芳江の計らいで、玲奈とのデートが翌週の日曜日にセットされた。
「絶対に手を出さないでよ、何しろ彼方って人は信用おけないから・・。何
しろ、逢ったばかりの人の胸に、手を入れる様な人だもの・・ね?」
ホテルで別れ際に、芳江が最後に言った言葉がこれだ。
そんな心配をしながらも、娘の頼みは断れない様だ。せめてもの母の思いが
その一言につながったのだろう。
待ち合わせ場所は、同じ様にNホテルのロビーにした。
その約束の時間に、芳江は玲菜を伴い俺の前に現れた。
その日、芳江は和服姿で現れた。
その姿も中々そそるものがある。瞬間俺はそんな事を考えた。
娘の玲奈の方は活動的な服装だ。
「今日は御免なさいね、無理な事を頼んでしまった様で・・、娘の玲奈
よ。」
芳江がそう言って俺に玲菜を紹介した。
「玲菜です、初めまして・・。」
如何にもお金持ちのお嬢様と言う印象を受けた。
我儘に育っている雰囲気が、その容姿全体に漂っている。
「今日一日宜しく・・お願いします。」
初めての挨拶は殊勝な感じを受けたが、
「こちらこそ・・。」
玲奈が芳江の側から、俺の側へと移動した。
「それじゃお母様・・私達はここで・・。」
玲奈のその言葉で、俺達と芳江は別れる事となった。
「それじゃ玲奈の事、よろしくお願いします。」
芳江は丁寧な口調で俺にそう言った後、
<判っているわね。手を出したら承知しないわよ。>
そんな言葉を、芳江の目が俺に伝えていた。
芳江と別れた後、俺と玲菜はディズニーランドで遊んだ。
その間の玲奈は楽しそうにしていたが、途中休憩を取った時の事だ、
「ねえ・・聞いていいかな? 彼方、ママとやったのでしょう?」
それまで、丁寧な言葉で話していた玲菜がいきなり本性を現した。
「如何してそう思うのかな?」
「女の感よ・・、ママが彼方を見る目、普通じゃないもの・・、アレは、こ
の人は私の男よ、と言う眼ね。」
玲奈のこんな姿を、芳江は知っているのだろうか?
「そんなものかね、凄いものだ。」
「とういう事は、認める・・と言う訳ね。」
玲奈は感心した様に頷いた。
「成程・・ママもやるものね。パパがあんな風だから仕方が無いか・・。
ママを一方的に責める訳にもいかないわね。」
「俺とママの関係を知っていて、俺の事を紹介しろ・・と言った訳だ?」
玲奈がジュースをストローで啜りながら、素直に頷いた。
「ママから奪ってやろうかと思ってね。」
恐ろしい事を言うガキだ。
「成程・・そう言う事か。」
玲奈が本性を見せて来たので、俺の方としても気が楽になった。
「なら俺も教えてやろうかな。」
俺は芳江から念を押されている事を、玲菜に話した。
「ママから何か言われているのね。」
「娘には絶対に手を出すなってネ。」
俺は玲菜に向ってそう言った。
「アハハハ・・、ママったら・・やっぱり心配なのね、自分の男を、私に盗
られるのではないかって。」
玲奈はそう言い放つと、
「じゃ如何する・・・? ママとの約束を守る? それとも・・?」
玲奈が俺の真意を見定めようとして、そう聞いてきた。
「私はどっちでも良いけどね・・。」
玲菜はそう続けて言った。
玲奈は見た目よりも大人の様だ。これなら余計な心配は無用だろう。
「正直言って、目の前の御馳走を不意にする様なマネはしたくないね。」
玲奈が俺のその言葉に頷くと、
「じゃ決まりね・・、子供の時間はここで終わり、これからは大人の時間
よ。」
玲奈はそう言うと、テーブルから立ち上がった。
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