妻の姿は高級マンションの中に消えて行った。
入口は監視システムにより、部外者が入れない様になっている。
しかし、外から入口を眺めていると、様々な人たちがその中に入って行く。
その殆どが男性だ。
思い切ってその中の一人に尋ねてみようとも思ったが、あまりにも危険な気
がして、流石にそれは止めた。
仕方なしに外で妻が出てくるのを待つ事にした。
(これでは、どの様な仕事をしているのか判らないな?)
そんな思いにかられていると、思いがけず妻がその姿を現し、再び何処かへ
と向かった。
彼は、尾行を再開させた。
妻が出向いた場所は意外な場所であった。
<柴田歯科>
前に妻が通っていた歯科医である。
(歯の治療? こんな時に?)
それはあまりにも不自然な行動に思えた。
仕事先に来て、直ぐに今度は歯科医・・?
その行動は誰が見ても怪しい動きに見える。
妻は一体何をしているのだ?
彼の不安は大きく膨らんでいくのだった。
柴田は由紀子を見て驚いた。
その顔には、殴られた跡が生々しく残っている。
周囲の人の目もあるので、由紀子に対しても、平静を装って接客した。
「今日は如何しましたか?」
由紀子を治療台に座られると、そう形式的な質問を投げかけた。
「調子が悪いので・・良く見て貰いたいのです。」
由紀子の柴田を見る視線が熱くなっている。
それは、柴田との行為の合間に、由紀子が見せるその時と同じ目だ。
「判りました、予約外ですから、少しお待ち願います・・それで宜しいです
ね?」
二人だけが判る、目と目の会話で、互いの意思は十分に通じていた。
「はい、何時まででも待ちます・・。」
由紀子は、なお一層熱い目を注いだ。
※元投稿はこちら >>