はたしてあのひと時は夢だったのでしょうか。今でも信じることができないような錯覚に陥ります。貞淑な人妻、そう自分のことを固く信じて疑わなかった私が、あんな場所で、あんな形で主人以外の男の人と関係を持つなんて。それも途中からは、私の方から積極的に彼を迎えいれ、最終的には二度も絶頂に導かれ、激しくイカされて息も絶え絶えになるなんて・・・
しばらく便器にしがみついてしゃがみこみ、呼吸を整える私に、彼は便器備え付けのトイレットペーパーをホルダーから抜き取り、後ろから私の愛液と、彼の精液で汚れた股間と背中を、宝物を扱うように優しく拭き取ってくれました。
もちろん私に恥ずかしさはありません。そうされるのが当たり前のように受け入れていました。
そして次に、ごそごそと自分の始末をしているようでした。
『本当なら私がやらなければ』
そんな思いもよぎりましたが、正直に言って、私にはそんな余力はありませんでした。久しぶりの快楽の頂点が、私の力のすべてを奪い去っていました。
どのくらいの時間がたったのでしょう。
「さぁ、綾さん」
そう言って彼は手を差し伸べて、私を立たせてくれました。彼の手にすがって立ち上がったものの、足の踏ん張りが利かず崩れ落ちようとする私の体を支えて、彼は口づけをしてきました。私は両手で彼の身体を抱きそれを受けて、甘い余韻に浸りました。
彼は私の左足首に巻きついたショーツに気付くと、もう片方の足をくぐらせて引き揚げてくれました。私は途中でそれを引き受け、まだ熱くほてりの残る下腹部に収めてなりを直し、ワンピースのすそを下げました。
一呼吸を置いて、自分でも意外に冷静な声で言いました。
「○○さん、もう行きましょ。二人してこんなに長い時間、みんなのそばに居なければ、他の人たち変に思うわ」
「わかった、そうだね、そうしよう」
両頬にほほ笑みを浮かべながらうなずきました。
「綾さん、今日は僕を受け入れてくれてありがとう。長い間の夢がかなったよ。伯父さんには不謹慎だけど、きっと許してくれると思うよ」
そんな虫のいいことを話しながら、もう一度微笑みました。私も自分達が今までしていた背徳行為に、なんの後悔もないように、つられて微笑み返していました。
「僕はしばらくしたら戻るよ、時間差を作ってね」
その夜は、彼や宿泊の皆さんを葬儀会館に残して帰宅すると、もう主人も姑も床に就いておりました。どんな風を装って顔を合わせれば、と不安だった私には幸いなことでした。その夜は彼との強烈な出来事を思い返して、知らないうちに指で花芯をもてあそんでいました。そこはさっきの行為の名残でじっとりと潤っていました。そのぬくもりを確かめるように行為を終えると、静かに深い眠りに落ちました。
次の日の朝、私は妙にすっきりした顔で、彼の顔を正面から見ることができました。昨夜の出来事は事実ではなく、禁欲生活の続いた私が見たひと時の夢、幻であったかのように。彼も何もなかったように私に微笑み返しました。
葬儀はつつがなく無事終了しました。
彼の帰宅の出発時間が迫ります。
「本当に遠いところをわざわざありがとうございました」
「綾さんこそ大変でした。お疲れ様」
「お香典のお返しは、宅急便で送りますから」
「そんなことにまで気を使わせちゃって、申し訳ありません」
あまりにもそっけない他人行儀な会話が交わされます。
でも私たち二人はお互い、目と目で会話していました。
『綾さん、君を抱くことができてよかった。君は本当に素晴らしかった』
『私も、○○さんのおかげで、私の中の女を思い出すことができました。本当にありがとうございました。私一生あのことは忘れません』
「あっ、そうだ、綾さんこれっ」
2,3歩、帰りかけて振り向いた彼が戻ってきて、そっと紙切れを渡しました。
「それじゃ綾さん、お元気で、今度は49日の法事にまたお邪魔します」
そうして何事もなかったように、再びお辞儀のあいさつを交わし、彼は葬儀会館を後に去っていきました。
私の手の中に紙切れを残して、彼のメールアドレスと携帯番号の書かれた小さな紙切れを。
ハルさん、レスをありがとうございました。懺悔のように書いたこの手記の、味方を得たようで大変感激しました。
この後、彼とは49日の法要の時に、再び結ばれます。それはいつかお話しできればと思います。
※元投稿はこちら >>