オォ!と驚嘆の声が上がる。
「な…何よ、アンタも被害者でしょ?なのに何故彩依の肩持つの?"嫁"だから?それとも本当はアンタが女子になりたかったの?」
まさか僕が抗議するとは思っていなかったのだろう。たじろぎながらも反論してきた。
「まさか、今すぐにでも男子に戻りたいですよ。彩依のお陰でこんな格好しなきゃいけないし、肩は凝るし、胸は重いし、お腹も痛い…。だから…少しなら女の子の気持ち解ります。貴女だって本気で彩依がそんな事すると思ってない、ちょっと悔しかっただけでしょ?」
「ぅ…ふ…フンだ」
悪態をついてるけど照れ隠しなのは何と無く理解できた。面倒臭いなぁ女の子って…。
「紫…紫織△(さんかっけぇ)!」
「ヘェ~、彩依に振り回されてるだけかと思ったけど、意外だったね」
「ウ~ン、でも…もう女の子なんだよね~」
「流石は"嫁"」
結果的に自分で"嫁"と認める事になってしまった…。
全く朝から散々な一日だ…。明日は土曜日、ゆっくり寝よう。
…と思ったのに"魔の二日目"…。体が重い…こ…こんなにキツイとは思わなかった。こんなのが毎月3日~1週間ずっと続くのか…。
「あら、陣痛や出産の痛みに比べたら軽いものよ~」
ニコリと笑う母さんの笑顔を見て血の気が引いた。
―女体化して1ヶ月が過ぎ、大分馴れて精神にも馴染みはじめたある朝。
ドダダダダーーーッ!
「ぅう……な…何?何の音ぉ~」
地響きのような轟音に眠りを妨げられた僕は寝ぼけ眼を擦りながら起き上がった。
バタンッ!!
「ヤッタぞ!紫織ッ。見てくれ、コレを見てくれッ!!」
「な…何~?、朝からイキナ……ヒッ!!」
部屋に押し入って来たかと思うと僕の前に仁王立ちになり、突然自分のズボンを引き下げた。
「ヒ…ヒィ…」
「どうだ!?遂に成功したんだ。見ろよ、オレのこの雄々しい様を!この力強い屹立をッ!これでやっと紫織のヴァージンを…」
「イヤァァーーーッ!!!!!」
バキッ!!
「…ったく、酷いじゃないか。まるでオレが変質者みたいに…」
「突然押し入って眼前に曝した上、大声で強姦宣言する奴が変質者以外の何だっていうんだッ!?」
反射的に繰り出した右拳が綺麗に彩依の腹部に減り込んだ。お腹を抱え込んで蹲る彩依の横でブツブツ文句を言いながら着替え始める。
「だって、やっと成功したんだぞ。長年のオレの夢が叶ったんだ、一番に紫織に知らせたいに決まってるじゃないか」
「あのね…ものには順序があって…って、いつまで出しっ放しにしてんの!」
この1ヶ月で僕の部屋はかなり模様替えされた。素っ気ない家具が淡いピンク色に変わり、窓にはレースのカーテンが架かっていて、衣装ケースやベッドの上にはヌイグルミが座っている。最近は油断すると自分がどっちかを忘れている時がある程だ。そんな僕に…。
「だ…だってオレはこんなの見たの初めてなんだから仕方ないじゃないか!……アレ、萎んでる?何だ、何かミスがあったのかぁ?」
ショックを受け、狼狽する彩依にまずは説明しなきゃいけないのか…。
「落ち着きなよ。さっきのは"朝勃ち"っていって、男の子なら朝は誰でもなるの。むしろ健康な証なの」
「そ…そうなのか…」
つまり萎んでる状態が普通で所謂格納形態。おっきするのは性的刺激を受けて臨戦体勢になった時だけだとも付け加えた。
パサ…
「だから彩依も早く着替えて……?」
パジャマのボタンを外し、ズボンを腰まで下ろしたあたりで彩依の視線に気が付いた。
「……何ジッと見ておっきさせてんの!?向こう向けーッ!!」
そうだった…昨日まで女の子だったつもりで"男の子"になった彩依の前でストリップショーをしてしまっていた。
「紫織ッ!」
「ウワァッ!?」
自分の失態に気付いた羞恥の硬直と背中を向けて脚にパジャマが絡まった不安定な体勢では簡単にベッドに押し倒されてしまった。
「ちょ…彩依…」
「だったら紫織が検証してくれ。オレでは知識が乏し過ぎる」
「そ…それって…」
トタタタ…
「二人共ぉ、早くしないとご飯冷めちゃ……」
・・・・・
ベッドで胸は開け、パジャマが脱げかけた半裸状態で両手を押さえ付けられ、下半身裸の裸の彩依にのし掛かられている僕。そしてその場面を目撃した母親…。
「あら…、ごゆっくり~」
パタン…
「助けてよ、母さんッ!!」
バシィッ!!
「お早う、紫織ン。一人?」
「お早うございます」
「アレ、紫織っちてばご機嫌ナナメ?」
無意識に女子らしからぬドスドスと歩いていたようで気付かれたようだ。ビシッと親指を突き立てた拳で後ろを指す。
「オ…オッス…」
そこには男子用の制服を着た彩依が仏頂面で立っていた。その左頬には見事なまでに真っ赤な紅葉が。
「ああ…ナルホド…」
「遂に成功したんだね、麻津度"くん"」
「エッ!?紫織ちゃんと麻津度が性交……ブッ!?」
「誰がするかぁーーッ!!」
無神経な言葉を発した男子の顔面に固くて重い学生鞄が突き立った。
「紫織ン、落ち着いて…」
「ハァ…ハァ…ったく、どいつもこいつもぉ…」
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン…
午前中の授業は二人の険悪なムードで、微妙な空気の中気不味い雰囲気が続いた。
「どうしたの、紫織ン?この前更衣室で大見え切った度胸はどうしたの」
「やっぱりいざとなると怖い?」
クラスの目がある場所で聞く話じゃないと判断した二人が校庭の端っこのベンチでと昼食を誘ってきた。二人ともずっと僕と同じ学校で彩依との事情も知っている。ある意味こんな異常な状況でも普通に学生生活が送れているのはこの二人のお陰だ。
「だって朝からいきなり目の前で脱いで〔検証してくれ〕なんて言うんだよ。殴られて当然!」
イライラを八つ当たる様にソフトフランスパンを食いちぎる。
「でも、紫織っちだってちょっと前までその…付いてた訳でしょ?」
「それにもう紫織の方は"検査"して貰ったんでしょ?お互い様じゃないの?嫁なんだし…」
「あ…あの時はパニッてたし、まだ彩依も女の子だったから…。先にアイツが男になってたら…その…」
「あ…ああ…成る程ね…」
「恥ずかしかったんだ…」
別に彩依が嫌いになった訳じゃ無い。そうなる事も覚悟していた。でも…そうじゃ無いんだ。
「だったら私が"検証"してあげようか?彼氏のも知ってるし」
「そ…それは駄目…」
僕がこだわってるのはそこじゃ無い。
「じゃあ何?」
「だって…・・・だから…」
「まさか、キスもまだとか?」
本当はこんな事言いたくない。けど言わずにはいられなかった。
「…だって、まだ"好き"だって言われてないモンッ!!」
・・・・
「…エッ?」
元男子としては恥ずかしくて言いたくない理由、あまりにも乙女すぎる。
「アッチャ~」
「ずっと〔嫁にする〕って言ってたからてっきり…」
キス以前の問題だった。彩依は僕を嫁にする為に自分が男にならねばと努力し続けていた為、女の子としての部分が欠如していた。あのツルンでペタンな少年の様な体型が証拠だ。初潮が来た時の落ち込みは半端では無く、月経が訪れる度に辛そうだった。
「でも、だったら余計に紫織ンが頑張んないと」
「…な…何で?」
「だって彩依はきっと"男の子"どころか"女の子"としての扱い方も知らない筈だから」
朝勃ちも知らなかった男子初心者の彩依。ずっと女の子である事を否定し続けていたのだから自分でシテる筈が無い。
「だ…だからって、何で僕が…」
体が小刻みに震え、冷汗が背中を伝う。な…何だろう、この嫌な感じ。まるで全てを見透かされているような…。
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