柴田との約束の日だった。
何時もなら当に電話が鳴る時間のはずが、未だ連絡が無かった。
(如何したのだろう? 当に連絡が有っていいはずなのに・・?)
あれ程苦痛に思えていた柴田との密会だったはずなのに・・。
時間だけが過ぎて行った。
次第に由紀子の気持に落ち着きがなくなっていた。
(何で・・なの、何で連絡が無いの・・? )
そして、更に
(やだ、待っているの? あんな男の誘いを私は待っている? いや、そん
な事は無い!)
頭を振り払うと、次第に由紀子はいらつきを覚え始めた。
その時思わぬ人物から電話が入った。
「私、麗華よ。話ついたから・・。もう貴女の廻りをうろつく事は無いはず
よ。」
麗華は多少言葉を省いて話しかけて来た。
「えっ、どう言う事ですか?」
思わず問い返した。
「蜂矢さんにこの前の事、報告したわ。すごく怒っていたわ。それだけ言え
ば十分でしょう・・。後は知らない方がいいわ・・その方が貴女の為。」
麗華はそれだけを由紀子に話すと電話を切った。
由紀子は黒瀬組の蜂矢が柴田に何か仕掛けた事を察した。
(柴田は私に手を出せなくなったと言う事?)
(だから、連絡をしてこなかった。)
(嫌・・まさか、出来なくなったなんて事は・・?)
由紀子は、初めて自分がそんな恐ろしい人々の中で働いている事を思い知ら
された。
柴田と言う重石が取れ、スッキリとした気持ちに戻れるかと思った。
だが、現実はそうでも無かった。
由紀子の胸の中には、モヤモヤした思いだけが残り、その鬱積はハーレムで
晴らすしかなかった。
その日も彼女はハーレムへ足を向けた。
いつもの様に夫と娘達を送り出した後、外出着に着替えると、早速ハーレム
へ向かった。
途中電車のホームで違和感を覚えた。
誰かに見られている様なそんな感覚だ。
思わず周囲を見渡してみたが、誰も人の事などに関心を示さず、自己の世界
に入っていた。
(気のせいかしら・・?)
由紀子は、ハーレム通いに慣れ切っていた。
彼女に対する追跡者の存在に、気づく事が出来なかった。
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