待ち合わせ場所として使用していた駐車場が、薬物の受け取り場所に変わっ
た。
初回こそ無償で提供を受けるものの、次からはお金を請求されるのが常とう
手段だ。
由紀子もそうだった。
僅かだが、家計をやりくりして蓄えていたお金が、見る見る消えて行った。
全て由紀子の薬物代として。由紀子は追いつめられていた。このままではい
ずれ破たんするのが目に見えていた。家計費にまで手をつける事態になった
ら・・もう終わりだ・・。
誰もいない家の中で、由紀子は頭を抱えた。
優しい夫、可愛い娘たち・・その誰にも相談出来ない事が、たまらなく辛い
ものだった。
そんな由紀子に、悪魔は更に過酷な運命を用意していたのだ。
「児島さん。勘違いなさらないでね。私達慈善事業をしている訳じゃないの
よ。
お金が無いからと言われても・・ね。」
麗華はそう冷たく言い放った。
事実由紀子の手元には、すべての蓄えを使い切り、無一文に陥っていた。
夫から渡された家計費の一部にまで手をつける有り様だ。
このままでは、もはや首を吊るしかない所まで由紀子は追い込まれていた。
ここまで来るまでに、早く夫に相談するべきだった。
だがその勇気は由紀子には無かった。
幸せな家計を失いたくないという自分勝手な理屈で。
「お願いです、蜂矢さんにお話しして頂けません?」
「蜂矢さん? もう蜂矢さんとは逢わないと言ったの、貴女でしょう?」
麗華が痛いところを突いた。
「逢わせてもらえませんか? 逢ってお願いさせて下さい?」
由紀子はなりふり構わず麗華に懇願すると、
「しょうがないわね・・、ここに行って御覧なさい。多分いると思うか
ら・・。」
そう言って、麗華から一枚の名刺を渡された。
<総合企画 代表 蜂矢正義 >
住所と電話番号が記されていた。由紀子は藁にもすがる思いで、その渡され
た名刺を頼りに蜂矢の元を訪ねる事にした。
日中、一人そのビルを訪ねた。
想像したよりも立派な事務所の様だ。
それもその筈で、総合企画は黒瀬組の表の顔と言われている。
蜂矢は前職が銀行員と言う事もあり、黒瀬組の合法的な部分を任されてい
た。
とは言ってもそこは暴力団だ。むろん裏の顔にも通じ、
あの大賭場会も、蜂矢の采配で行われたのである。
「おや、珍しいお方がいらっしゃったものですね。」
蜂矢は一目で由紀子の状況を読み切っていた。
明らかにその風貌から・・薬物中毒の気配を読んでいた。
「助けてください・・もう蜂矢さんにしか頼めないから・・。」
「お困りの様ですね、まさか薬じゃないでしょうね?」
いかにも自分たちは関係ない様な話し方をする蜂矢に、由紀子は一瞬怒りを
感じた。
「彼方方に騙されたのよ、彼方方に!」
「児島さん、そんな言い方でお願いは無いでしょう? ならば、お引き取り
願いましょう。」
蜂矢は冷たく言い捨てた。
由紀子は蜂矢の言葉に、直ぐに慌てて謝った。
「御免なさい、そんなつもりでは・・お願いです、もうお金が無いの・・こ
のままじゃもう・・。」
由紀子は最後の拠り所として、蜂矢に全てをかけていたのだ。
蜂矢はじっと由紀子を眺めていると、
「判りました、お困りの様ですからお手伝いをしましょう? 如何ですか、
又仕事しますか?」
蜂矢は由紀子にそう訊ねた。
由紀子は仕事という言葉に、あの忌まわしい光景が目に浮かんだ。
あの強姦ショーでの出来事だ。
「いや・・もう絶対にいや。」
「ショウーの方じゃないですよ。ショウーは一度限りです。新鮮味が無くな
りますからね。」
蜂矢はそう言って、強姦ショーとは違う仕事だと言った。
「ただし、これはあくまでも児島さんの意思で決めて頂く事が条件ですよ。
我々が強要した何て言われても困るのでね。」
蜂矢は前段でそう由紀子に説明した後、その仕事の無い様について説明を始
めた。
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