「何かすごく緊張する・・こんな経験初めてだから・・・。」
ロビーで待つ間、すっかりと母親の顔に戻っていた。
息子のお見合いに付き添う母親と言う言葉が、まさにピッタリだ。
約束の10分前に良治と一緒に真理子が姿を現した。
母にはすべて説明を終えてはいるが、やはり驚きは隠せない様だ。
その事は真理子にも言えた。
目の前にいる人物が誰かどうやら判ったようだ。
「初めまして、竹田真理子と申します。息子の良治です。」
真理子は母に挨拶を済ませると、母も同じよう自己紹介を済ませた。
俺達4人は、その足で旅館を出ると、真理子の運転する車で芦ノ湖に向かっ
た。
芦ノ湖にあるホテルで、昼食会を兼ねての両家の顔合わせとなった。
食事までの時間、母と真理子はホテルの庭で散策を兼ね、連れだって出て行
った。
実は、これは母が今朝俺に言った事だった。
「女同士、後の事は私に全て任せてくれる? 彼方の考えは理解したつもり
だから、私に真理子さんを説得させて欲しいの? 女同士でなければ判らな
い事もあるのよ。
彼方の母親として、私に是非やらせて欲しいの・・?」
母の切なる申し出があり、俺は真理子と母の一対一での話し合いに掛ける事
にした。
2人の姿を遠目で眺めながら、俺は良治と一緒に待った。
初めは笑い合って話していた二人だが、次第に真剣な表情で語りあう姿に変
わって行った。
一時間ほどで二人は戻って来た。
真理子が俺をチラッと見てから、
「お母さまといろいろなお話をさせてもらいました。それに、私達の事も聞
いて頂いたわ。」
真理子はそう言って俺に報告した。
「そう、じゃこの話は一先ず終わりにして、食事にしよう。
後は真理子がユックリと考えてくれれば良いから・・。」
真理子は俺の言葉に黙って肯いた。
ホテル自慢の特製チーズフォンデユの支度が出来た様で、係員が俺達を呼び
に来たのだった。
2人がどんな話し合いを行ったのか、俺には皆目見当がつかなかった。
母も真理子もその件については、昼食の間、一言も話さないままで終わっ
た。
だが、僅かの時間の間に、母と真理子の気心が通じたのか、食事の間かなり
親しく話していた様だった。
真理子達は俺達を駅まで送ると、駅で別れた。
別れ際、真理子が俺を手招きすると、
「彼方が言っていた意味がやっと判ったわ。私の事を一番理解出来る人・・
と言った理由が・・。まさか・・お母様が来るとは思わなかった。」
「そう、黙っていて御免、いつか話すつもりではいたのだけど・・、真理子
なら必ず判って貰えると思ったから・・。」
俺の言葉に真理子は頷きながら、
「これからユックリ考えて見る・・・、彼方を愛しているのは今でも変わら
ないわ。
でも、本当にこれで良いのか・・、正直判らないの。ごめんなさい。勿体ぶ
っている様で。」
真理子が悩んでいる事は当然だ。
「俺が決めた事だ、何も遠慮する必要はないからね。母がどう話したか判ら
ないけど、
俺も母も全てを承知で受け入れるつもりだからね。その代り・・真理子
も・・。」
俺は一度言葉を切ると、最後に付けたそうとした。
「私も承知しなければならないのよね・・?」
真理子は俺を見つめると、そう聞いてきた。
「そう言う事になるのかな・・。そうすれば、4人が共に幸せを掴める様に
思えるのだけど。」
そう言うのが精一杯だった。
駅の出発案内が放送され、母が俺を呼んだ。
「そろそろ行かないと・・電車の時間よ。」
真理子と良治が改札口まで見送りに来た。
「真理子さん、急がないでいいから・・ね、ゆっくり考えて頂戴。」
母が最後にそう言って、俺達は真理子に手を振った。
真理子はその場で俺達に頭を下げてから、手を振り返していた。
次回更新は23日の予定です。
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