【Side Story-3】
うわぁ…どうしよう…。
本当に女の子になっていってる。まさか、僕の方からお口でしちゃうなんて~。
僕この間まで男だったのに…。いくら彩依が可愛く思えたからって、パクっ…なんて。アレだよ?"男のコ"なんだよ?オチ○チ○だよ?オシッコとかも出る…。
いや、ちゃんと綺麗にしてあげたけど…。じゃなくて、嗚呼もう訳解らない。
大体、彩依ってば無理矢理頭を押さえ付けて喉の一番奥を突いて何にも言わずにお口に出しちゃうし。お陰で口の中がヌルヌルするわ、イガイガして絡まるし、しかも少し飲んじゃったじゃないかぁ。
あの時ちゃんと断れば良かったんだ…。なのに胸で挟んで擦ってあげたら可愛く悶えるんだよ、あれ反則だよね?
オチ○チ○の先っちょがヌルヌルしだして、すぐ近くでエッチな匂いがしだしたら何か頭がボゥ~として気付いたら自分から…。
ウワァーーーッ!どうしよう、誰にも相談なんて出来ないよ。こういう時は男子の無神経さが羨ましい。
「ネェ○○さん、お口でしてって言われたんだけど貴女ならどうする?」
…って聞けるかーッ!
「綺麗なら良いじゃない」
「…へ?」
「でも、お弁当食べてる時には勘弁して欲しい話題かな?」
「な…何で…解っ…?」
どうやら全部独り言のように言葉に出ていたらしい。
「そっかぁ…お口でしてあげたんだぁ~」
「ああ…私の紫織ンが穢れていくぅ~」
「ちょ…変な言い方しないで!」
どうやら僕は思った事を無意識に呟く癖があったらしい。道理で母さんも言い当てる筈だよ。
「まぁまぁ、そう怒りなさんな。どう、今度の土曜日お祭りがあるからみんなで一緒に行かない?」
「私のカレシも来るよ~」
「じゃあ、紫織っちはダーリンと一緒だね」
ダーリンって?
「麻津度君に決まってるじゃない。紫織ンは嫁なんだし」
エーッ!?いや、ちょっとタイミングが悪いっていうか…。
「仲直りするチャンスでしょ?」
「そうそう、そのまま流れにまかせて脱ヴァージンとか。キャー!」
好き放題言うなーッ!痛いのは僕なんだぞー!
「有り得なくは無いわね、ウン」
―浴衣姿の紫織ンの襟足から覗く白いうなじの後れ毛、いつもとは違う和服の色香。ちょっとだけ背伸びの艶やかなグロス。アイスの冷たい山をなぞる舌に溶けて細い指と口元を汚す白い滴り。
「エッ?エエッ?」
人気の少ない神社の外れ…提灯の明かりや人のざわめきは遠く、この場には愛する人と二人きり。
暖かな手がそっと頬に触れ、見つめ合う。
『ここ…汚れてるじゃないか、拭いてやるよ』
と、近付く顔…重なる唇。
握られた手は動かせず、甘く囁く唇はやがて耳元から首筋へ…。
着崩れ始めた浴衣からはホンノリ上気した肌があらわになり、そして手が高鳴る胸の併せ目に…
「ちょ…ストップ、ストップ!」
「…どうしたの?」
「紫織っちがオーバーヒートしてる…」
「ふ…ふにぁ~~」
―保健室―
「アンタ達ねぇ…」
想像力が限界を超えた為、目を回して倒れてしまった。
「アンタ達レベルのガールズトークに紫織がついて来れる訳無いでしょうが」
「いやぁ…まさかここまで純情だとは…」
「男子は幻想の女性像しか知らないんだからあまり素を見せんなよ」
「アハハ…」
結局、知恵熱状態でそのまま5時限目が過ぎてしまった。
「……あれ?」
「よぉ、目覚めたかい?お姫様」
また、保健室?何かいつもここに居る気がする。
「…で、クラスメイトじゃ暴走するだけだろうから身の"下"相談も承るよ?」
ざっくばらんな姐御肌の保健医は男女問わず人気があり、みんなの相談相手にもなってくれている。
「い…いえ、その…何と言うか…」
「お前さんの場合はちょっと特殊だからねぇ。コッチとしても興味があるのさ」
遠慮は要らないって事か。
「じ…実は…」
「成る程ねぇ…確かに気まずいわな。ある意味、麻津度は欲望に率直なガキだからねぇ」
そうなんです、だから余計質が悪い。
「なまじ元男だから葛藤はあるだろうね。で、どうだい?麻津度を…、女である自分を受け入れられそうかい?」
開き直れれば楽なんだろうけど、いざその時になったらどうかは自信が無い。
「女の立場として言わせて貰うなら一時の感情で流されて…てのは賛成出来ないね。女と違って男は年中発情出来る…ってのはお前さんには言うまでも無いが…」
女は身篭る…それは悦びであり苦しみだ。保健医は真剣な眼差しでそう言った。その言葉に僕は…。
―自宅―
今日はお祭り当日。結局、彩依を誘えていない。
「紫織ちゃ~ん、浴衣はどっちがいい?ママとしてはコッチが可愛いかなぁ~って思うんだげど~」
「・・・」
既にお風呂に入って後は浴衣に袖を通すだけ。それでもイマイチ気分がのらない。
「どうするの~?お友達来ちゃうわよ~」
ラインの出ないフレアパンツに着物用の下着を着けて、沈み気味の気分を変える為に母さんが明るい色の大きめの柄を選んでくれた。髪をアップにして簪を刺す。
「うわぁ~、可愛い!流石は私の娘ね~」
"娘"という言葉に引っ掛かったけど、さりげなく自分の事も褒めてない?
ピンポ~ン
「紫~織~ン」
「お祭り行くよ~」
ガチャ
「あ…」
メンバーの中に彩依もいた。気を利かせて誘ってくれていたみたい。
「・・・」
「・・・」
僕の浴衣姿を見てもいつもの「流石はオレの嫁」が無い。互いに目も合わさず、言葉も交わさない。彩依は僕の五歩前を歩いている、小走りすればその手を掴めるのに…。
「何か気まずいね…」
「…ウン」
「ホラ、ちゃんとお嫁さんをエスコートしなきゃ」
女子が助け舟を出してくれたけど…。
「あ…あの、紫織…腹減って無いか?オレが奢るよ。何でもイイぜ。ホラ、あれなんかどうだ?」
ギグシャクと指差したのはチョコバナナ。
ボシュ…
「・・・///」
あのシーンを思い出して顔が真っ赤になる。
「あ…じゃ…じゃあ、コレなんかどうだ?」
次に指差したのはよりにもよってフランクフルト。
「…ッ!!///」
「……お馬鹿」
流石の女子二人も呆れて頭を抱えた。
「…もういい!」
思わず逃げるように走り出してしまった。
「あ…紫…紫織…」
「もっと先に言うべき事があるでしょ!?」
「早く追い掛けなさいよ、馬鹿ッ!」
「あ…ああ」
ズ…ズ…ズ…
ここは神社の階段を上がりきった最奥の小さな本宮。紫織と彩依として初めて出逢った場所。互いの性別も関係なく無邪気に遊んだ想い出の場所…。その階段に座り、境内を眺める。
「ヤッパリ此処だったか…」
「…彩依」
「近くに寄っていいか?」
コク…
僕より幾分背の低い彩依は数段上に座った。丁度頭一つ分の差が出来る位に。
「あ…あのさ、紫…織…?」
僕はある決心をしていた。今の二人の関係を終わらせるべく、二人が出逢ったこの場所で…。ずっと心の奥で燻り、僕を苛み続け、決して口にする事は無いであろう筈の念いを解放する…。
大きく息を吸い、相手の眼を動かせぬ様に見詰めて…。
「麻津度 彩依、僕は貴方にどうしても伝えねばならない事があります…」
※元投稿はこちら >>