「ェ…エエーーッ!?」
まるで分娩台に座ってるみたいに思いっきりM字の大股開きで宙に吊られてるーッ!
カシャッ!カシャッ!
「ちょっ…このバカ剣人!何撮ってんのよッ!?コラ!変な所を写すなーッ!!」
3人とも巫女装束がズタズタでしかもオッパイは零れてるわ!下着は着けて無いわ!と凄まじい姿である。
カシャッ!カシャッ!
「エ~ン、剣兄ぃのおバカ~!」
カシャッ!カシャッ!
「け…剣君、ちょっとおイタが過ぎ…キャアッ!」
『何を言ってるんだ!もしコレが神事に関係無い犯罪だったら状況保存で証拠を残さなきゃいけないんだぞ!今、警察や助けを喚んだらどうなると思う!?』
「そ…それは…」
流石にこの状況を衆人に晒されるのは恥ずかしいのだろう、楓は口籠もってしまった。
チャララン♪
「ちょっ…今の音は何?まさかメモリーカードに保存したんじゃ…っていうか、もう早く降ろしなさいよッ!」
ジタバタ暴れるが蔦の様に絡まった海草はビクともしない。
「ぁ…剣兄ぃ…ダメ…広げ…ァン…」
急に聴こえる桜の艶っぽい声。
「ちょ…今度は何?変な声が聴こえるわよ!?」
『強姦とかされて無いか確認してるんだよ、中出しされてたら大変だろ?』
今度は椿姫さんの下に移動する。
「ヒャアッ!?駄目…そんな所舐め…ハァ…ゆ…指は…入れ…ンン…」
「ちょ…本当は悪戯したいだけでしょ?殴るわよ!蹴り飛ばすわよ!」
椿姫さんも達した様なのでいよいよ最後の一人の前に。
『大人しくしてろよ』
「こ…コラッ!私にはアンタが犯罪者に思えるわよ!ちょ…何処に顔突っ込んで…!?イヤッ!見るな、広げちゃ…アアン…バ…馬鹿、後で覚え…ハァ…ハァ…ァアッ!?」
・・・
『…フゥ、異常無し!』
一通り見回ってからハサミを取り出し海草を握る。
「う…恨んでやる~」
『まぁまぁ、そう言うなよ』
ボコ…
「…ッ!?」
「…ァアッ!?」
「け…剣…人…に…逃げ…」
ボコ…ボコボコ…
『エッ?何か……グフォッ!?』
3人の腹部が急激に膨らみ何か別の生き物が潜伏している様に動き始め、女陰から何かが飛び出した。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ーーッ!!」
その何かの攻撃をモロに受けた俺は壁にまで吹っ飛ばされた。
ズ…ズゾ…ズゾゾゾ…
『な…何だ?アレは…』
ウネウネと頭足類の足の様に動いてるって事は触手…?いや、臓腑みたいだ…。まさか伝承は事実だったのかッ!?
『アレが蛭子神…?』
楓達は白目をむいて口をパクパクさせている。早くしないと3人の命が危ない!
ブンブンと振り回される内臓等を避けて御神刀を拾って構える。
『いつまで[そんな処]に入ってやがる!挿れて良いのは俺だけなんだよッ!』
ダムッ!
「ア゙ア゙ア゙ーーッ!!」
手応えが無い…いくら斬っても刃の無い刀では効果的なダメージを与えられず、誰かが苦悶の叫びを上げるだけだった。
(落ち着け…落ち着け、俺…。よく見て冷静に考えろ!)
霊力で強化されているのか、元からなのか、振り回される触手的な物は天井や壁を次々破壊していく。
(的確に俺を狙えてる訳じゃない、闇雲に暴れている様だ。まるで駄々っ子じゃないか…)
岩陰に隠れ、ネット情報や神話からキーワードを探り思い出す。
骨や皮膚の無い筋肉や内臓だけの赤子…不明な結末…繰り返される神事…復活・再生…駄々っ子の様な闇雲の攻撃…祝詞・呪文・唄…ああ、クソ!何かが引っ掛かってるんだ。オカルトやホラーは苦手でもクイズや推理ゲームは得意だろ?考えろ、考えるんだ…。ダメージが無いなんておかしい、早くしないと楓達が苦しむ…大体何で刃が付いてないんだよこの刀…。
ブウン…ドゴッ!!
『ウワァッ…!?』
触手の1本が隠れていた岩に当たり、また弾き飛ばされた。
カチッ…
『…痛ぅ~』
~ティンティンティティティン~♪
『アレ?この曲は…?』
飛ばされたショックでリュックの中身が散乱していて、その内の音楽プレーヤーのスイッチが入ってしまったらしい。流れているのは先日DLしたオルゴールアレンジの子守唄だ。ユックリと静かな透明感のあるリズム、これのお陰でいつの間にか寝落ちしたんだ。
『…アレ?』
蛭子神が大人しくなってる、チャンスか?
『テェイッ!』
「ア゙ア゙ッ!!」
まただ、触手を攻撃すると誰かが苦しむ様に叫ぶ。
…内臓だけの神…復活…苦しむ楓達…闇雲な動き…。
『…まさかッ!?』
脳に閃いた1ツ目の答え。それは今、俺が蛭子神だと思っているのは実は楓達自身の内臓で、蛭子神は楓達の身体を乗っ取る事で復活しようとしている…だった。
ならこれ以上傷付けられない。とにかく子守唄を聴かせて動きを封じなければ。
ズ…ゾ…ズゾゾ…
思った通りだ。蛭子神は赤ん坊のまま成長が止まっている、だから子守唄に反応しているんだ。楓達の内臓はそれぞれ元の身体に戻って行き、代わりに色が違う蛭子神自身が胎内から現れ始めた。
『良いぞ、その調子だ…』
サ…ササ…サ…
今がチャンスとツールを拾い集め体勢を整える。
子守唄を求める様に3ツの穴から這い出た蛭子神を構成するパーツ群は絡み合って1ツに纏まり、赤ん坊的な形を形成していく。
〔ヴァ…ヴァ…ア゙…〕
カチ…
改めて御神刀を強く握り締めて渾身の突きを放つ。しかしやはりズブズブと沈むだけで効果は薄い様だ。
〔ヴァッ!〕
ブンッ!
『ゲフッ…乱暴なガキだな…ったく、親の顔が見たいぜ…って、ある意味俺か…』
腕の様になったパーツに弾き飛ばされ背中を思い切り打ち付けられた為に全身が痺れて上手く動けない。
(し…しまった…)
御神刀は遥か先に飛ばされてしまっている。だけど子守唄は蛭子神に有効なのは確かだ。今の内に何とか…。
ティンティン…ティティ…ティン…ティ…ン…ティ……ン~♪
・・・・・・
『ゲッ!?嘘、ここでバッテリー切れーッ?』
ボコ…ボコボコ…と蛭子神の胎動が活発になり、怒って浮き出た血管が勢い良く血液を運ぶ。
〔ヴァ…ヴァァーッ!〕
大きく振り上げられた腕が俺を狙っている。
『ぁ…ぁああ……』
ブウォン!
『・・・なんてね♪』
~ティンティンティティティン~♪
止まった筈の音楽が優しく鳴り響く。
〔ヴァ…?ヴァ…〕
蛭子神はキョロキョロと音源を探している様だ…。
『さっき御神刀の切っ先にBluetooth対応のヘッドセットを引っ掛けておいたのさ。良く聴こえるだろ?』
ニヤリと笑ってG-Padをかざす。赤ん坊は母親の耳や羊水に伝わる振動を通して音を聴いているというが、直接自分に届くのだから効果は絶大だ。念の為コッチにも落としておいて正解だった。コレはフル充電して有るから今日1日でも鳴り続けるぜ。
ズズ…ズズ…と内側へ内側へと集まっていく蛭子神の身体は楓達の胎内から臍の緒と胎盤も抜け出て、遂には透明な膜に覆われた羊水球に浮かぶピンク色の球体になった。
シュルシュル…
3人を捕縛していた海草の戒めが緩み、ゆっくりと地面に降ろされていく。
あられもない姿で横たわる3人。本当に俺一人で良かった、こんな姿を誰にも見せたく無いからな…。
『・・・コレも撮っておこうっと』
カシャッ!カシャッ!カシャッ!
一人一人上からと足の間からのアングル、そして秘密の場所のアップという構図をハイクオリティー画質で保存する。勿論メモリーカードにも保存してから抜き取り、ダミーのカードを入れておいた。
『これで良しっと!』
「ン…ンン…」
どうやら楓達が悪夢から醒める様だ。流石にこのまま連れ出す訳にはいかないのでリュックの中からジャケットを取り出し、3人に被せてやる。といっても数が無いので桜には取出した分、椿姫さんには羽織っていた物、楓には…仕方無い、少し汚れたけど今着ているワイシャツで我慢して貰おう。裸よりマシだよな…。
『風邪ひくなよ…楓』
「ン…ぁ…剣…人?」
目を醒ましたがまだ意識がハッキリしない様だ。
「…ぁ…私…どうして…」
虚ろな瞳に映ったほぼ全裸の自分と迫る上半身裸の俺…。
『大丈夫か、楓?怪我は…ゥブッ!?』
「キ…キャアーッ!?イヤーッ!!な…何?何考えてんのよ、このバカ剣人ーッ!!」
・・・・
「何…?どうしたの楓ちゃん…」
「ンン…何ですの?頭がボゥ~っとして…」
二人が最初に目にしたのは捻りを利かせた渾身の一撃を放った裸の楓と顔面直撃の俺…。む…惨くない…?。
「だから、謝ってるじゃない。だって普通裸の男がいきなり迫っていたら手だって出るわよ」
それぞれ俺の貸した上着に袖を通し、モジモジしている。椿姫さんは「剣君の匂いがする…」と服に顔を近付けてウットリしていて、洗剤の香りしかしない自分のと比べて羨ましそうに頬を膨らませていた。
「あ…そ、そうだ!神事は?神様はどうなったの!?」
楓は明らかに話題を逸らそうとしているが、説明は要るだろう。
『神様ならそこに居るよ』
フワフワと宙に浮かぶ球体を指差した。それはゆっくりと淡い光の点滅を繰り返し、まるで寝息をたてている様だった。
「か…可愛い~♪」
「コレが伝承の祟り神ですの?随分イメージが…」
「学校で習った受精卵みたいだね。赤ちゃんの卵か…」
一人ずつ順番に抱き寄せると嬉しそうに輝きを増して、やがて光の粒となって天に還っていった。
『奉り方を間違えていたんだよ。あの子はただ親に愛されたかっただけさ、ただ持っていた力が強すぎたから誤解されたけどね…』
事実、あれだけ暴れたのに楓達の臓腑は無傷だった。方法は間違えていたけど赤ん坊の判断力なら仕方が無いか。しかし、アレが赤ん坊が泣いてるだけなのと同じとは神様ってのは本当に恐ろしいな。
『…フゥ』
思わず溜息が洩れる。
しかし、あの内臓グチョグチョのスプラッターな姿を楓達に見られなくて良かったな。流石の俺もひいたから。出産に立ち会った旦那がEDになる事があるらしいが俺は大丈夫だろうか…?というか楓達の身体の方が心配だ、早めに祠を出なければ…。
『さぁ、帰ろうか。ちゃんと歩ける?出産は凄いエネルギーを消費するっていうし、外の村長達に救急車の手配を頼んでおいたから』
・・・・
「楓ッ!大丈夫だったか?」
「椿姫、無事に務めは果たせましたか?」
「桜、ご苦労でした…」
三者三様、言葉は違えど己が娘の身を案じ、無事を悦ぶ姿は同じだった。
家族の姿を見て安心したのだろう、3人とも崩れる様に倒れ込み、毛布を掛けられて担架に乗せられた。
村の診療所で簡易検査を受けて明朝には本土の大病院で精密検査を受けた後、ベッドの上で寝息をたてている事だろう。俺も一度離れ家に戻り、一晩養生する様に言われた。
ズ…ズズ…ガラガラガラ…
岩壁にポッカリと開いていた祠は俺達が出終わったのを確認すると、その使命を果たしたかの様に崩れ落ちて波間に消えていく。
『…終わった…のか?』
取り敢えず全ては明日だ。誰の介添えも無く、俺は一人山道を上って行った。
・・・・
バシャ…バシャ…
『ぅう…痛てて…』
離れ家に着いた俺はそのまま倒れ込む様に眠りに就いた。朝、俺を起こした目覚ましのアラームは全身に疾る激痛だった。
汚れだけでも落とそうと服を脱ぐと全身に痣があり、血が滲んでいた。
『あのガキ…父親には容赦無いんだな…』
冷たい山の水が熱を帯びた体に心地好いと同時に痛みも呼び起こす。脱ぐ時もそうだが、着る際にもかなりの苦痛を伴った。
カツーン!カツーン!
玄関の呼び鈴代わりの木の板が鳴らされる。誰だ?こんな朝早く…。
「ごめん!剣人君は在宅か?」
この矍鑠とした声は村長か…、それ以外にも数人の気配がある。
『ハイ、只今…』
「昨日は神事遂行ご苦労だった。また孫娘達を助けてくれた事に感謝する」
『・・・・』
奥の間に一堂に会する村の重鎮達。村長とその娘夫婦、つまり楓の爺さんと両親。その隣には伊城神社の宮司である椿姫さんの両親、という事はその反対に座して居るのは桜ん家の親父さん夫婦か。俺も幼かったしあまり交流が無かったから良く覚えて無いが、他の人とはまた違った迫力というか威圧感を感じる。
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