涌井は、由紀子が使用している車の販売を担当したセルースマンだ。
今の車が2代目で、涌井とは最初の車を購入した3年前に知り合った。
点検、修理等で時折販売店に出入りする事で、急速にその仲が接近した。
涌井は独身、由紀子は二人の子供を持つ人妻だ。
夫は市内の企業に勤めるサラリーマンである。
特段夫に不満が有る訳ではなかったが、子供を送り出した後の時間をやや持
て余していた。
そんな由紀子の心の隙間に、涌井が侵入してきた。
新車試乗という名目で、涌井と同乗して近くをドライブした事が始まりとな
った。
その駐車場での軽いキスがその始まりだった。
初めて夫を裏切る行為だった。
車の中という、密閉された空間での特別な雰囲気の中であった。
心臓がドキドキと波打った。
この様な気持ちになったのはいつ以来だろうか?
由紀子は新鮮な気持ちに駆られていた。
こんな感覚を今や、すっかり忘れていたように思えた。
「すみません。」
涌井が直ぐにその事を謝罪した。
由紀子は、その潔さがすがすがしく感じ、責める気にはなれなかった。
「いえ、私もいけなかったから・・、何もなかった事にしてもらえます?」
「もちろんです、すみませんでした。」
それがそもそもの始まりだった。
だが、由紀子の中に芽生えたドキドキ感は、
一種の覚せい剤の様に、健全だった由紀子の心を虫食み始めて行った。
それは涌井からの誘いからだった。
「この前の駐車場でお逢いできませんか?」
「困ります、そんなこと言われても・・。」
「少しだけお話しできれば言いのです。」
由紀子は先日のドキドキ感を思い出していた。
話だけなら・・、そんな言葉が行動を正当化させた感がある。
家人には内緒で家を空けた最初であった。
そして、その逢引きは無論話だけでは済まなかったのだ。
前回の事もあり、由紀子はある程度そんな淡い期待も抱いていたのだ。
あのドキドキ感をもう一度体験出来るかも・・と。
その日を境に、由紀子はその不倫の中にどっぷりと浸かってしまっていた。
「如何しろと言うのですか?」
「先ずは一度お逢いしてお話したいですね。場所はあの処で如何でしょう
か?」
男の話しが丁寧なだけに、由紀子は多少安心しているところもあった。
しかし、不安はあった。
男と話しをしながらも、一度、涌井に相談してみようと思った。
「判りました、何時ですか?」
由紀子は男にそう言うと、男は日と時間を告げ、電話を切った。
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