しかし、一番正確に伝承を知るであろう神社の娘、椿姫姉さんの口から告げられたのは恐るべき驚愕の内容だった。
―遥か昔、この国がその形を為す前に二柱の神が産まれた。その兄妹神は禁忌を犯して御子を産んだ。しかしその御子は愛を持たぬまま睦事を行った故に骨も皮膚も持たぬ凡そ人型を成さぬ臓物だけの悍ましい姿だった。夫婦神となった二神は己の罪と穢れを御子と共に葦舟に乗せて海に流した。やがてこの国を創った夫婦神はその小さな島を穢れた土地として組入れる事無く刻が過ぎた。
しかし溢れ出した穢れは若い国にも及び、新しい命は次々と失われ、狂乱する女神と国を救う為、男神は一振の太刀を用いて祟り神を小さな島に封印した。
それがこの島に伝えられる神話であり、祭はそれを準えた物だと…。
『ちょっと待ってくれよ椿姫姉さん!?そ…それじゃあ…』
あまりの恐ろしさに体の震えが止まらない。それが事実なら…。
「そう、剣君はその男神。私達を孕ませ、その赤子を殺すのが役割です…」
馬鹿な…有り得ない。
『…そんな、嘘だろ?俺が…椿姫姉さんや楓や桜を…。出来る訳無いじゃないか!』
「剣君が拒否をするのも自由です。その場合、私達は村中全ての男達から犯されるだけですから。例え血を分けた親兄弟であろうと関係無く、身も心もズタズタになろうと…むしろその方が神話に添った形になりますね。穢れていれば穢れている程、御利益は高いでしょうし…」
椿姫姉さん達を連れて逃げる事も提案したが、返ってきた答えは…。
「その場合は村そのものが滅ぶ事になりますから直接では無いにしろ、家族を殺された事になりますね」
『でも村が滅ぶかなんて保証は…』
いや、保証されているじゃないか…不可思議な事故による俺の両親の死によって…。
「剣君が選ばれた事はせめてもの配慮でしょう。少なくとも自分の意に添わぬ相手ではないのですから。赤ちゃんは残念ですが、流産したものと諦めれば良いと私達は覚悟を決めています」
そんな簡単に割り切れる物なのか?いや待て…子供が産まれるまで8ヶ月はかかる…その間に方法を。それ以前に祭が成立しないんじゃ…?
「3日あればお腹が膨らみ、この世に産まれますよ。赤ん坊は人の子では無いのですから。剣君もその身に浴びた筈ですよ、神の穢れを…」
そんな覚えは…ッ!?あの荷物の煙か?初めから何者かに仕組まれているのか?
「…今日はもう眠りなさい。また明日お話ししましょう」
私達…椿姫姉さんはそう言った。つまり楓も桜も知っていて、その覚悟を決めているって事か…。
かつての対象者となった娘はこの呪われた祭を終わらせる為、異行の子を抱え男と共に村を出ようとした。しかし、逃亡中に追っ手の村人に男は殺され、追い詰められた断崖からその身を投げた。その下は奇しくも葦舟が漂着した場所だったらしい。
今までも何らかの手段はとられている。それでも続いているのは方法が無いという事なのか?
ス…
『・・・』
俺に割り当てられた部屋に戻る途中、障子や襖を少しだけ開けて楓や桜の様子を伺う。彼女達は自分の運命を、俺の事をどう思っているのだろうか…。
ス…タン…
「・・・」
改めて戻った部屋の中は薄暗く、蝋燭の灯がひたすらに不安を煽る。取り敢えず今夜は無理にでも寝よう、混乱し過ぎて頭が働かない。全ては明日からだ…。
ぁう…眠い…。色々な理由で寝不足な割に今日も元気だねぇお前は…。
「剣人…起きてる?」
スス…
「……エッ?」
『・・・』
「キャーーッ!!」
「…ったく、朝からとんだ災難に遭ったわ」
『朝なんだからしようが無いだろ!』
楓達との生活第1日目の朝は微妙な雰囲気から始まった。
食卓には早起きして準備してくれたのであろう純和風な朝餉が並んでいる。
『…!?美味っ!』
確かに向こうでは一人暮らしでロクな物食って無かったけど、味噌汁、浅漬け、ご飯と派手さは無いがどれも一流料亭にも負けないであろう逸品。聞けば自家製だそうな。椿姫さんも桜も自分の自信作を嬉しそうにアピールしていた。
『んじゃ、次はこの煮物を…』
「…あ!?」
ガリッ…
何だコレ?独特な食感と素材本来の持ち味を活かしに活かしまくったある意味究極に素朴で個性的な煮物は…。
「・・・」
先の二人が〔私じゃないよ〕と言いたげに視線を逸らしている。という事は…。
「・・・」
俺の視線の先に一人俯いて小さくなっている娘が一人。やっぱり楓か…。相変わらず料理下手なんだな…。
「な…何だよ、その憐れみの視線は…」
『…別に』
ガリ…ボリ…シャリ…
何事も無かった様に個性的な煮物を口へ運ぶ。
「む…無理して食わ無くて良いよ」
『無理はしてない、俺が食いたいから食ってるだけだ。それに俺が作るより遥かにマシだしな…』
噛む力が弱くなっている都会人には良いトレーニングになるし、噛み続けている間に不思議と素材の旨味や甘味が感じられてきた。
ゴリ…
「……剣人、つ…次は頑張るから…ね」
『ああ…』
他の二人も少し顔を顰めながら食べ始め、いつしか食卓は笑顔に溢れていた。
一息ついた所で改めて3人を見ると全員巫女装束を纏っている。本職(?)の椿姫さんは当然として何故楓や桜まで?
「これは神事の一環だからね」
少し気恥ずかしそうに答える楓。記憶の中では男の子みたいな服しか着てなかったし、ちょっと新鮮かも。
「……剣人、……目がヤラシイよ」
『そうか?なら楓が女らしくなったって事だろ?』
「ば…馬鹿ッ!?」
顔を真っ赤にして逃げてった。
「…剣兄ぃ、ナンパ?」
『ぅおっ!?』
ある意味一番驚きなのがこの従姉妹の桜だった。島を出る時はまだ村の分校の初等科にも上がって無かったから仕方が無いが、10年という時の流れは少女に劇的な変化を能えていた。
俺の腕に抱き付き、上目遣いで甘える仕種は変わらぬ物の、肘に伝わる弾力は桁違いだった。
「ネェ、剣兄ぃ…私だって剣兄ぃの赤ちゃん産めるよ…」
一番気安く接しられる楓にヤキモチを妬いたのか、小悪魔的にかけてくるモーション。しかし、それは俺に課せられた使命、島へ戻ってきた理由を否応無く再認識させる。
(そうだよな…俺がやらなきゃこの桜も…だけど…)
時間はあまり無い。何か良い手だてを探し出さなければ…。
シャカシャカシャカ…
ヘッドセットから洩れる音。あっちでは定番ツールとなった小型音楽プレイヤーでお気に入りの楽曲を聴いている。こんな時代に取り残されたような孤島では時間を持て余すだろうとノーパソと共に持っては来ていた。が、逆にやるべき事は意外な程に多かった。まさか、未だにガス菅が通って無かったとは…。
そういえば俺を運んでくれた業者の船の荷物にはプロパンガスのボンベも有ったし、発電機用のガソリンが入ったポリタンクも有ったっけ…。つい10年前に住んでいた場所なのにすっかり忘れていた。
カツーン!カツーン!
釜戸や風呂に使う薪を割るのをかって出たものの、意外と重労働だったのには驚いた。カチッと捻ったり押したりするだけで済んでしまう都会とはえらい違いだ。
ピー…ピー…
『あ…もうバッテリー切れか、充電しとかなきゃ…』
木の枝に引っ掛けておいたソーラーパネル式の充電器に接続する。これで夕方にはチャージ完了出来るだろう。
「お疲れ様、ちょっと一休みしましょうか…」
保温の効く魔法瓶タイプのポットと手作りの饅頭を手に椿姫姉さんがやって来た。かつてガキながらも淡い恋心を抱いていた椿姫さんも神事の対象の一人、そう思うと複雑な心境だ。
「まだ迷ってる?」
俺は事此処に及んで3人を傷付けずに済む方法を探している。
「私達は剣君に抱かれる事を望んでいるのよ。だから貴方はそれを叶えてくれれば良いだけ…ネ」
不意に塞がれた俺の視界、感じるのは心を惑わす甘い香りと身体を熱くさせる柔らかな感触。
「…ン…ンン」
『ン~!?ンンン~!』
キ…キスされた?椿姫さんにキスされたーッ!
「今夜…待っていますね」
思考停止…身体停止…、元気に活動中は異常な早さで血液を駆け巡らせる心臓と他、ごく一部分。頬を染めて去り行く背中を呆けたまま見送った。
ボカッ!!
『~っテエーッ!?』
「何ボ~っとしてサボってんのよ!やる事は沢山有るのよ」
『え…えっ?姦る事…って』
バキッ!
撲った!この人、また薪で撲ったよ!
「馬鹿言って無いで手伝うから早く運びなさい。殴るわよ!」
もう撲ってるじゃないか!しかも2回も…。
昔からこの調子なんだよ、せめてソコは変わってくれ。
ボソ…
(凶暴男女…貧乳怪人…)
ピキッ…
「おやぁ~、こんな所に貧相な薪がまだ残ってたわぁ~」
ブンッ!!
楓が振り下ろした鉈が俺の脚の間の地面に突き刺さっている。
『あ…危ねぇな!使い物に為らなくなったらどうすんだよ!?』
「そうなったらスボイドで汁吸って入れるわよ!」
『汁…って?俺は足の話をしてんだけど…』
「~ッ///!?」
あ~ぁ、耳まで真っ赤だよ…。ホントからかい甲斐のあるヤツだな。
「と…とにかくさっさと戻りなさいよね」
『あ、待て…よ…?』
パサ…
1.引き留めようと袴を掴む
2.少し緩んでた袴の帯が解ける
3.当然、袴が落ちる…
4.何故か眼前に拡がるイチゴ畑…
「ーーッ///!!」
バキッ!ゴキッ!ボクッ!
『ま…待て!ワザとじゃ…イテテ…だから…イテ…ちょ…』
「スケベッ!変態ッ!!フンッ!」
○○乱舞の如く殴って行きやがった…。ホントに抱かれるつもり有るのか?アイツ…。
『オ~イ、今はもう縞パンだ…ぞ』
メキ…
薪が顔面直撃!ナイスコントロール…。
(楓としなきゃいけない時は前戯無しでしてや…る)
バタリ…
『あ~あ、酷い目にあった…』
割り終えた薪を納屋へと収めると昼を過ぎていた。本当に昔の人は大変だったんだねぇ…。
「剣兄ぃお疲れ~。ちょっとコッチに来て」
楓にそろそろ帰って来ると聞いていたのだろう。縁側に薬草を浸したお湯とタオルが用意されていた。こういう細かな気遣いが桜の良い所なんだよな、ホント誰かさんも見習って欲しい。
「…クシュッ」
『桜、風邪?』
「私じゃ無いよ~」
どうやらクシャミの主はその[誰か]さんらしく、本当に起きるんだなと驚いた。
「んじゃ、剣兄ぃ服脱いで。私が拭いてあげる」
『い…いいよ、自分でするから』
「ハイハイ、駄々こねて無いでイイ子だから早く脱ぎ脱ぎしましょうね」
園児扱いかよ?ちょっと恥ずかしいが従った方が良さそうだ。
「っしょっと…」
適度に搾られたタオルが汗でベタついた肌を拭う度にスゥっとして気持ちいい。ミントも混ざっているのかな?
「ホェ~、剣兄ぃ結構良い身体してるんだねぇ」
『ジロジロ見るな、恥ずかしいだろ』
バイトの賜物だな、結構体を使う仕事が多かったから。隆々とまではいかないがお陰でソフトマッチョ位には鍛えられている。
プニョン♪
プニョンプニョン♪
桜が動く度に何か柔らかくて温かい物が背中に当たる。しかもダイレクトに伝わってくる。
『さ…桜?何か当たってるんだけど…』
「エヘヘ…さて何でしょう?
1.オッパイ
2.ボイン
3.乳房…」
『全部同じじゃないか!』
反射的に振り返ろうとする頭をグイッと固定される。
「まだ見ちゃダメ!」
そういわれても見え無い分、全意識がソコに集中し、少し硬さの違う部分がある事すら感じ取ってしまう。ヤバイ…色んな所が色んな意味でヤバくなってきてる。どうか桜に気付かれませんように…。
「ホェ…?」
胸板から腹部に廻されたタオルを持つ手が止まる。
「剣兄ぃ…?」
『な…何だ?』
「ソコはタオルがイイ?手拭いがイイ?それとも…」
タオルしか持ってない筈なのに手拭いってどういう意味…?
背後に視線を流すと好奇心で目をキラキラさせた桜が指を輪にして上下に動かしていた。[手]で拭うって意味かよ!
『バ…いい加減にしろ!』
タオルを引ったくると背中を押して桜を追い返した。
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