家に帰ると、蜂矢から手渡されたくすりによって、気持ちは静まっていた。
しかしその姿からは、幸せな家庭の主婦の姿は微塵も感じられなかった。
「お前、どこか身体の具合が悪いのではないのか? 一度病院で診てもらえ
よ。」
夫からは毎晩同じ様な事を言われ、その度に適当に誤魔化すしかなかった。
このままでは、夫が気づくのも、もはや時間の問題かもしれない・・そんな
思いが由紀子の中に芽生えていた。そうなれば・・すべが終わりだ。
そうなる前に・・何とかしなければ・・なんとか・・・。
その為には、蜂矢のあの話を受け入れるしか無いと考えた。夫の顔が浮かん
だ。
その仕事を受ける事は、もはや夫に対し、完全な裏切り行為である。
それが判っていながらも、そうせざるを得ない自分の無力をどうする事も出
来なかった。
夫と大切な娘の為に・・自分が出来る最後の道だと由紀子は思い込んだ。
一通り家の者を送り出すと、家事全てを休みにして由紀子は外出の支度を始
めた。
今日が、蜂矢から受けた仕事の初日であった。
指定された場所まで出向くと、竹田が迎えに来ていた。
彼の運転する車に乗り込むと、
「蜂矢さんが向こうで待っています。」
「遠いの?」
「いや、30分位かな?」
「どんな所ですか?」
「高級マンションだよ、聞いた話だけど、なんか有名な人の持ちモノと言う
事さ。」
そういう場所だから安全なのだろう。
案内された場所は、竹田が話した通り、かなり豪華なマンションだった。
入口は監視付きカメラが備え付けられ、出入りは厳重だ。
由紀子は蜂矢と合流した。
「来たね、賢明な判断だ。悪い様にはしない、暫く辛抱することだ、その内
何とかしてやる。」
由紀子と顔を合わせた時そう言って、由紀子を安心させた。
蜂矢が由紀子に紹介した仕事は、通称コンパニオンと呼ばれる仕事だ。
ここで行われているのが、ルーレット賭博だ。
その会場を盛り上げる役が、由紀子の様な訳ありの女達が務めるコンパニオ
ンである。
コンパニオンは賭博の景品でもある。
ここでは、ハーレムと呼ばれている。
稼いだチップで、彼女達相手に自由恋愛を楽しむ事が出来るようになってい
る。
会場内で、飲み物などのサービスを行いながら、自分自身を売り歩く事にな
る。
お客に声をかけられた場合、断る事は許されない。
別室で予め決められたチップを受け取ると、その客の相手となるのだ。
相手した数により、その日の報酬が決まる。
声を掛けられなければ・・稼ぎにはならない。
その為の演出も必要となってくる。
この日も由紀子を含め5人の女達が詰めていた。
皆濃い目の化粧で、妖艶さを醸し出していた。
服装も各自好みのコスプレを着用している。
チャイナ服、フライトアテンダント、看護婦等様々だ。
由紀子もメークを濃くし、見た目自分だとは思えないほどに変えた。
服装はミニパトの婦人警官にした。
鏡に映る姿を見て、由紀子は別の世界に来た様な錯覚に陥っていた。
平凡な主婦由紀子の姿は、もはやそこには無かった。
しかも、薬を使用し、ハイな気分になっている由紀子は、自分でも信じられ
ない位に積極的な行動がとれた。
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