そういえば桜ん家の職業って何だっけ?
「どうぞ…」
椿姫さんのお母さんが笑顔でお茶をいれてくれた。相変わらずお綺麗だよな。
「昨日は恩人である君を一人で返してしまい申し訳無かった。偉そうに踏ん反り返ってはいるが、ワシ等も人の親でな、自分家の子供の事だけでイッパイイッパイだったんだ。赦して欲しい」
深々と頭を下げる一同に俺は狼狽えてとにかく頭を上げるように言うしか出来なかった。
「良かった、君に赦して貰えなかったらと思うと胆が冷えたよ」
「当然です!娘の命の恩人を放ったらかす人がありますか!?」
あ…相変わらず奥さんには頭が上がらないのね、楓の親父さん…。
一同に笑いが起こり、場が和むと本題を切り込んできた。
「話してくれるね?祠の中で何があったか…」
『…ハイ』
俺はお茶で喉を潤し、一呼吸すると事の顛末を話し始めた。勿論悪戯したり、あられもない姿を写した事は内緒だけど…。
伝承や奉り方が間違えていた事をメインに祠内の戦いは多少ボカシて話した。だって必要以上に恥ずかしい思いはさせたく無いし、俺の服を着ていた事からも察してはくれるだろう。
『ですからこれ以上この神事を続ける必要は無く、逆に奉り方を変えた新しい方法を模索する方が良いと思います』
本来は部外者となった俺が口を出すべきでは無いだろう。しかしこんなクダラナイ神事で犠牲となる女の子を増やさないで済む筈だ。
「成る程の…ワシも人の親として後世の者に同じ思いをさせ、轍を踏ませる訳にはいかんからの、早急に検討し、これまでの文献や伝承は堅く封印するとしよう」
『有難うございます。それと無躾ながらもう一つお願いが…』
・・・・
『ン…相変わらずコッチの空気は汚いねぇ…』
あれから1ヶ月、あの会談の翌日にも島を出たいと申し出た。もう俺は島の部外者で島の中に住む場所も無い、それはあの朽ち果てた元住居が示している。受験も有るから学校も休めず、生活の基盤はコッチにある事は確かだった。しかし、僅かな間とはいえ島の暮らしに比べ、便利過ぎる環境と時間に追い立てられる都会の生活には多少違和感を覚えているのも確かだった。
たった10日程離れただけなのに潰れた店、新しく入れ替わった店がある。何だ3年も要らないじゃんかと思った。
「2,584円になります。3千円お預かりの416円のお返しになります。有難うございました~」
このマニュアル通りの一方的な口調にも懐かしさを感じなくなった、独り者には有り難いよね…。
キシュンキシュン…
ガラガラガラ…
ガレージにバイクを入れてポストを確認。毎日の通過儀礼を済ます…。
まぁ、この親が残してくれた家があるから助かったけど、一人じゃ広すぎんだよな、元々家族向け住宅だし…。
カタン…
今日もお手紙は無し。来たとしてもDM位だしな。…手紙と言えば昨日村長から3日前に楓達が無事退院した事を知らせる手紙が届いていた。俺が帰った事を知ると怒って八つ当たるやらショックで部屋に閉じ篭るやらふて腐れるやらで大変だったらしい。
ガチャ…
『ただいま…』
って言っても俺だけなんだけどね…。
「あ、お帰り剣人。遅かったね…」
ズザーッ!
「あら、剣君お帰りなさい。もうすぐお夕飯の用意が出来ますからね。でも本当に便利ねぇ」
「椿姫ちゃん、私のパンツ知らない?クマさんのやつ~。あ、剣兄ぃシャワー借りたよ~」
『・・・・何故?』
慌てて村長あてにクレームもとい連絡を入れると、
「いやぁ、入院中に都会の便利さにハマったらしくての、まぁ迷惑かもしれんが呉々も宜しく頼むでの」
と笑って言われてしまった。
もしかして世話を押し付けられた?住所教えたの誰?っていうか鍵掛けてた筈ですが?
「剣君、お二階の開いてるお部屋を使わせて戴きますね」
「明日から同じ学校だよ。一緒に行こうね、剣兄ぃ」
おい、ちょっと待て…。って事は何、完全移住っすか?
「大体、誰か一人で良かったのに全員としちゃうんだもん。姦り逃げは良く無いよ剣人!」
エッ!何それ?聞いてないよ!?
「あんな恥ずかしい姿を見られちゃいましたしねぇ~」
「いつまで[そんな処]に入ってやがる!挿れて良いのは俺だけなんだよッ!だっけ?コレってプロポーズなのかなぁ…?」
覚えてたのか?聴こえてたのか?
「そうそう、それに恥ずかしい写真も撮られちゃったから『ご奉仕しろ!』なんて言われたら逆らえ無いもんね。嗚呼、何て可哀相な私達…(棒読み)」
誰、その極悪人…?ネェ教えて…。
まさか差出人不明な小包からこんな事になるなんて…。こんなの想定外だよ、島を出た意味無いじゃん!!
「不束者ですが末永くお願いしますね、旦那様」
『旦那様!?』
「今度は元気な赤ちゃんだと良いね、パパ」
『パパ~!?』
「もう逃げられないから覚悟してね、あ・な・た♪」
『あ…あなたぁ!?』
てっきり遊びに来ただけかと思ったのに、ひょっとして3人とも……。
「宜しくお願いしま~す♪」×3
【教訓】
伝票はちゃんと確認しましょう。ガク…orz
‐終‐(笑)
―後日談―
「剣君、宮司になりません?」
都会では珍しい程に雲一つ無い爽やかな快晴の休日の朝、騒がしくも安寧で少しだけ異常な日常にいきなり椿姫さんが爆弾を投下した。
『…どうしたんです?いきなり』
島の神事での精密検査と養生が済み、退院した3人が我が家におしかけて来てそのまま暮らす事になったのだが、互いに牽制しあいながら刺激的なハプニングやアプローチはそれなりにあったものの、結構仲良く暮らしていた。
「いえ、将来の事は考えてるのかな~と思いまして」
一緒に暮らし始めて分かったのだが、年上という事もあって清楚で落ち着いた大人のイメージな椿姫さんは結構負けず嫌いで子供っぽい所があるサイレントボマーだった。天然なのだろうがたまにトンでもない事を口にして危険な空気を発生させていた。ちなみに蛭子神を奉る伊城神社の娘で巫女さんだ。
「このご時世ですし、実際の神を救った実力をもってすれば誰も文句は言いませんよ。確かに小さな島ですが宗教法人としての特典もありますし」
確かに運営できているのだからそうなんだろうけど…。
「あーッ!椿姫さんズルい。それなら私だって村の事は自由に出来るし、親戚筋に色々なお偉いさんもいるから各種方面に融通利くよ、お父さんも国会議員だし」
とは言うけど同じ党内でも派閥とか色々しがらみがあって面倒臭いんだよな。特に政界に巣くう古狸どもは祟り神より質悪いだろうし…。
椿姫さんに負けじとお得度アピールをする幼馴染みで村長の孫娘の楓。彼女は幼い頃のイメージそのまま育った感じ、逆に居心地の良さはあるが、変わったとしたら少しだけデレ期に寄ったのかな…って位。
「ウ~ン、パワーアップする度にデザインが変になるんだよね~」
で、いつもなら争奪戦の一角を担う筈の従姉妹の桜はソファに寝転がり特撮ヒーロー物を楽しんでいた。っていうかスカートの裾からクマさんが顔出してるぞ。
「はしたないですよ、桜ちゃん」
「エ~ッ?見られたら恥ずかしい様なボロパン穿いて無いよ。剣兄ぃだから構わないし、むしろ見て!って感じ」
「っていうか、桜はどうなのよ。妙に余裕じゃない?」
俺より2歳年下でこの中では一番若い桜、甘えん坊だが意外と常識派だったりする。背丈に対する巨乳以外は…。良く寝転がっているのも胸が重いからだそうだ。
「え~とネ、私はまだいいかな~って感じ。どちらかというと剣兄ぃとドキドキワクワクイチャイチャラブラブしてる方が愉しいし」
確かに村長でも神社の管理者でも無いんだよな。親戚の割にあまり付き合いがなかったからご両親の職業知らないし…。ただ、俺が事故で両親を亡くした後、色々手配してくれたのが桜の親だと聞いた。事実この家に住めるのも桜んとこが管理してくれていたかららしい。という事は不動産系かな?
「そうだねぇ~自慢する程じゃ無いけど、私となら島に帰ら無くても良いし、色んな技術は身に付くよ。宅建や登記とか不動産管理に特殊車両、あと経営学や興業マネジメントに火気危険物取扱とか。あ、輸入代行や薬品の取扱は駄目って支部長さんに言ってた。まぁ、ある程度は働か無くても不自由はしないけど…」
ちょっと待て、一見普通に聞こえるけど、考え方によっては一部不審なキーワードが無かったか?
『なぁ、もしかして桜ん家って…』
「ウン、だからあまり自慢出来ないの。でもちゃんとルールは守ってるよ、弁護士や警察にも仲良しさんが居るから…」
(・・・Σ(¨;/)/ )
どうりで交流無い訳だ。それならコッチに戻る前の会合で他とは違う妙な存在感があったのも頷ける。…っていうかそんなとこの娘に手を出して良く生きてたな俺。
「心配し無くても、コンクリのお風呂なんてドラマの中だけだから」
「あれ?親戚なのに剣人知らなかったんだ…」
「てっきりご存知かと…」
成る程ね…施設の先生が優しい訳だよ。良く考えりゃ10歳に満たないガキが一人で暮らしていける程世の中甘く無いしな。
俺じゃあ何のお返しも出来ないけど御三家には年賀状と暑中見舞いだけは忘れない様にしよう。
何か桜に毒気を抜かれた形でアピール合戦は終息を迎えた・・・かに見えたが、ここでまたもや椿姫爆弾が投下されてしまった。
「でしたら島に帰って私達全員と婚姻を結べば宜しいのでは?丁度村の過疎化や少子化対策にもなりますし…」
『いやいや、椿姫さん。重婚は法令違反ですから…』
「バレ無きゃ犯罪じゃ無いから大丈夫だよ。あんな僻地の島にワザワザ調査に来ないって」
『ちょ…桜、さっきルールは守ってるとか言わなかったか?』
「だったらいっそ島ごと独立宣言しちゃう?そしたら日本の憲法守ら無くて済むし、私達も取り合いしなくてみんな幸福だよ。剣人だって国王で大神官でハーレムの主人な勇者…格好良いじゃない!」
『それ何てエロゲー?頼むからコッチ(現実)に還って来て、お願いだから!』
何か無茶苦茶な計画で盛り上がってるぞ、この3人は…。
「それではまず簡単で身近な問題から解決していきましょうか…」
チラッ
「簡単だけど深刻な問題だしねぇ…」
チラリ…
「ウンウン、責任重大でひいては世界平和の礎だよね」
ジロリン…
責任重大で深刻な世界平和の何処が簡単なんだーッ!ていうか何故俺を見る!?…ひょっとしてまさか…?
「神様を退けちゃう剣人なら得意分野だし楽勝でしょ?」
ヤッパリかーッ!!キャーッ!助けてー、耳の無い猫型な青い人ーッ!!
・・・・
天国のお父さん、お母さん…今日も僕に昇る太陽は黄色です…。
《息子よ、それは自業自得です…》
‐fin‐
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