の憂さを晴らすつもりでは無かったが、翌日早速満子にメールを打っ
た。
<これから行っていいかな?>
<これからって・・ここに?>
<ああ、だめ?>
<家はダメ!>
<家じゃ無ければいい?>
<もう・・、負けたわ・・。駅前で待っているわ。>
<すぐ行く>
満子の返事を取りつけると、店長に外回りの許可をもらい、急ぎ駅前へと向
かった。
駅に上る階段の前に満子の姿を捉えた。
満子の前に、スーパーのロゴが入った軽自動車を横着けすると、
「早く乗って。」
そう声をかけた。
「変わった車で迎えに来たのね?」
「仕事中だからね。」
「ならちゃんと仕事しなさいよ。」
「終わったらね。」
満子が俺の答えに、プッと吹いて笑った。
「終わったらって・・何を終わらせるの?」
「行けば分かります。」
「何処へ行くつもり? まさか・・・そうなの?」
助手席に座る満子が、俺の顔を覗き込むように言った。
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